第十二話
鈴音のマンションから俺のアパートまでは普通に歩くと二十分ぐらいの距離だが俺は遠回りして走って帰る。
ジョギングではなく本気のランニングで一時間ぐらいかけて帰るのがいつもの日課だ。
その気になれば三時間ぐらいは走り続ける自信があるがそこまでストイックに走るつもりはない。
隠キャモブの本気走りはなるべく見られなくないので大学からなるべく離れるルートを走るようにしている。
途中、コンビニを見つけ水を買おうと立ち止まる。
入口の横でゴミ箱に入っていたゴミを出して処理しようとしている女性店員のそばを通ろうとしたときコンビニ出口からガラの悪い三人組の若い男が出て来てその女性店員にぶつかった。
「きゃっ」
女性店員が前のめりに倒れそうになったのを見て俺は思わず体を滑り込ませ受け止めた。
処理しようとしていたゴミが俺の着ていたパーカーに降りかかる。
水分のある生ゴミだったようでパーカーが汚れたが俺は構わず女性店員に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。ってすみません!服が汚れて…」
「気にしなくていいよ。怪我とかないかな?」
「アタシは大丈夫ですけど…」
「よかった。こっちは服がちょっと汚れただけだから大丈夫だよ。」
そこでぶつかった男たちが声を荒立てて話しかけてくる。
「おいおい、気を付けろよ。怪我とかしてたらねーちゃん看病見てくれんのぉ?」
「チッ」
俺は舌打ちをし女性店員に小声で話しかける。
「こういう連中に顔覚えられたら面倒になるかもだから俺の後ろでなるべく下向いてて。」
「えっ?」
男たちと女性店員に間に立ち胸を張る。
「危ないでしょ。女の子が怪我したらどうするんですか?」
「なんだぁ?女の前だからって調子乗ってんのかぁ?ちょっと向こうの公園で一緒に遊ぶかぁ?」
そう言って俺に着いてくるように促し歩き出そうとする。
正直助かる。
ここでこいつらをボコるのは目立つので人気のないところに連れていかれるのはむしろラッキーだった。
が、そこでコンビニから店長らしき人物が出てきた。
「どうかしましたか?トラブルなら警察を呼びますけど。」
「なんでもねぇよ。」
男たちは俺に向かって、
「お前の顔は覚えたからな。」
と言って去っていった。
よくわからんが警察沙汰になるのは嫌なようだ。
俺は汚れた服でコンビニに入るのも躊躇われたのでそのまま帰ることにして歩き出したがそこでさっきの女性店員に声を掛けられる。
「あ、あの、すみませんでした。向こうにちょっと歩いたらコインランドリーがあるのでそこで服を洗ってください。パーカーだけなら一時間ぐらいで乾燥まで終わると思います。アタシのバイトもあと一時間で終わるで終わったらすぐ行きます。洗濯代払いますので。」
「いいよ。これぐらい…」
そこで店長?に声を掛けられコンビニに入っていく。
「お願いします。待っててください。」
俺は返事が出来ないまま取り残されるのだった。




