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毒舌執事と初恋を拗らせすぎた王子


「お前みたいな暗い女と結婚してやるなんて、俺くらいなものだぞ!!

もっと感謝の気持ちを持つんだな!!」




しーーーーーーん。




はい。

今まさに、我が主人(あるじ)キース殿下の初恋が終わったようです。




齢12歳のキース殿下は、本日幼き頃から決められていた婚約者、ミルラ様との初顔合わせの日を迎えられました。



キース殿下は、王家の証でもあるブロンドの髪、小さく整った顔立ち、シルバーに輝く瞳を持った麗しい王子様でございます。

まだ幼き王子ですが、彼を一目見た女性はすぐに彼の虜になってしまうほどの魅力をお持ちです。



そんなキース殿下の婚約者に選ばれたのは、皇帝のご友人でもあるカタラディス公爵の1人娘、ミルラ様でした。


ミルラ公爵令嬢は、薄いピンク色の髪、大きなクリッとした丸い瞳、キース殿下と同じ12歳とは思えぬ、小柄な可愛いらしい令嬢です。



キース殿下との初対面に緊張しているのか、会ってから30分以上無言のままでございます。

笑顔のないミルラ令嬢の印象は、良く言えば淑やか、悪く言えば暗い。



そんなミルラ令嬢に発したキース殿下の第一声が、先程のセリフでございました。

ええ。それはそれは吹雪が吹き荒れてきたのかと思うほど、空気は凍りついておりましたとも。




……あ。申し遅れました。

私、キース殿下の執事をしておりますルイラードと申します。




……と丁寧な説明はここまで。

俺は執事といってもまだ17歳だし、お世話係みたいなものだけどな。

はい。これが俺の素ですが、なにか?



キース殿下のバカな発言のせいで、ミルラ令嬢はすっかり顔を上げなくなってしまった。

初対面でいきなりの暗い女発言をされたのだ。

無理もない。


殿下からは見えないだろうが、令嬢は両手でドレスの裾を強く握りしめて、プルプル震えている。



……これはかなり怒っているな。もしくは泣いている?

我慢して感情を全面に出さないとは、子どもとはいえ立派な令嬢だ。

どこかのアホ王子とは出来が違うな。



結局この日は会話もないままお開きとなった。

令嬢が帰った後、キース殿下は真っ青な顔をしたまま無言でベッドにダイブした。


だいぶ落ち込んでいるようだ。

俺はうつ伏せになっているキース殿下に声をかけた。



「まったく。何故あのようなバ……無神経な発言をされたのですか?」


「……今バカな発言て言おうとしただろ」



キース殿下はむくっと上半身だけ身体を起こし、ジロッと俺を睨んできた。

小さい頃からずっと一緒にいるんだ。

そんな睨みなど、何も怖くはない。



「せっかくキース殿下に初恋が訪れたと思ったら、30分でぶち壊してしまうとは。

せっかくの美貌も、ミルラ令嬢には効かなかったなんて残念ですね」



俺の発言を聞いて、キース殿下の顔が一気に真っ赤になった。



「なっ……何でっ!?

いや。誰が初恋だって!?何言ってるんだルイ!!」


「隠してもバレバレですから。

殿下は小柄な可愛い女性がタイプだったんですね。

一目惚れしてたのがすぐにわかりましたよ」


「うるさい!!」



王子はまたもやベッドにうつ伏せになってしまった。

顔を枕に押しつけているが、耳が真っ赤なのは隠せていない。



「とにかく、早く謝って仲直りした方がいいですよ」


「……わかっている」





そんな若い2人の出会いから5年が経過した。

キース殿下もミルラ令嬢も、もうすぐ17歳だ。


あれから何度もミルラ令嬢とは会っているが、謝る事はもちろん会話すらほとんどない状態であった。



ったくヘタレ王子め!!



「そんなにチビでは色々と不便であろう。

何かあれば背の高い俺に頼むがいい」


「会話するのが苦手なのであれば、手紙を書いてもいいのだぞ。

仕方ないから受け取ってやる」



やっと話しかけたと思ったら、こんな内容ばかりだ。

普段はここまで偉そうな態度ではないのだが、ミルラ令嬢の前では緊張してこんな言い方しかできなくなってしまうらしい。



おかげで5年経っても何も進展なしだ。

むしろ、どんどん嫌われてんじゃねぇのか?



キース殿下のヘタレ具合にはずっと目を瞑ってきた。

だが、今日だけは絶対にヘマする訳にはいかない理由がある。

ミルラ令嬢が王宮に来る前に、しっかりとキース殿下に確認をとった。



「キース殿下。わかってますよね?

今日は何がなんでもミルラ令嬢を誘うんですよ?」


「わかってるよ!何度も言うな!

一度言えばわかるのに、今日何度目の確認なんだよ」


「頭ではわかってても実際には行動できないヘタレなのだから仕方ないでしょう」



キース殿下は「うっ……」と図星をつかれた顔をした。

自分でもヘタレを自覚しているらしい。


めずらしくシュンとした殿下を見て、思わずため息が出てしまう。

来週17歳になるキース殿下は、さらに麗しさが増し国中の女性にとって憧れの的であった。

本来なら恋愛で悩むべき男ではないはずなのだ。

女性は皆キース殿下に夢中なのだから。



それがたまたま殿下に惹かれないというレアな令嬢に恋してしまい、この有様だ。

普通に仲良くしていればまだ落とせるものを、このヘタレ王子はその()()()()()()すらできていない。



キース殿下は俺から目線を外したまま、少し照れくさそうに呟いた。



「お前は簡単に言うけどな。

パーティーのパートナーになって欲しいって誘うのがどれだけ大変なのか、わかってるのかよ?」


「簡単ではないですか。

ミルラ令嬢の前で膝をつき、彼女の手を優しく包みながらその甲にキスをして、俺の生誕パーティーのパートナーになって欲しいと言うだけですよ」


「できるか!!!」


「まったく。たとえヘタレだとしても、少しは男らしく行動してはいかがですか」


「お前は少しくらい執事らしい言動をしろよ……」



そんな会話をしていると、ミルラ令嬢が王宮に到着したという報告が入った。


キース殿下の顔がポッと赤くなり、その後すぐにサーーッと青くなった。

緊張で少し手も震えているようだ。


俺は壁に寄り添い、2人の様子を見守るだけの執事となる。



「キース殿下にお目にかかります。

カタラディス公爵家ミルラでございます」



ミルラ令嬢が部屋にやって来た。

もうすぐ17歳になる令嬢は、小柄な身体に似合った可愛いらしいドレスを着ている。


キース殿下の顔がまた少し赤くなった。



「あ、ああ。こちらへ座ってくれ」


「はい。失礼致します」



ミルラ令嬢が殿下の真正面に座る。

メイドが紅茶を淹れている間も、2人に会話はない。

ミルラ令嬢の視線はいつもキース殿下ではなく、膝の上に置かれた自分の手に向けられている。


この5年間、彼女が笑っているのを見た事がない。

いつも静かな人形のように、その椅子にちょこんと座っているだけだ。



さて。目も合わない令嬢相手にパートナーをお願いするのは、確かに難しいかもしれないなぁ。


がんばれ殿下!!……ってめっちゃこっち見てんじゃねーか!!

なんだよその助けてくれみたいな顔!!

お前まだ何もしてねーぞ!?



キース殿下は俺に懇願するような視線をぶつけてくる。

顔には助けてという文字がビッシリ書かれているようだ。



俺にその話題を出せとでも言いたいのか?

ふざけんな!!それくらい自分でやれ!!


という気持ちを込めて、キース殿下にドス黒いオーラを送りつけてやった。

殿下は一瞬ビクッとして、俺から視線を外した。


ミルラ令嬢を見つめている。



さっさと言え!!

まずは自分の生誕パーティーの話題を出せ!!



俺の心の声が聞こえたのか、殿下が口を開いた。



「ら、来週……俺の、せ、生誕パーティーがあるんだが……」



おお!!モゴモゴしてて全く格好良くはないが、よく言った!!



突然話しかけられて、ミルラ令嬢も驚いている。

顔を上げて、丸く大きな瞳がやっと殿下に向けられた。



「……はい。存じております」


「そ、そうか。それで……その、生誕パーティーで、お、お、俺の、俺の……」



もう少しだ!!あと一言だ!!

パートナーになってくれ!って言うだけだぞ!!



