貴方と一緒の夜ですか?!
「あんたらウチの闇夜ノ軽鴨亭においで。」
おばちゃんの提案だった。
「アタシの名前は、エリア・グランフィールド。一ヶ月三万でどうだい?……破格だよ。当然、宿の手伝いはしてもらうけどね。」
なんとありがたい提案であろうか、百万。大金に思えど、
職を見つけるまでの時間が未確定なこともあり、高校生からしても、百万は心細い。
故に、誠に有難い。
「「「「よろしくお願いしますッ!」」」」
こうして、俺達の奇妙な共同生活が始まった……
初日の夜。なれない枕で落ち着かなかった。
二日目は、また、役所の異人介助局に、四人で行き、説明を受けた。
担当が決まり、元異人の、宗介・エンドミク という名の男性から話を受けた。
彼はこの地で結婚し、妻のところに婿入りしたそうな。
局にいき、法を学び、マナーを学び、文字を習う。
エノル語というものは、難しくて堪らないが、文法は日本語と同じらしい。
服と宿の食材の買い出しを交代で二人づつ行く。
一人が食材。一人が服だ。
そしてそんな日を三日続けた。
そんなある日、起こってしまったのだ。
「大地。僕、百合と付きおうとるやろ?」
「うん。」
やけに含みのある言い方だ。コイツが大地と呼ぶ時は、真面目な時……
もしくは、ロクでもない頼みがある時。
「エリアさんから、男女で二部屋借りとるやろ。」
「……うん。」
何となく含んだものがわかったような気がする。
「つまり……ヤリたいと……。」
「端的に言えばそうなるな。うん。」
あぁ……確信に近ずいてきた。
「俺と知世さんの二人で一晩過ごせと……?」
「……三万。」
「三万五千だ。」
「分かった。」
交渉成立。
下手な風俗より高いぞコレ。
そんなにカノジョとシたいか……カノジョはそんなに良いか……カノジョがそんなに大切か……?
佐倉さん、彼女いたことないからわかんない。
そして迎えた夜。
夕方からの宿の手伝い。つまり給仕としての一働きを終え、
体を水で洗い。汲み取り式の便所に糞を出した後。
俺は部屋で自分を見ていた。
少し見ていると、あの音がして、
蒼い数字が浮かび上がる。
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佐倉・アクレギア 種族 人間 Lv 1/100
ステータス
HP
MP
STR
DFE
AGI
INT
EXP 0/100000
状態
魔物使い
スキル
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必要経験値の割に弱い。
ものすごく弱い。
俺YOEEEEE問題。
そのまま、じーっと眺めていると、
風呂から上がってきた、女子組が階段で話していた。
この建物は四階から上に、おばちゃんの居住スペースがある。
昔は、息子三人と夫の五人で暮らしていたが、息子達も家を持ち、
家に来るかとも誘われもしたが、宿の為に、ここに残っているのだ。
女子組も、というか知世さんは、今、話を聞いたらしく
かなり戸惑っている。
うん。そりゃそうなる。
廊下から足音が近ずいてくる。
ゆっくり、重い足音。間違いなく知世さんであろう。
「えっと……よろしく?サクラさん??」
戸惑い方が物凄い。
「あの、まぁ、はい。」
……気まずい。なんか話さないと……
「あのお隣はきっと盛んですし、僕らもシます?」
視界の暗転。
脳が揺れて、耳が働かず、ただ衝撃だけを感じる。
ツッコミと言うにはあまりにも過激で、重い右フックだった。
(何を話せば……)
「サクラさんでいい?」
唐突に声をかけられた。
「サクラでいいです。」
「じゃあ私も、知世でいい。」
「分かりました。」
「敬語も要らない。」
「俺もいいよ。」
「いつもの、百合に話すような感じで、」
「分かった。」
淡々としたキャッチボール。
それでも初めてのキャッチボール。
いや、最初に会った時にキャッチボールはしたんだ。
どっちかと言うと、ラリーが近いかもしれない。
こんなに長く、続いたことなんてなかったんだ。
だから、俺は、俺は……それが果てしなく嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。
そんな興奮に身を任せて、顔をニヤニヤと動かしていると、
また、声がかかる。
「宜しく、サクラ。」
「おうよ。」
転生してから五日目。2001年9月12日。
まだまだ暑い夏の暮れの頃だった。