第13話 異常者の快楽 承
1週間以上遅れてしまって申し訳ないです(´;ω;`)
「止まった…か?」
「そうみたいですね…」
エレベーターが落下した時は焦ったが、途中から急に減速し、ついに止まった。
どうやら殺すのが目的ではなかったらしい。恐らく街で消えた人はここに送られていたんだろう。
「エレベーターは…動かないな。壊れたか?」
「どうでしょう。なんとも言えませんね。」
副団長がボタンを押したり叩いたりしているが、動く気配はない。
壊れたか、もしくはまだ使うのかは分からないが、俺たちはここから1歩も出れない。
「…お、開いたな。」
そのまま数分じっとしていると、エレベーターの扉がゆっくり開いた。
外には一本道の廊下が続いている。内装はやはりホテルだ。
なんとなく、本当になんとなくだけど、【神覚】でも感じ取れるか否かレベルで死の匂いが漂っている気がした。
「…出ますか。」
「そうだな。」
なんとなく警戒しちゃったが、どうせ気のせいだ。進むしかない。
外に出ても特に何もなく、エレベーターが閉まることもなかった。長い廊下が続いているだけだ。
そのまま黙って歩き続けると、曲がり角が見えてきた。
「角曲がったら即死とかないですよね。」
「さすがにないだろう。わざわざここまで運んだ理由がない。」
半分冗談、半分本気のつもりで言ったが、普通に考えれば副隊長の言う通りだ。殺すつもりならエレベーターをそのまま落下させればいいんだからな。
角を曲がると、特に変わらない廊下、そしてふたつの看板があった。
「嫌な予感しかしないな。」
副団長の言う通りだ。わざわざ用意する時点でろくなものじゃない。
1つ目の看板には、以下の内容が書かれていた。
『【快楽会】開催のゲームへようこそ!
ここは【快楽会】本部の地下100階だよ!今から参加者には楽しいゲームをして貰うよ!
そして、その得点に応じて行ける階が変わるよ!ゴールは地上100階!頑張ってね!』
「デスゲーム系か?」
「そうっぽいですね。」
なるほど。とにかくゲームクリアして1番上まで行けということか。200階も上がらないとダメとかめんどくさいな。
2枚目の看板の内容は、以下の通りだ。
『第1ゲームは【ランランランナウェイ】!!難易度は5段階中2だよ!
ルールは簡単!障害や罠から逃げてゴールに到達するだけ!制限時間は30分だよ!
満点をとったら一気に地下50階!クリア出来なかったら串刺しだよ!頑張ってね!』
「ランナウェイ…逃げろってことか。」
「ラン3つもついてますよ。どんだけ走んなきゃダメなんですかね。」
運動は苦手だ。まあ5段階中2らしいから、そこまでむずかしい物じゃないんだろうな。それに、罠なら俺が見つけられるから楽勝かもしれない。
しかし、串刺しか。やっぱりエレベーターを出た時に感じた死の匂いは気のせいじゃなかったらしいな。
「なんかこれ…変じゃないか?」
「…?そうですかね?」
副団長はルール説明に違和感を感じたらしいが、俺は全く感じない。強いて言うなら串刺しが嫌だってことぐらいだ。これが知能指数の差か。
「いや、私も言語化できる訳じゃないんだ。あまり気にしないでおこうか。」
「そうですか?ならいいんですけど。」
副団長が思いつかないことを俺が思いつけるはずはない。俺はサポートに徹しよう。
そこで、壁から30:00という数字が映っているモニターが出現した。これが制限時間か。
数秒すると、29:59となった。もうスタートらしい。
「…!カウントが始まったな、とにかく走ろう。」
「はい!」
俺と副団長は、どこまでも続いているように見える廊下を走った。
数十秒走ると、魔力が固まってる場所が見える。罠だな。
「副団長!あそこ罠です!」
「よし、わかった!」
「ちょっ」
副団長は、俺が教えた罠の場所に突っ込んでいった。
どうやらスイッチだったらしく、通路の奥から矢が飛んできて副団長を貫いた。しかしドMには効かない。なんせドMだからな。
その証拠に、副団長は貫かれた時に矯正をあげていた。悲鳴をあげてくれ。
「次は?!」
「え、えーっと、あそこです」
「了解した!!!」
「…」
だめだ、この人どんどんテンション上がっちゃってるよ。
副団長が俺が教えた場所に行くと同時に、奥から大岩が転がってくる。
このままいくと圧死だが、あいにくこっちにはドMがいる。
副団長はその場でうつ伏せになり、大岩にひかれようとしていた。
「ぬぅ…うおお!!これは、悪くないな!」
「あ、そう…ですか。」
副団長は大岩に押しつぶされるのが意外と気持ちよかったらしい。知らんがな。
岩もドMには勝てなかったらしく、副団長から先に進めない。
数十秒後、満足した副団長が岩をぶっ壊し、再び先に進むことが出来た。
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「…おかしくないですか?」
「ああ、楽しいな。」
「そういうことじゃねえよ?!」
ドMの感性と一緒にするんじゃねえ。
走り出して20分ほど経ったが、その罠の数と質は、とても難易度2とは思えない。
最初は古典的で回避も比較的容易い物だったが、途中から明らかに殺しにかかってきているものばかりだった。
通路の奥から魔獣の群れが襲ってきたり、吹雪が設置されていたりと、その頻度も内容も、明らかにおかしい。
そして副団長がそれに喜んで突っ込んでいくのも、全部蹴散らせるのも、おかしい。
そして何より、全くゴールが見えてこないのだ。
「ただまあ、おかしいのは同意だ。全く、これでは逃げると言うより乗り越え…」
「?どうしました?」
副団長は話している途中で急に止まり、何やら考え出した。
「ランナウェイ…逃げる…罠から逃げる…?…いや、まさか……」
副団長は本当にどうしたんだ。もう10分もないからさっさと行かなきゃならないんだが、真剣に考えているから声もかけれない。
そのまま数十秒考えた副団長は、なにかに思い至ったらしい、音がなりそうなほど勢いよく顔をこちらに向ける。
「そうだ!トイ君、私達はずっと勘違いしていた!」
「ど、どういうことですか?!」
勘違いとは、なんの勘違いだろう。ルールに難しいところはないし、文量もそうなかった。変なところは特になかったと思う。
「説明は途中でやるから、今はとにかく─────引き返してくれ!!」
「え?!なんでですか?!」
「いいから行くぞ!」
「あ、ちょっと!」
副団長は俺を抱えて、逆方向に走り出した。ここまで来たのに、なんで引き返す必要があるんだ。串刺しは嫌だ!
副団長は俺を荷物のように抱えたまま、話し出す。
「あの文にはおかしいところがあった。『障害や罠から逃げる』の部分だ。罠から逃げるって表現は普通しないだろう。どちらかと言うと罠を突破するだ。」
「…!ああ、確かに。」
そういえばそうだ。罠から逃げるという言い回しは少し違和感がある。
ただ、それは書き手の文章力がなかった、あるいは特に何も考えず書いただけの可能性はあるから、引き返す決定打にはならない。
「だが、それが間違っていなかったとしたらどうだろうか。」
「どういうことですか?」
「ああ。思い出して欲しい。吹雪以外の罠と障害は全て、通路の奥からやってきていた。これは、俺たちがやってきた方向に逃げると、『罠から逃げる』という構図になるんだ。」
「…!」
なるほど。確かにそうだ。だが、ルール説明にはゴールは奥───いや、書いてないんだ。ルールにはゴールを目指せとしか書いていなかった。
でも、まだ甘いような気がする。ここまでの話は全て、憶測の域を出ない。
「次が難易度だ。」
「難易度?」
「俺達は、自分で言うのもなんだが実力がある。あの看板には2人ではなく参加者と書かれていた。その上一般人が消える噂もある。つまり、俺たち以外にも対象がいるんだ。だから俺たちを基準に作ってはいない。にもかかわらずゴールが一切見えてこない上に、出てくる罠もそこそこ凶悪だ。とても一般人に回避できるとは思えない。これが2だと思うか?」
