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ターナー兄弟と霧の森の王  作者: 雨笠 篁
起篇《異世界転移編》
21/21

#17 開幕の刻

「ええええええええええ––––––ぐえっ!」


 悲鳴を上げながら落下する慶次を、先に地表で待ち構えていた金髪エルフがぞんざいにキャッチする。慶次は金髪エルフの腕の上でくの字に折れ曲がりながらも、数百メートルを落下したとは思えない程すんなりと地面の上へと着地させられた。

 ––––––それにしたところで、当然咽せ返りはしたが。


「付いて来い」

「ゲホッゲホ––––––ちょっ、てめ、待てよ」


 そんな慶次には一瞥もくれずに、ほんの一瞬剣呑な視線を慶次の落ちてきた頭上へ向けたかと思うと、金髪エルフは短くそう命じてスタスタと先を進んで行った。

 慶次は強打した腹部を押さえながら、金髪エルフの後へと続く。


 慶次達が着地した先は建物もない開けた場所であったが、暫く歩くと酷く朽ちた荒ら屋の建ち並ぶ区画へ入った。

 遠くに見える色鮮やかな光に照らされる街の景色とはまるで対照的な、人の気配の微塵もない、打ち捨てられたかの如き街。


 それも––––––と、慶次はその内の一軒に目を向ける。

 視線の先にあったのは、元は大きな洋館であったことを思わせる、上半分が無くなった朽ちた石造の建物。至る所に苔が蒸し、蔦が全面に張った外観からは、人が住まなくなってからの長い時間の経過を感じさせた。


 いや。

 住まなくなった、のではない。

 正しくは、住めなくなった、が事実だろう。


 上半分の無くなった建物––––––ただ朽ちて崩壊したのではなく、建物はまるでナニカによって、上半分を綺麗な半円状に切り取られたかのようだった。

 まるで巨大な何かが、建物を食いちぎったかのような、そんな跡。


 それも、目の前の一軒だけではない。

 見渡す限りのどの建物にも、同様の傷跡があった。

 加えて、鉤爪で抉られたような傷や、鋭利な刃物で建物を両断したかのような跡も。


「………なあ、ここって––––––」


 カツン、と。

 金髪エルフのブーツが石畳を叩く音が、慶次の言葉を遮る。

 いつの間にか現れた石畳に、視線を前方へ戻すと、目の前にそれまでの荒ら屋の立ち並んだ廃街とはまるで雰囲気の異なる、煌びやかな大門が聳えていた。

 左右に煌々と輝く提灯の提げられた、どこか東洋の趣を感じさせる造りの大門の存在によって、まるでそこから先の世界を区切るかのようでさえあった。

 と、そこでふと、先程からあの妖精達の姿が見えないことに気が付く

 一体どこに––––––そう思ったが同時。


 地鳴りと共に、遠くの方で爆発音が轟く。

 それも一度だけでなく、立ち続けに何回も爆音は響き、徐々に遠ざかっていくようである。


「なんだっ––––––」

「––––––神前試合」


 またしても慶次の言葉を遮るように、金髪エルフは振り返らずに言葉を発する。


「外界において行われる『代行戦争』に模して作られた、いわばこの霧の森の神々における『代行戦争』––––––それこそが神前試合である」

「え………」


 遅れ、慶次はそれが先程の自分の問いに対する答えであることに気が付いた。


 ––––––あの猿は確か、『神前試合』と言っていたな。一体なんなんだ、その神前試合ってのは。


 まさか今更その答えが、それもこの金髪エルフから返ってくるとは思ってもみなかったが。

 そうしてる間にも金髪エルフは慶次を置いて先へと進み、慶次は僅かに轟音鳴り響く背後に気を取られながらも、急ぎその後を追う。


「そ––––––そもそもっ、その代行戦争?ってのは一体」

「………貴様、王の言葉を聞いておらんかったのか」


 慶次の重ねられた問いかけに、金髪エルフは微かに首を背後に傾けて、剣呑な視線を向けてくる。視線にさえ刃の如き鋭さを感じさせる金髪エルフの圧に、慶次は思わず足を止めそうになるが、額に汗を浮かばせながらも、真っ直ぐにその瞳を見返して問い直した。


