第3話:高輪ゲートウェイの華麗なる混乱
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活にも、そろそろ慣れてもいい頃だと思うけど、やっぱり無理だ。昨日は平安時代の庭で貴族に笑われ、その前は渋谷のハロウィンで脱糞ミッション。もう何が来ても驚かねえよ……とか思ってた俺が甘かった。
今日は朝から腹がギュルギュル鳴ってて、覚悟を決めてトイレに飛び込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うわっ、高輪ゲートウェイ駅!?」
目の前には、ピカピカの駅舎とキラキラした装飾。巨大なスクリーンには「高輪ゲートウェイ駅 開業記念セレモニー」の文字がデカデカと映ってる。スーツ姿の偉いさん達が壇上でスピーチしてて、観客は拍手喝采。ドローンがブンブン飛び回り、なんか未来的な音楽まで流れてる。で、俺はいつものように便器に座ったまま、そのど真ん中にポツン。
「いやいやいや、オープニングセレモニーのど真ん中でトイレって何!」
周りを見渡すと、報道陣がカメラ構えてたり、制服の駅員が忙しそうに走り回ってたり。俺のすぐ横では、なんかロボットっぽい案内係が「ようこそ、高輪ゲートウェイへ!」とか喋ってる。未来的すぎるだろ、この駅! でも、そんな華やかな雰囲気の中で、俺は腹痛と戦ってるわけ。マジでシュールすぎる。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたいけどさ。こんな大勢の前で用を足すとか、精神が持たねえよ! しかも腹の中、昨日の激辛ラーメンがまだ暴れてて、時間がない。
壇上のスーツ男が「この駅は未来への第一歩です!」とか熱弁してる中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、ドローンが俺の頭上スレスレを通過。風圧で髪がバサッてなって、思わず「うわっ!」って声が出た。やばい、声出したら見つかるんじゃね!? でも誰もこっちを見ない。ほっとした瞬間、腹が限界を迎えた。
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光が弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇の音と、便器の冷たさがやけにホッとする。汗だくで息を整えながら、俺は呟いた。
「高輪ゲートウェイの開業セレモニーでトイレとか、未来感と羞恥心のコラボがエグすぎるだろ……」
考えてみれば、あのドローン、俺のこと感知してなかったよな? 見えてない証拠か。でも、あの賑わいの中で用を足した事実は消えねえ。俺のメンタル、もうボロボロだよ。
「ったく、次はどこだよ……もう駅関係は勘弁してくれ」
激辛ラーメンは二度と食わないと誓いつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな。