生き血を啜る三千蝙蝠
夜が明け、朝日が昇る。
ディープスリーパー佐倉の朝は遅い。
ものすっごい遅い。オマケに寝相も悪い。若干、夢遊病の域である。
対称的に、ショートスリーパーの千世。
彼女の朝は早い。陽光と共に目を覚まし、清々しい朝を迎える。しかし寝相は悪い。
彼女は朝、硬く冷たい床の上で目覚めた。
何故か、不思議と寒くはなかった。
不思議に思い辺りを見回す。
それもそうだ。
全裸の男と抱き合いながら、寝ていたのだから。
理解にしばしの時間を要して、朝から強烈な肉を打つ音が響く。
重く、早い、ボディーブロー。そこから繋ぐ、顎を砕き、脳を揺らすエルボー。
「……イノチヲステテユケ。」
「……でも、千世も床に居たんだから、千世からも来たんじゃ?」
「ゔっ……ご……っ」
無言の二発目であった。
朝食。
(なんであんなアイツの顔腫れとんやろ……)
軽鴨亭の朝は早い。六時半の客の朝食に向けて、
五時頃にはもう、食べ始めているのだ。
「俺、トイレ行ってくる。」
「私、エリアさんの事 手伝ってくる。」
佐倉と知世の二人がいなくなると、二人はこそこそ話し出す。
「……な、僕の言った通り。アイツやと、自分からグイグイ行くように見えて、滅茶苦茶に奥手やから、強引に近ずけた方がええねん。」
「……確かに大地にはそうだな!」
「阿呆……声でかいわ、百合。」
「まっ、千世もかなり奥手だったからな、一件落着ってことで、」
「……せやな。」
二人は嬉しそうにニヤニヤ笑い出す。
「まだ、ダメや、甲斐性もない今にやることじゃない。」
「……そっかぁ。」
少し時間が経ち、十時頃。
朝の仕事が終わり、今日の買い物はみんなで行く事になった。
ついでに、異人局にもよる予定だ。
「どうだ!可愛いか!」
「ええと思うで!可愛ええよ。」
またまた、嬉しそうに、楽しそうに服を見る百合と蓮。
そして、二人の横で、服を小石でも見るかのように通り過ぎる佐倉と千世。
「……興味無い。」
「俺も、みーとぅー。」
そんな、騒がしい市場の中に、自然と目に入り、
二度見するものがあった。
「なぁ……あれ、パーカーだろ……」
「……は?」
憐れむような目で、知世が俺を見る。
「いや、見てみて、見て!」
「……ローブ。」
「……何それ?」
(何が違うんだ……?フードついてるし……?)
「……買ってくる。」
「……待っとく。」
てくてくと歩いていくと、おっちゃんが客の相手をしている。
赤、青、黄色。
待っている間に見ていると、以外にも早く、待ち時間は終わった。
(フードにもいるんな色があるな……)
「おっちゃん。オススメの……ろーぶ?2個ちょうだい。」
「おすすめねぇ……おっ、こんなんはどうだ?この紅と藍のローブはよ、売れ残りでな、売れても、直ぐに返品されちまってるんだ……なんでか分からねぇがな。で、今週中に売れなかったら、破棄予定だったんだが、返品しねぇなら、この両方をセットにして、一着分の料金で売ってやる。どうだ?」
(……安い!!)
「買ったァ!!」
「おっしゃア!!まいど!銀貨五枚だ!」
「ほらよッ!」
ほくほくだ。こんなに安く買えるとは……
布地もいいし、銀貨十枚は行くと思ってたぜ。
「うんしょと……」
早速着てみる。この街は異様に寒いのだ。
風をモロで食らうのは避けたい。
(しかもなんかこれかっこいいなぁ……)
蒼紺のローブを纏い、異人局で商業権についての話を終えて、
その日は家に帰ったのだ。
異変は次の日に起こった。
その日は、仕事を午後からに全て回す代わりに、
朝から、異人局で、最後の話。
『探索者ギルド、冒険者ギルド、そして、環境ギルドの話について聞いた。
この3つのギルドは、同じ建物の中にあることが多く、
兼業するものがほとんどらしい。
探索者は、地形。ダンジョン、洞窟を調べ、
冒険者は、魔物の生息域、討伐。環境はエリアの気象災害。自然を調べる役目がある。
しかしまあ、
みんなで、明日、進路相談?をするように決めて、その日は帰った。
帰ろうとしたんだ。
「……ん、大地鼻血出てんぞ!」
(んぁ?出てる……あれ……どんどん出るな。)
(ヤベェ……とっ…止まらねェ。)
思わず、買ったばかりの藍のローブで鼻血を拭った。。
瞬間。ローブは鮮やかに輝く。
(なんだコイツ……血を吸った……っ?)
砂嵐が訪れる。
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アイテム名
君の全てを俺は奪った。【憂恤】
能力値影響
HP 毎分3%減
MP 毎分3%増
ATK 3%up
DEF 50%down
AGI
INT 3%up
特殊効果
三秒以内に出血したの装備者の血を啜ると
能力上昇値、上昇率up。
出血効果 小
止血防止効果 小
原料 三千蝙蝠の翼膜
小金扇蜘蛛の縦糸
魔の蒼血
状態
呪い 大
説明
君の全てを俺は奪った。
君に返すことはもうできない。
君の全てを俺は背負った。
君の業は俺が背負う。
君は冷たい箱の中。
微笑みながら泣いている。
赤く染まった君の胸。
俺の罪は消えてはない。
冷たくなった君の顔
俺の心は癒えはしない。
頬をなぞった君の手が、俺の心を締め付ける。
俺の業は、消えはしない。
俺の全てを君に捧げよう。
君を奪うことはもう出来ない。
俺は冷たい君の横。
君と二人、笑っている。
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(重っ……!)