第6話:バッキンガム宮殿の鉄壁ガード
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「これが最後であってくれ」って願いも虚しく、今日も新たな試練が待ってる気がしてた。昨日の山寺で蝉の声に罪悪感マックスだったし、もう静かな場所は勘弁って思ってたけど……。
今日は朝に食ったコンビニのハンバーガーが胃の中で暴れてて、仕方なくトイレに駆け込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うおっ、バッキンガム宮殿!?」
目の前には、赤い制服に黒い熊皮帽をかぶった近衛兵がピクリとも動かず立ってる。背後にはバッキンガム宮殿の荘厳な建物がドーンと構えてて、観光客が「オーッ!」とか言いながら写真撮ってる。で、俺はいつものように便器ごと、その近衛兵の真ん前にポツン。
「いや、マジかよ……立哨中の近衛兵の前でトイレって、緊張感やばすぎだろ!」
周りは観光客で賑わってるけど、近衛兵は微動だにしない。目だけがジッと前を見つめてて、俺と目が合う……わけねえよな? 「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの至近距離、息するのも怖いレベルだ。だって、俺がいるの、この近衛兵の鼻先50センチくらいだぞ!
腹の中じゃ、ハンバーガーの油とレタスの残党がグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所で用を足すとか、羞恥心より先に「動いたら怒られるんじゃね?」って変なプレッシャーが襲ってくる。あの近衛兵、動かないことで有名だけど、俺が何かやらかしたらどうなるんだ?
「おっ、おっ、おっ……落ち着け、俺! 出せば終わるんだ!」
その時、観光客の子供が「ねえ、あのおじさん動かないの?」って指差してきた。近衛兵じゃなくて俺のことか!? いや、見えてねえはずだよな。錯覚だ。錯覚にしろ! 俺は息を殺して腹に全神経を集中する。
近衛兵の無表情な顔が、なんか俺を監視してるみたいで心臓バクバク。そしたら風が吹いてきて、観光客の「ワーッ!」って声と一緒に俺の腹が「ぐぅう」って鳴った。やばい、音でバレる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の安定感が、いつも以上にホッとする。汗だくで息を整えながら、俺は呟いた。
「バッキンガム宮殿の近衛兵前って……あの無表情な目で見つめられながらトイレとか、メンタル崩壊するだろ……」
考えてみれば、あの近衛兵、俺のこと本当に見えてなかったよな? 動かなかったし。あの鉄壁のガードっぷり、逆に尊敬するわ。でも、あの緊張感の中でやった事実は消えねえ。俺の心、もうボロボロだよ。
「ったく、次はどこだよ……もうガチガチに監視されるとこは勘弁してくれ」
ハンバーガーはしばらく見たくもねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。




