表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

借金45689円の男

『ハレク?』


「は、はいっ!」


『あなた、きちんと説明なさったの?』


「も、申し訳ありませんっ!」


 女神を前にして、大きな図体を縮こませる男。


「おじさん? 駄目だよ? おばさん怒らせちゃ」


 事態がわかっていない奨伍は、のんびりと話しかける。


『奨伍? どうして、牢をあんなにしたんですか?』


「んぅ、暗いから! 自分のお部屋みたいにしたの。駄目だった?」


『セルバ、これを···』


 真っ白な服に長い髭を生やしたおじいさんが、奨伍に、


「これを···」


 と1枚の紙切れを差し出した。


「これ、なぁに? おばさん」


「こら、女神さまだ、女神さま!」


 ハレクが、小さな声で奨伍に言った。


「女神? おばさんが? なんで?」


『奨伍? あなたは、禁を犯し過ぎました』


「禁? なぁにそれ」


 1枚の上には、45689円と書かれていた。


「4万ごせん···えっと600と89円! 合ってる?」


『奨伍? あなたは、これからその借金を働いて返していくのです』


「働く? でも、僕まだ小学生だよ? 大人にならないと働けないよ? 女神のおばさん」


 どうやら、女神を名前と勘違いしている奨伍。


 女神は、ハレクに顔を向けると、


『ハレク? あなたも同罪ですよ?』


「はい···」


 ハレクは、縮こまった身体を更に縮こませた。


「僕、お金ない、、こんなの無理だもん」


 奨伍は、顔を青ざめて女神を見た。


『ですから、働いて返すのです。ここセルバ島は、子供でも仕事につけるのです』


 そう言われても、わからない奨伍。


『奨伍? こちらへ』


 奨伍は、どうしていいかわからず、ハレクを見やると、ハレクは顎で行けと指図した。


「うん。なに?」


『手を···』


 奨伍が、女神の前にひだり腕を差し出すと、時計のような物を嵌めた。


「時計?」


『では御座いません。奨伍は、今からこれをつけて冒険に行きます』


「うん」


『そして、ワルモノを退治した報酬をこの時計の中に入れるのです。その赤いボタンを押してご覧なさい』


 奨伍は、言われるがままに小さな赤いボタンを押すと、


『お呼びですか? 奨伍さま』


「モニターのお姉さんの声だ」


『返済額、と言えば、今残っている金額が映し出され、報酬の金額を言い返済と言えばその額が引かれていくのです。もしわからなければ、ハレクに聞きなさい』


「うん」


 奨伍は、いまだ身体を小さくさせているハレクに近付いた。


「おじさん、おしっこ」


『おいきなさい。ハレク? 頼みましたよ?』


 女神はそう言うと、なにやらブツブツ言いながらセレン城へと戻っていった。



「おしっこ。トイレーーーっ!」


 股間を押さえ、足をバタバタさせた奨伍はハレクに小脇に抱えられ、なんとかトイレに行くことが成功した。


「おじさん。これなぁに? 当たったらなんか出た」


 奨伍は、映し出されたいくつかの文字の意味がわからず、ハレクに尋ねた。


「これはこれは···。これは、お前さんのステータスだ」


「ステータス?」


「名前の左に書いてあるのが、お前さんのレベル。素早さ、防御力、魔法まだ全てが0だけどな」


「ゲームみたい」


 奨伍は、クリスマスプレゼントでサンタクロースから、VOS5を貰う筈だったのを思い出した。


「ハレクのおじさん。僕、ほんとに死んだの?」


「そうさ。俺もあそこで働いてる奴らも並んでる奴らも、な。ただ、この世界は変わっててな、そいつが生きてた時代の服や食い物、お金がそのまま出てくるし、普通に使える」


「うん。僕あの部屋でハンバーガー食べたもん。ポテトチップスもコーラも飲んだ。おんなじ味だった」


「ここはいいぞ···。さ、お前もここに並ぶんだ」


 エンゼル服を着た男女の最後尾に初伍も並ぶ。その後ろに、ひとりふたりとまた並んでいき、奨伍はゆっくりと前へと進んでいった。



「名前は?」


「高岡奨伍···です。年は、8歳小学生です」


 受付にいたおじさんは、モニターで何かを歯ている。


「ほぅ、これは···。高岡奨伍くんね。はい、旅立ちの費用8000円。あってるかな? 日本のお金に」


「うん。でも、僕のこんな大金···」


「これは、君の年齢にあったお金だから。遠慮することはない。これで、旅に必要な物を買いなさい。じゃ、次の方」


 奨伍は、わけもわからずお金を受け取りハレクに渡そうとするが、


「パネルの緑のボタンが、財布になってるからそこに入れろ」


 と言い、緑のボタンを押してから渡された8000円をしまった。


「買い物をする時は、これを差し出すだけでいいからな」


「うん」



 受付みたいな場所空離れ、奨伍はハレクに連れられてスーパーみたいな場所へと行き、旅に必要な物を買った。


『残金は、7651円です』


 鞄、水筒、筆記用具と難しそうな本を買った(ホンは買わされた!)奨伍は、ハレクにしがみついた。


「行くぞ」


「うん。僕、なにするの?」


 奨伍は、ハレクに肩車をされ、そう答えるもハレクは、何も言わなかった。


(奨伍は、本当に人間なのか? 裏魔法MAXって···)



「いいものを見せてやる」


「うん」


 ハレクは、奨伍にそう言うと、鏡の泉へとやってきた。


「あ、噴水だ」


「ただの噴水じゃない。好きな人を考えて覗いてみろ」


 肩から降ろされた奨伍は、泉の水面をジッと見つめていた。


「見えたか?」


「うん。僕がいた」


「違う。あれはお前さんの弟だ」


 鏡の泉は、心から会いたがってる人が映し出される。生きてさえいれば···


「僕の写真。いっぱい部屋にあった」


「お前は、運悪く死んだけど、家族の心ではまだ生きてるんだ」


「うん···わがっだ···」


 現実を受け止めるには酷かも知れない。だが、俺もそうやって乗り越えてきた。ここにいる奴らも、な。



 久し振りに沙穂の顔が見れた。元気そうで良かったよ···

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