ミルラ令嬢は少し怯えているような様子で、殿下の次の言葉を待っている。

無理もない。

いつも失礼な言葉を浴びせられてきたのだから、警戒してしまうのだろう。


ミルラ令嬢から見つめられている事もあり、キース殿下は緊張の限界を超えたらしい。

突然ガタン!と激しく椅子から立ち上がったかと思ったら、堂々とした姿でキッパリと言い放った。



「生誕パーティーで、俺の輝かしい姿をよく見ておくことだな!!」




しーーーーーーーん。



…………は?


あのクソバカ王子、何言ってやがる……。



俺の無言の威圧感に気づいたのか、殿下はハッとして慌ててミルラ令嬢を見た。

先程まで殿下を見つめていた令嬢はまた下を向き、何も言葉を発しない。


5年前と同じように、手を握りしめて少し震えていた。


あの流れならパートナーに誘われるのでは、と気づいたはずだ。

もしかしたら令嬢は期待したのかもしれない。



だが、それでも誘ってこない王子のヘタレっぷりに、令嬢も我慢の限界がきたんじゃないか?

突然「婚約破棄する!」なんて言い出してしまうかもしれないぞ。



ミルラ令嬢の手の震えがおさまったと同時に、令嬢は周りに聞こえないくらいの小さく長いため息をついた。


「ふーーーー……」


そして少し怒っているような顔で、ゆっくりと立ち上がった。

その静けさがやけに怖く感じる。

キース殿下なんか真っ青でブルブル震えている。


ミルラ令嬢は、キース殿下を一瞥(いちべつ)して可愛い声で囁いた。



「ええ。キース殿下の立派なお姿、パーティー会場の離れた場所からしっかりと拝見いたしますわ。

では本日は失礼いたします」



そう言うと、キース殿下の返事も聞かぬまま帰ってしまった。

キース殿下は魂が抜けたかのように、真っ白な灰の塊と化している。

そんな殿下に俺は容赦なく声をかけた。



「聞きました?

パーティー会場の離れた場所からって言っていましたよ。

もうこれは、殿下とは一緒にパーティーに行かないと言っているようなものですね」


「……お前は……さらに俺の傷口をえぐってくるな」


「何故あんなアホ全開な……あ。いえ。えっと自意識過剰な発言をされたのですか?」


「……それ言い直した意味ないぞ」



キース殿下はヨロヨロと寝室へ向かい、ベッドにバタンとうつ伏せに倒れ込んだ。

顔を枕に押しつけている。



どこかで見たなこの光景。デジャヴか?

5年経って見た目は立派な青年になったが、中身はガキのままだな。



「いいんですか?このままで。手紙でも書きます?」


「……いや。もう、いい」


「えっ。まさかミルラ令嬢の事諦めるんですか?」


「……諦めは……しないけど」


「ですよね!!さすが、ストーカー王子!!」


「褒めてんのか!?」



キース殿下が枕を投げつけてきたので、パシッと受け止めて秒で投げ返した。

ボスッ!!と思いっきり殿下の顔面に直撃してしまった。



「ミルラ令嬢の好きな紅茶やケーキを調べあげて用意したり、会う日はミルラ令嬢の好きなブルーの服を着たり、ミルラ令嬢の好きな花を部屋に飾ってもらったりしていますもんね。