「あ––––––あんな説明で全部理解しろっていう方が無理があるだろ。俺はついさっきこの世界に来たばかりで、この世界のことどころか、そもそもあんたらと戦うことになった理由だって、正直まだ良く分かってねえんだからよ」


 つい勢いで大見得を切ってしまったが、事実として慶次は、この世界についてまだ何も知らないのである。

 把握していることと言えば、


 一、どうやら自分はこの世界における代行戦争というものに巻き込まれたということ。

 二、この世界ではあの光のような、所謂超常パワー的なものが実在するということ。

 三、神と言われる化け物がいるということ。

 四、そして––––––あの妖精と、その神々とやらには、浅からぬ因縁があるということ。

 五、最後に、自分がその因縁に巻き込まれたのだということ。


 こうして羅列してみると、たった五行の間に二度も巻き込まれているではないか。

 少年漫画の主人公もびっくりな巻き込まれ体質である。

 そのうち世界とか救う羽目にならないだろうな。

 なんて、杞憂にしても笑えないが。


「………神代の昔、この世界では世界の覇を争い、神々が互いに滅ぼし合う時代があった。しかしその時期、あまりにも多くの神が滅びた為に、世界の根幹そのものが成り立たなくなった」

「世界の根幹?」

「この世界では万象を神が司る。日には日の神が、風には風の神が、緑には緑の神が。仮にそれらの神が滅びた場合、世界からは日が失われ永遠の常闇が覆い、風は止み、緑は死に絶える」


 故に、それを危ぶんだ神々が己の代理に人の英雄を立て、競わせ始めた。

 それこそが、『代行戦争』––––––と、金髪エルフは語った。


 成程、と慶次は得心がいく。

 あの大猿に説明されたその時から、何故強大な力を持つ神がわざわざ己より力のない人間に重要な勝負を委ねているのか、それが疑問だった。

 しかし、それであれば納得がいく。

 世界––––––等という規模とは到底比ぶべくもないが、大企業などの組織内での派閥争いが決して張本人である権力者同士の殴り合いで趨勢が決まらないように、得てして組織内の闘争においてその実務を務めるのは、権力とは関わりのない下の者である。

 そしてそれは。

 哀澤慶次という人間にとって、最も馴染みの深いものであった。


 ん?––––––と、そこで一つ慶次に引っかかるものがあった。

 この世界に来て、自分は目の前の金髪エルフと同じく『神』を名乗る、蜻蛉の怪人ことリヴェリウスを殺した。

 あれが真実、この世界の神であるならば、つまりこの世界からは彼の神の司るナニカが失われたということだろうか。

 仮にもしあの神が見た目通りの『蜻蛉の神』であったならば、この世界から『蜻蛉』が絶滅してしまったということだろうか––––––と、そこまで思った慶次の疑問を見透かすように、金髪エルフは釘をさすように言った。


「勘違いするな、『アレ』は既に神の座を失って久しい。仮に滅びたところで、この世界に与える影響など何一つとしてない」

「––––––そう、か」


 それは言外に「貴様如きがこの世界に対して何かを為したなどと思い上がるな」と言われたようで。

 その言葉にならない圧に慶次はたじろぎそうになるのを耐え、言葉を続ける。


「………代理を立てる理由は理解したが、どうして異世界の人間なんかがそんなのに選ばれるんだ?」

「––––––理由はあるが、貴様は知らずとも良いことだ」

「………ああ、そう」


 一瞬だけこちらを一瞥してそう断ずる金髪エルフの声音に、明確な拒絶の意思を感じ、慶次はそれ以上は踏み込まなかった。

 それ故に方向を変えて再度慶次は問いかける。


「なら、原種(オリジン)ってのは、一体何だ」

「………」


 その言葉に、金髪エルフは初めて、慶次を直視した。


「間違ってたか?あの時確か、蛇女は俺を見てそう言ってたと思ったが」


 ––––––こやつの中には神の力の因子が与えられた形跡がまるでない。代行者を代行者たらしめる神の力の源––––––その原種(オリジン)が。


 あの女はそう言っていた。


原種(オリジン)』––––––その言葉が出てきた前後の会話を思い返せば、恐らくはそれこそが、この世界の神とやらが己の代行となる英雄に与える『神の力そのもの』か、『それに類するもの』。