それは俺も思った。だが、【暗界】には常軌を逸した存在が多数いるんだ。そいつらが自分を基準にして作っちゃっただけって可能性はある。
けど、筋は通っている。十分引き返す理由にはなりそうだ。
「実はもう1つ理由があるんだが、聞くか?」
「…?ええ、もちろん。」
ここまで来て聞かないという選択肢があるのだろうか。あるいは、そこまで大した理由では無いのかもしれない。
「ランナウェイはな、『逃げる』という意味の他に───『楽勝』という意味があるんだ。」
「ははははっ!それは確かに、引き返す必要があったかもしれません。」
楽勝、か。
もし副団長の言う事が本当なら、ゴールは看板の前───エレベーターということになる。これなら罠にも当たらず、楽勝でゴールだ。
エレベーターは俺達が降りても開きっぱなしだった上に、得点に応じて行ける階が変わるという趣旨にも合っている。
これは引き返すのが正解だったかもしれない。
「……間に合いますか?」
「それが不安だな。ここに来るまで20分以上かかっている。…仕方ないか。」
そう言うと副団長は俺を抱えたまま【魔纏】を発動した。
俺が一緒に走るとどうしても速度が遅くなるから使っていなかったのだ。
しかし、俺は今抱えられているから邪魔にはならない。
急激に何倍も速度が上がり、景色がものすごい速さで変わっていく。リール回転みたいだ。
「あ!看板見えました!」
「よし!突っ走るぞ!」
走り始めてから5分ぐらいすると、ついに看板が見える。
看板を横切る際にカウントを見ると、残りは2分になっていた。ギリギリ間に合うか。
ここからエレベーターまではそこそこ長い。副団長の身体能力でも到達できるかは怪しいところだ。
風のような速さで走っていると、エレベーターが見えてくる。
エレベーターの前には───ゴールの看板があった。
「…!ゴールって書いてあります!」
「っ!!」
さっきよりもさらに速くなった副団長は衝撃波を撒き散らしながら走っていき、エレベーター手前で減速、そのまま中に入ることが出来た。これで串刺しは回避だ。
入って数秒後、扉が閉まり始めた。ギリギリじゃねえか。
「はぁ、はぁ、はぁ、危なかった…」
「お疲れ様です副団長。助かりました!」
「はぁ、はぁ、ああ、気にするな…」
死ぬほど疲れている副団長を労う。
今回は本当に死ぬほど危なかった。ある意味難易度2ではあるが、ある意味ではもっと難しかった。
「くそ!」
「?!ど、どうしました?」
落ち着いてきた副団長が、突然壁を殴った。
こんな情緒不安定な人だっただろうか。
「串刺し…!!」
「そこかよ?!ほら、広場に針のオブジェあったからそこで我慢してください!」
「あ、ああ…そうだな、そうしよう。」
落ち込みすぎだろ。俺はむしろ串刺しにならなくて良かったんだが、副団長はそうじゃないらしい。
そんなことをしていると、エレベーター内にアナウンスが流れる。
『パンパカパーン!クリアおめでとう!今回の得点は───満点!!さすがだね!次は地下50階だよ!』
「え?満点?」
腹立つ声でクリアを告げられたが、そんなことはどうでもいい。
採点基準なんて知らんが、俺達は今回だいぶギリギリだった上に、罠もほとんど当たった。これで満点は無理があるだろ。
「まあ、クリア出来たんだから良しとしようじゃないか。私は串刺しをお預けになったがな!」
「あ、すみませんなんか。」
そうだ、この人は自分の欲求を押し殺してまで俺をここまで運んでくれたんだ。ドMのことなんて知らんが、副団長には感謝しなくてはならないだろう。
「お、動き出したな。」
「次はなんですかね。さっさと帰りたいんですけど。」
「私は永遠にいてもいいかもしれない。」
「……」
確かに、普段味わうことが出来ないタイプの苦痛が多かったような気がする。
いやそんなことはどうでもいいんだ。とにかくさっさと帰りたい。
俺達は第1ゲームをクリアし、第2ゲーム───地下50階へと向かった。