そこまでストーカー行為をしても振り向いてもらえないなんて、ミルラ令嬢も手強いですね」


「主人の顔面に枕投げつけておいて、謝りもせずに尚且つ俺をバカにしてくるお前も十分すげぇよ」



キース殿下が呆れたような顔で見てくるが、いつもの事だ。

今日はかなり本気で落ち込んでいるようで、それ以上文句は言ってこない。



結局ミルラ令嬢に連絡する事もなく、生誕パーティーの日を迎えてしまった。



朝から気合いを入れたメイド達に囲まれた殿下は、頭の天辺から足の爪先まで念入りに整えられ、男の俺から見ても見目麗しいほどの姿になった。


正装して髪型もばっちりキメた殿下は、老若男女問わずメロメロにしてしまいそうだ。

すでにメイドの数人は殿下の色香にやられ、まともに動けなくなっている。



まさかこの男が5年間も片想いしているなんて、誰も信じないだろうな。



殿下と共にパーティー会場へと向かう。

すでにパーティーは始まっているので、ミルラ令嬢も会場のどこかにいるはずだ。


殿下は自分の生誕パーティーだというのに、朝からずっとため息をついていた。

ミルラ令嬢と会った日から毎日この調子だ。

後悔するくらいなら、しっかりパートナーとして誘っておけば良かったものを。



キース殿下が会場に入ると、女性からの黄色い声が響き渡った。

さすがは国の王子だ。

会場に入った途端、王子としての笑顔を貼りつけて皆に挨拶をしている。

俺は殿下から数歩離れた位置をキープしていた。



会場の1番遠い壁際に、薄いピンクの髪色をした小柄な令嬢が立っているのが目に入った。

きっとキース殿下も気づいているだろう。

だが照れ屋な殿下は、自分から近寄りはしないだろうな。



ミルラ令嬢もこちらに来る気はないのか……。



彼女の方を見てみると、なんと若い貴族男性に声をかけられていた。

まだ正式に殿下の婚約者として発表してはいないため、知らないヤツもいるのだろう。


ミルラ令嬢に手を差し出し、ダンスを申し込んでいるようだった。



おいアホ王子!!ミルラ令嬢が狙われているぞ!?



キース殿下もその様子を見ていたらしく、真っ青な顔でミルラ令嬢と貴族男性の2人を見つめている。

殿下の周りを囲んでいる令嬢達が話しかけているが、耳に入っていないようだ。



チッ!!

何ボーっとしてやがる!!

ここで助けに行けばイメージ回復じゃねぇか!



またもや俺の心の声が聞こえたのか、殿下が俺の方を向いた。

その顔は、いつもの不安そうな顔ではく、何かを決意したような真剣な顔だった。



……背中を押せってことか?



俺はニヤッと笑い、無言のままコクンと力強く頷いた。


キース殿下も同じようにニヤッと笑い、囲んでいる令嬢達を優しく押しのけながら走り出した。

目指しているのはもちろんミルラ令嬢の元だ。


しつこい貴族男性からの誘いを断りきれず、その手を取ろうとしていたミルラ令嬢の手を、キース殿下がパシッと掴んだ。

驚いている2人の姿が見える。

ポカンとしている貴族男性にむかって、殿下が叫んだ。



「ミルラは俺の婚約者だ!!

俺に許可なく勝手にダンスを申し込むな!!」


「!!」



ミルラ令嬢の頬が少し赤くなったように見える。

潤んだ瞳で殿下の事を見上げている。

令嬢がこんな顔で殿下の事を見つめるなんて、初めてだ。



ふん。やるじゃねぇか!!これでヘタレは返上かな。

ミルラ令嬢もさすがにこれなら殿下に惚れたんじゃ……



「人のモノに手を出したらいけないんだぞ!!」



!?


キース殿下の男らしさに誇らしく思ったのも束の間、突然のアホ発言に思わず真顔になる。



ガキかよ!!

なんだよそのセリフ!?

せっかくの感動シーンが台無しだよ!!アホか!!



思わず膝から崩れ落ちそうになった時、静まり返った中で可愛いらしい声が聞こえた。



「……ふっ……ふふっ……ぷぷぷ」



気づけばキース殿下と手を繋いだままのミルラ令嬢が、肩を震わせて俯いていた。

殿下も頭の上に???が浮かんでいるかのような顔で、ミルラ令嬢の方を振り返っていた。



「……ふふっ……も、もうダメ……我慢の……限界……ふふふ」


「ミ、ミルラ?」



ミルラ令嬢は、口元を手で隠しながら顔を上げた。

大きな瞳には涙を浮かべ、頬は少し紅潮している。

笑いを堪えきれないといったような、とても可愛いらしい笑顔だった。


ミルラ令嬢の笑顔を見たのは初めてかもしれない。



「ふふふっ。もう、キース殿下……可愛すぎますよ」


「え?え?」


「ふぅーー。あーあ。ずっと我慢してきたのに、とうとう笑ってしまいましたわ」



キース殿下は訳がわからないといった顔だ。

もちろん、それは俺も同じだが。


一体どうなっている?

長年笑顔を見せなかったミルラ令嬢が、笑っている。

笑うのをずっと我慢してきただって?いつから?



……まさか、初顔合わせの日も、この前帰ってしまった日も、令嬢の手が震えていたのは怒りではなかった?

笑いを堪えていたのか?



「ずっと笑うのを我慢していたのか?な、なぜ?」



キース殿下が素直に疑問をぶつけている。

ミルラ令嬢は人が変わったかのように、ニコッと微笑んだ。

変わったというよりも、こっちが本当の姿なのか。



「あら。キース殿下は暗い女性が好きなのだと思っていましたから。

初めてお会いした時におっしゃっていましたよね?