 であれば、その力が何故自分にはないのか。

 そもそもその力無くして、自分はその代行戦争に参加する資格者であるのか。

 力を与えられたから『代行者』なのか、『代行者』に選ばれたから力を与えられるのか。

 疑問は尽きない。

 しかしそうした慶次の疑問にも、金髪エルフはじっと見透かし見通すように深い瞳で慶次を見返すと、すぐに視線を切って歩き出した。


「それもまた、貴様は知らずとも良いことだ」

「………ああ、そうかよ」


 沈黙もまた答えとなる。

 却ってその沈黙こそ、慶次にとってはこれ以上ない望んだ回答であった。

 黙るということはつまるところ––––––その答えが目の前のエルフにとって不都合なものであるということだ。

 目の前のこの、神を名乗る存在にとって。


 ––––––なんだよ。見えてきたじゃねえか、突破口。


 ほくそ笑みそうになる口角を手で隠しながら、慶次は金髪エルフの後に続き、一つ推測を立てた。

 仮にだ。

 神々が互いに滅ぼし合う時代があった、という言葉を魔に受けるならば、神の力は、同じ神を殺すことが出来る。

 そしてその仮定が正しいとするならば、金髪エルフが話を濁した理由にも合点がいく。


 おそらく、同じ神の力である『原種(オリジン)』にも、神を殺す力がある。


 しかし、問題があるとするならば、どうやらその『神の力』を、自分は与えられていないということである。

 原種(オリジン)と言われるその力、それが与えられた形跡がない、と。

 そんな与えられなかった力のことをいくら考えようと、そんなものは取らぬ狸の皮算用にしかならない、最早自分とは関係のないことではないか、とも思うが別の角度からも考えよう。


『神の力』が与えられるものであるならば、それはつまり受け渡し可能なものである、と。

 そして同時に、譲渡可能なものであるとするならば、奪うこともまた可能なのではないだろうか。

 譲ることと奪うこと––––––そんなものは所詮、主観の差に過ぎないのだから。

 日には日の、風には風の、緑には緑の神が存在するというのならば、それらの神から力を奪うことさえ出来たならば、自分だって使える筈だ。


 日を、風を、緑を。


 そしてそれが出来たならば––––––なんて。

 所詮、どこまで行っても仮定と推測の域を出ない。

 だが仮定が仮定の域を出た時、推測は事実となる。


 目の前のこの神を名乗る存在が一体何を司る神なのか、そして神の王を名乗ったあの大猿がどれほど高みにいるのかなど到底分からない。

 しかしその高みから引き摺り下ろすだけの、自分の運命を賭ける価値のある仮定が、今己の手の中にある。


 ゆらりと手の平から立ち昇る未知の光を握り締めながら、慶次は目の前を歩く金髪エルフに視線を投じつつ、慶次は内に湧き上がる野心と共にその光を握り締めた。


 ––––––まだだ。まだ、まだまだ先だ。

 

