第百四話
ホテルの部屋に戻ってきた俺は再びベッドにダイブした。
目を瞑りさっきの事を考える。
伊佐の告白、旅行中は返事がいらないと言っていたが逆に言えば旅行が終わったら返事をしないといけない。
真剣に考え、結論を出さないといけない。
俺にとっては気持ちをはっきりするための旅行でもあるので残りの時間もやることは変わらない。
しばらく考えていたが三人からの連絡はない。
俺はメッセージを送っていたし、伊佐が部屋に居なかったことは他の二人もわかっているだろう。
もしかしたら三人でその辺りのことを話しているのかもしれないと思うと俺からアクションを起こす気にはなれなかった。
今日はこのまま女性陣とは別行動になるかと思っているとスマホにメッセージが入った。
『こっちで飲むから来なさいよ。』
鈴音からのシンプルなメッセージだった。
俺は一度顔を洗って表情を引き締める。
俺はポーカーフェイスが得意だ。
自分をコントロールして他人に感情を読ませないようにする。
子供の頃からやってきたことなので問題ないだろう。
伊佐がどうなのかはわからないが。
俺は部屋を出て隣の部屋のドアをノックする。
「どうぞ。」
鈴音がドアを開けてくれたので俺は中に入る。
部屋にあるデスクとセットになっている椅子があったので俺はそれをテーブルの近くに持っていき座ることにした。
三人はソファに並んで座っている。
もうすでに食べ物と飲み物が並んでいる。
「優也さんも冷蔵庫から飲み物取ってきて下さいね。」
俺は伊佐の言う通り冷蔵庫でビールを取り出し椅子に座る。
「じゃあ、二日目もおつかれ。かんぱーい。」
鈴音が音頭を取って飲み会が始まった。
「彩乃はなに飲むの?」
「お酒だと寝ちゃうから最初はジュースにしてるよ。」
「そうなんだ。まあ酒を飲むのは後半のほうがいいかもね。」
「うん。昨日はすぐ寝ちゃったから。」
飲みながら伊佐を見ていたがいつもとあまり変わらないように見える。
これなら明日からも普通に旅行を楽しめそうだ。
「鈴音さん、明日はどうする予定ですか?」
「沖縄の大定番に行く予定よ。」
俺は前に鈴音と旅行の話をしたことを思い出したので何処に行くのかすぐにわかった。
答えようとしたが彩乃も思い付いたようなので俺は答えるのを止めた。
「もしかして美ら海水族館かな?」
「正解。やっぱり沖縄に来たら外せないでしょ。」
「やっぱり。彩乃、マナティーが見てみたい。」
「いいですねー。アタシも行ってみたいと思ってました。でもやっぱり美ら海水族館といったらジンベエザメですかね。」
「優也も前にジンベエザメが見たいって言ってたし、行くしかないでしょ。」
「言ったな。明日は他に予定あるのか?」
「かなり広いらしいし何時まで居るかわからないから他は決めてないわよ。早めに出ることになったらその時また考えたらいいかと思ってるわ。」
「ですねー。夜に行くお店とかまた調べてみますね。」
鈴音の持ってきていた旅行雑誌やスマホでいろいろ調べながら行きたいところをみんなで話しながら飲んでいると日付の変わる時間になっていた。
「もうこんな時間だな。そろそろ俺は部屋に戻るよ。このまま遅くまでこの部屋に居るわけにはいかないからな。」
「そうね。私はそろそろ寝ようかな。」
「アタシも眠たくなってきたんで寝ます。優也さんは戻って寝るんですか?」
「もうちょっと飲んでから寝るかな。ビールとつまみ持ってくな。」
「ええ、飲みすぎて明日、飲酒運転にはならないようにね。」
「そんな遅くまでは飲まないよ。」
みんなでテーブルを片付けて俺は自分の飲み食いする物を持って部屋に戻ってきた。
テレビを付けて名前も知らない芸人の名前も知らない番組を見ながら飲むことにした。
そういえば彩乃は最後まで酒は飲まなかったなと思っているとスマホにメッセージが届いた。
『優也くん、まだ起きてる?』
送ってきたのは彩乃だった。
『まだ飲んでたから起きてるよ。どうかした?』
『話したい事があるんだけど今からいいかな?』
『いいけど何処で話す?』
『下のロビーラウンジに来て。』
『わかったよ。』
メッセージをやり取りを終えて俺は部屋を出る。
エレベーターで下に降りるとすでに彩乃が待っていた。
「優也くん、遅くにごめんね。」
「いいよ。それでどうしたの?」
「…あのね、優也くんはこの旅行で自分の気持ちを確かめたいって言ってたよね。」
「うん。」
「それって彩乃たち三人の誰を好きかってことだよね?」
「うーん…、それを知りたいって思ってたんだよね。三人とも友達として好きなのは間違いないんだよ。ただそれ以上に恋愛として好きなのかは自分でもわかってなかったんだ。」
「そうなの?」
「うん。俺にも彼女が居たことはあるんだけどその時に他の女友達と遊ぶことを悪いことだとは思わなかったんだよね。それに彼女が俺の居ないとこでなにをやってるかとか気にもならなかったんだ。たぶん俺の感覚って普通じゃないんだよ。彼女からは『好きじゃないんでしょ?』って言われたんだけど好きだったのは間違いないんだよ。ただ友達以上の気持ちがあったかと言われるとわからないんだよね。」
「彩乃たち三人とも友達としての好き?」
「……今は………」
「…そうじゃない人も居るんでしょ?」
「……かもしれない。」
「そっか。その相手は彩乃じゃないね。」
「……なんでそう思うの?」
「優也くんが彩乃の事が好きなら今の話を彩乃にしないと思う。それにさっきわかってなかったって言ってたよ。だから今ならわかってるんじゃない?」
「…………」
「そっか。彩乃はフラれちゃったのかな。」
「……ごめん……」
「謝らないでいいよ。一つお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「なに?」
「出来れば優也くんとはこれからも友達としてスイーツの試食とか彩乃の夢を応援してほしいの。彼女になれなくても優也くんに応援してもらえたら頑張れると思うの。ダメかな?」
「そうだね。もし俺が本気で誰かと付き合ってもそれは続けるよ。ただ友達としてだから二人で遊ぶのとかはなしにしないといけないけどね。」
「付き合うならそれが当たり前だよ。彩乃の誘いに乗って二人で遊ぶことになったら彩乃は怒るよ。」
「自分で誘って怒るの?」
「うん。話したいことは話せたし彩乃は部屋に戻るね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
エレベーターに向かう彩乃を見送りしばらくして俺も部屋に戻ることにした。