暗い女と結婚してやる、と。

なので、ほとんど喋る事もなく大人しくしていたのですわ」


「え?お、俺の失礼な発言に怒ったのでは?」


「まさか。

キース殿下は言葉の端々にしっかり優しさがあったではありませんか。


緊張して何も喋らずにいた私に、暗くても結婚してくれると言ってくれましたわ。

背の低い私に、困ったら自分を頼れとも。

手紙を書いたら受け取ってくださるとも。

いつでも殿下はお優しかったわ。


ただ、いつもそれを素直に言えないところが可愛い……微笑ましくて、つい笑ってしまいそうになって困りましたが。


それに、いつも私の好きな花や紅茶を用意してくださっていたのも知っています」



ミルラ令嬢の言葉を聞いて、キース殿下は呆然としている。

脳がまだ令嬢の言葉の意味を理解しきれていないのだろう。


理解不能状態のキース殿下を見て、ミルラ令嬢は説明を続けた。



「この前帰ってしまったのも、笑顔を隠すのが困難になったからですわ。

キース殿下が……私の事をパーティーのパートナーに誘おうとしてくださったのが、嬉しくて」


「な、何でそれを……」



まだ口にしていない事までミルラ令嬢が知っていたので、殿下は恥ずかしいやら意味不明やらでかなり困惑しているようだ。



「あら。キース殿下はすぐに顔に出ますもの。

それくらい、言われなくてもわかりますわ」



ミルラ令嬢はふふっと愛しそうに微笑んだ。

ずっと困惑顔だったキース殿下の顔が、ミルラ令嬢の笑顔を見て少しだけ緩んだ。



「でもやっぱり直接言って欲しいという気持ちもありましたので……つい意地の悪い事を言ってしまいました。

ごめんなさい」


「直接……」



ここまで言われても、キース殿下は呆然と立ち尽くしたままだ。

ミルラ令嬢の期待を感じていないのか。



「失礼致します」



我慢の限界がきた俺は、皆の注目を浴びていた2人の元にスタスタと足早に近づいていく。

キース殿下の真後ろに立ち、殿下にのみ聞こえるくらいの小声で囁いた。



「これ以上ミルラ令嬢に恥をかかせるな」



そのまま手をキース殿下の背中に回し「あ、汚れがついてますよ」と言いながらバシッと叩い……押してやった。

キース殿下は何かが吹っ切れたのか、令嬢の前ではあまり見せない凛々しい王子様の顔になった。


ミルラ令嬢の前に片膝をつき、令嬢を見上げる。

繋いだままだったミルラ令嬢の手を改めて包み込み、その甲にキスをした。



「ミルラ。俺のパートナーとして、一緒に踊ってくれますか」



思いもよらないキース殿下の行動に、先程まで余裕そうだったミルラ令嬢も顔を真っ赤にしている。

そして今日1番の輝くような笑顔で「喜んで!」と答えた。



その瞬間、会場中から称賛の声と拍手が沸き起こった。

みんながキース殿下とミルラ令嬢に温かな言葉や拍手を送っている。


……もちろん一部泣き崩れる令嬢もいたが。



会場の真ん中で踊り出した2人を、俺は壁に寄りかかりながら見守っていた。



俺の言った誘い方、できるか!と言っていたくせに完璧にやってるし……。

文句なしの振る舞いだったと後で褒めてやるか。


それにしても、まさか最初から両想いだったとはな。

全然気づかなかった。女ってすげぇな。

アホな王子だけでなく、俺まで騙されていたのは悔しいが……2人が幸せならそれでいいだろう。



今日の夜、興奮したキース殿下からどんな惚気話を聞かされるのかと思うと、少しだけ面倒だけどな。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


追記*ブクマ、評価してくださった方へ、心より感謝申し上げます。

日々の執筆作業へのヤル気をいただいています!!


現在、毎日更新で『悪役令嬢に転生したはずが、主人公より溺愛されてるみたいです』を連載中です。

もしよろしければ、そちらもお読みいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛いです、キュンキュンしました!
[一言] ミルラが色んな意味で出来た女性で良かった、ヘタレ王子
[一言] 素直になれない王子様の様子が面白かったです! 執事視点でしたが、令嬢視点か令嬢の執事視点とかも見てみたいなぁと思いました。
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