 確証もない、裏付けもない、今はそのための力すらない。


 ––––––だが、いつかその時が来たのなら。

 その時は––––––。


「………そんな物騒なもんを模して作られたってことは、あんたらは参加してないのか?その、代行戦争に」

「フン––––––下らん」


 凪の如く感情を表に出さなかった金髪エルフから発せられた、予想外に強い感情。


「未だにあんなものに固執しているのは、頭の狂った変神共よ。あの羊っ面筆頭にな」

「………?」

「貴様ら代行者を呼び出した張本神(ちょうほんにん)––––––運命を司る神のことよ」


 首を傾げた慶次に、金髪エルフは嘆息混じりにそう説明した。

 成程、自分をこんな事に巻き込んだ奴は羊の顔をしているのか。

 しかし成程––––––運命。

 そいつは随分と、皮肉な神もいたものだ。


「………かような下らぬものに我々は興味ないが、しかしその仕組み自体は捨てたものではない」


 気付けば、二人の目の前に大きな門が立ちはだかっていた。

 街に入った時とは異なる、西洋風の彫刻の施された両開きの門。

 いつだか美術の教科書で見た地獄の門を思わせる、固く閉ざされたその門が、金髪エルフの歩みに合わせるように、重々しく開く。

 門から溢れ出た熱が、光が、慶次を叩くようだった。


「我々は飽いている––––––永劫と続く命に。凪の如き日々に」


 眩い光の溢れたその先へ進んで、金髪エルフは両手を広げながらそう告げた。


「我々は求めている––––––この生を潤す刺激を。定命の者達の命を賭した余興を」


 光に眩んだ視界が、徐々に輪郭を捉え出す。


「王位への挑戦など所詮は建前、我々は見たいのだ––––––貴様ら人間が、どうその命を燃やすのかを」


 そうして、ぼやけた輪郭が、ようやく実像を映した。


「さて、貴様はどうその命を燃やす?」


 ––––––どう、我々を楽しませてくれる?

 そう言い放った金髪エルフの背中越しに広がる、その景色。

 果たしてそれは、街の真ん中にぽっかりと空いた穴のように、丸く開けた巨大な広場。

 そこに、ひしめくように、人間がいた。


 否。視界に収めたそれを慶次が人間だと気が付くのには、一拍の間があった。

 何故ならば、そこにいた人間は皆一様に片膝を付いて首を垂れ、慶次からはその顔を窺い知れなかった。

 隙間なく、しかし整然と並んだ数千、数万のその首の群れは、一本の花道を形作るかのように、広場の中心に向けて裂けている。

 慶次達のくぐった門から一直線に伸びるその道は、さながら鳥居から本殿に向かう参道を思わせ、その道の中央を金髪エルフはその美しい金髪を揺らしながら、悠然と歩いていく。


 眼前の光景に無意識に気圧されながら、その異様な道を金髪エルフに従い歩いていくと、広場の中心にしわがれた老婆が一人、踞っていた。

 枯れ木や流木を思わせるその小柄な老婆は、顔を隠すように両手を顔の前で合わせ、乾いた蛙のような声で尋ねる。


「これはこれは………このような粗末な所へようこそおいで下さりました。また、このような身形で御神の面前に拝謁する無礼、何卒お許し下さいませ。して、此度はいかような御用向きでござりましょうや」


 老婆は片目を開けて垂れた瞼の奥に鋭く眼光を光らせ、エルフの背後の慶次へと視線を突き刺す。値踏みするような、見定めるようなその視線だが、不思議とそこには敵意や警戒心といったものは含まれていなかった。

 言うなれば、その視線は急に引っ越してきたお隣さんに向けられるような、その程度の気安いもの。

 この世界に来て初めて向けられた敵意ではない視線に、思わず慶次は日本人の本能で会釈で返す。

 慶次のその反応に、老婆は僅かに目尻を垂らしたように見えた。

 しかし続く金髪エルフの言葉に、老婆は即座に慶次から意識を外した。


「––––––許す。が、今日は貴様に用はない、街長」


 街長と呼ばれたからには、目の前の老婆はこの街における最有力者に違いない。

 しかし金髪エルフはそんな老婆には一瞥すらくれずに、広場の丁度中央に仁王立ちすると、居並ぶ雑踏に向かって声を張り上げた。


「戦士達よ!」

 

 金髪エルフの声に、雑踏の中にいた集団が物音すら立てずに立ち上がる。

 その数は数百、数千は下らない。

 戦士と呼ばれたその集団は皆異様な民族風の格好に、異様な武器を携えて、一様に剣呑な視線をしていた。

 その内の一人––––––老婆のすぐ後ろに控えていた長髪の青年と、ふと視線が合う。

 一瞬で、慶次の背筋にぞわり、と鳥肌が立った。

 殺気を向けられたのではない。敵意を含んですらいない。

 だが、全身を駆け巡った感覚に、その青年の瞳に、慶次は既視感があった。

 そして青年の瞳に、慶次は「ああ」とすぐにその感覚を思い出す。

 

