第百話
飲み始めてすぐに気になったことを彩乃に聞いてみた。
「そういえば彩乃は酒強いの?彩乃と飲んだことなかったよね?」
「うん。飲んだらすぐに眠たくなっちゃうからなるべく飲まないようにしてるの。」
「今日は大丈夫?」
「うん。たぶんすぐ寝ちゃうと思うけど側にベッドもあるし、このメンバーで飲めることなんて滅多にないから。」
「ですよねー。アタシも自分で言うのもなんですけど三女神で飲めることになるとは思いませんでした。」
「悪いな。余計な奴が居て。」
「なに言ってるんですかー。優也さんが居なかったら三人がこうして一緒に旅行したり飲むことなんてなかったと思いますよ。」
「うん。彩乃もそう思う。」
「優也がなにかしたわけじゃないけど優也が居なかったら接点はなかったでしょうね。」
「彩乃は優也くんに助けてもらったよ。」
「アタシも同じですよ。優也さんと仲良くなるきっかけはアタシを庇ってくれたことでした。」
「こいつは無愛想で他人に興味がないふりしといて本当は困ってる人をほっとけない奴だからね。」
三人でうんうんと頷きあっているが俺はそんなにいい奴じゃない。
出来もしないことはやらないし無理して助けるようなこともしない。
自分でなんとか出来ることならやるだけだ。
「誉めてもなんもでないぞ。俺は正義感なんて持ってないしやりたいようにやるだけだ。」
「それで助けてもらったって人が居るんだからいいじゃない。」
彩乃は無言で、伊佐は「ですよねー。」と言いながら頷いている。
これだけ言われるとなんか居心地が悪い。
俺は飲みかけのビールを一気飲みすると冷蔵庫に次のビールを取りに行く。
俺が一度離れたことで話題が変わり明日からの予定の話になっていた。
「午前中には出発して昼は伊佐ちゃんの調べたお店で食べましょう。昼からはアクティビティを予定してるわ。終わったらホテルに向かうわ。」
「アクティビティってなにするんですか?」
「バナナボートとSUPの二つがセットになってるプランがあったからそれを予約したわ。」
「おー、凄いですね。どっちもやったことないから楽しみです。」
「……彩乃も楽しみ……」
彩乃は今にも寝そうになっていた。
寝てしまう前にベッドに連れて行くことにした。
「…ごめんね…おやすみ…」
「謝ることないよ。おやすみ。」
「彩乃さん、おやすみなさい。」
「おやすみでーす。また明日からも楽しみましょうね。」
ベッドで横になった彩乃はすぐに眠りに落ちるのを確認してテーブルに戻った俺たちは飲み直すことにした。
「優也さん、お風呂上がったときに彩乃さんとなに話してたんですか?」
「あー、まあちょっとな。」
「えー、言えないような話をしてたんですか?」
「そんことはないけどな。」
旅行の目的は彩乃には思わず話してしまったが同じ事をこの二人に話すと変に意識してしまう気がする。
「この前ちょっと女の子たちと遊んでな。その事を話してただけだよ。」
「なんですか、それ?アタシは聞いてませんよー!」
「言わなきゃいけないってことはないだろ。」
「教えてくれてもいいじゃないですか。」
「相手も居るんだからペラペラ喋ることじゃないだろ。」
「もしかして里佳たちのこと話してたの?」
「……ああ、お前の友達って言ってたけどなんか話したのか?」
「私はちょっとしか話してないわよ。彩乃さんの友達がそういう話好きらしいからそっちから聞いたんじゃない?」
「ちょっとでも話すなよ。」
「アタシだけ知らないじゃないですかー。教えて下さいよ。」
「告白されたんだよ。」
「さっきの里佳って人にですか?」
「いや、里佳の妹なんだけどな。俺のバイトの後輩でもあるんだよ。そのコに告白されたけど断ったんだよ。それでその姉妹とはこれからも友達ってことになったんだよ。」
「なるほど。でも里佳さんは最初から友達だったんですよね?」
「そうだけど改めてそれからも友達って話しただけだよ。」
「……あー、なんとなくわかりました。やっぱり優也さんってモテますよね。」
「そうなのよね。こいつは隠キャなふりしてるくせにモテるのよね。」
「なんだそれ、俺なんてそんなにモテないだろ。」
「あんたが謙遜すると嫌味に聞こえるわよ。」
「……じゃあどうしろってんだよ。俺はモテるなんて言うつもりはないぞ。」
「事実を言っただけだしどうしたらいいかなんて私は知らないわよ。」
無責任な発言をする鈴音だった。
これ以上この手の話を続けるのはよろしくない気がする。
「もうこの話は止めようぜ。そういえば明日のアクティビティは何時からなんだ?」
「予約は一時からにしてるわよ。場所は本部町だからたぶんここから一時間ぐらいだと思うわよ。」
「本部町ならアタシが気になったお店があるから昼はそのにしましょう。」
「なら十一時には出発したほうがよさそうだな。それまでには海から戻って準備しないとな。」
「そうね。じゃあ朝は早めに食べて海に行かないとね。」
「ですねー。アタシ起きれなかったら困るしそろそろ寝ようかな。」
「そうね。私も寝ようかな。明日の夜も飲めるし今日はお開きにしましょうか。」
「だな。明日もあるし今日はもう寝るか。」
「優也さん、アタシと一緒に寝ますか?」
「寝るか!変なこと言い出すなよ。鈴音も引くな。」
鈴音を見ると白い目で俺たちを見ていた。
伊佐の発言は冗談だと納得させるのに余計な時間がかかってしまったがその後テーブルを片付けて寝ることにした。
こうして三女神との旅行の初日が終了した。
移動もあって疲れたが楽しかったので俺は心地よく眠りに落ちていった。