 ––––––こいつもそうか。

 ––––––『あっち側』の人間か。


 その瞳は、そして、この感覚は。

 あの二人と出会った時と、同じものだった。

 強い意志を感じる瞳に、視界の中心を奪うその存在感。

 まるで『物語』の主人公であることを生まれながらに定められたかのような、世界の中心にいるかのような不思議な引力を、その青年には感じた。


 故に慶次はそっと青年から視線を切って、内心、苦虫を噛み潰したような心地がした。

 現状、青年からは警戒心こそあれど、敵意や害意といったものは感じ取れない。

 しかし慶次は直感していた。

 目の前の青年が、間違いなく自分の敵になるであろうことを。

 篝はともかく、竹人とだって初めはそうだった。

 とあるきっかけがあったからこそ、最終的には腐れ縁のような形に収まったものの、そもそも哀澤慶次という人間は、壊滅的なほどに主人公タイプの人間とは相容れない。

 だからこそ、その手の人間を敵に回すといかに厄介かは、慶次自身が最も理解していた。


 ––––––全く、面倒ごとにならないといいが。

 ––––––いや、もうこの状況自体、面倒事のど真ん中だったな。


「前へ」


 なんて慶次が一人自嘲していると、金髪エルフの言葉に応じて、戦士と呼ばれた者達の中から七人が慶次達の目の前まで歩み出る。


「ル地の住民共よっ、王からの言葉を伝える。傾聴せよ」


 目の前まで歩み出た戦士達に視線を突き刺しながら、そしてその背後のル地の住民全てに伝わるようにそう声を張り上げる金髪エルフに、慶次を除くその場にいるすべての人間が顔を上げた。

 そして、金髪エルフはぐるりと広場の全てを見渡すように、背後の慶次を顎で示しながら告げた。


 ––––––おい。


「霧の森の王『魔猿』アンティクスの名の下に、この者を王の十四番目の子の戦士と認め、来たる神月、王の御前にて行われる神前試合への出場資格を与える」


 息を呑む音が、波を打つように広場に広がった。

 どよめきの波は広場の端まで伝わるとより大きな波となって揺り返し、四方から慶次の全身にぶつけられる。

 それは当然、目の前の七人からも。


「しかし、神前試合への出場枠は残り一つ––––––よって、ここにいる人間と貴様らル地の戦士団とで、残る一つの出場権、競い争い奪い合うが良い」


 言い放った金髪エルフの向こう側からぶつけられる、七つの視線––––––そして、幾万の眼。

 その視線を一身に受けて、慶次は苦々しく口角を歪ませる他なかった。


 ––––––冗談だろ。


 慶次が冷や汗を垂らす理由こそ、まさに今自分に向けられた七つの視線。

 その––––––瞳。

 

 強い意志を感じる瞳。

 否応なく、視界の中心を奪うその存在感。

 それが示すところはつまり––––––、


 ––––––こいつら、全員か。


 目の前の、七人の戦士。

 まるで『物語』の主人公を思わせる彼ら全員から向けられた、明確な敵意に満ちたその視線に、慶次は固唾を飲んだ。

 そして慶次と戦士の間に挟まれた金髪エルフは、首だけ捻って視線を慶次に向けつつ、口角一つ動かすことなく淡々と呟いた。


「さあ、楽しませろ。ニンゲン」


◆◆◆◆◆◆


 代行戦争に巻き込まれた異世界の英雄––––––哀澤慶次。

 霧の森の神にして、霧の森への反逆者––––––アルゲン。

 霧の森の神々と、『魔猿』アンティクス、そしてル地の戦士達。

 かくして登場人物は出揃い、異世界『霧の森』における哀澤慶次の物語は、いよいよ幕を開ける。


 その物語の結末はきっとまだ、神すらも知る由はない。

ここまでのご愛読、誠にありがとうございます。

ターナー兄弟と霧の森の王「起篇」異世界転移編

これにて完結となります。

続く「承篇」の投稿まで、今しばらくお待ちいただけますと幸いです。

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