第2話:平安貴族の優雅な誤算
俺、佐藤太一、18歳。この一週間で人生観が変わるくらいトイレに振り回されてる高校生だ。引っ越し先のアパートのトイレがただの便器じゃなくて、どこかにワープする呪われた装置だってことは、もう受け入れた。受け入れたけどさ、慣れるわけねえだろ!
今日は昼飯に食ったコンビニのカレーパンが胃の中で暴れてて、仕方なくトイレに駆け込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うおっ、なんじゃこりゃ!」
目の前には、雅な和風の庭園が広がってる。池に浮かぶ蓮の花、遠くで聞こえる琴の音、そしてふわっと香るお香。めっちゃ平安時代っぽい雰囲気だ。で、俺はいつものように便器に座ったまま、その庭のど真ん中にポツンと出現。しかも目の前には、扇子を持った貴族っぽい女の人が優雅にこっちを見てる。
「え、待て待て待て! 見えてるのか!?」
慌てて立ち上がろうとしたけど、便器がガッチリ固定されてて動けない。いや、動いたらもっとヤバいか。俺の心臓がバクバクしてる間に、彼女が口を開いた。
「ほほ、お主、何やら珍しき姿にて現れたのぅ。さては異邦の者か?」
声が優雅すぎて逆に怖い。彼女、紫の十二単に長い黒髪、完全に平安貴族の教科書通りだ。でも「異邦の者」って……まあ、そう見えるよな。Tシャツにジーパンで便器に座ってる高校生なんて、この時代じゃ浮きまくりだ。
「いや、あの、ちょっと事情があって……」
言い訳を考えてる間に、腹が「ぐぅう」と鳴った。やばい、カレーパンの反乱が限界にきてる。この優雅な庭で脱糞ミッションとか、マジで罰ゲームだろ!
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルールのはずなのに、この貴族女、めっちゃこっち見てる気がする。いや、錯覚だろ。錯覚であってくれ! 羞恥心と戦いながら、俺は腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……くそっ、集中しろ!」
貴族女が扇子で口元を隠して「くすくす」って笑ってる。笑うなよ、マジで! 俺だってこんな場所でやりたくねえんだよ!
ぽとっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、次の瞬間にはアパートの狭いトイレに帰還。便器の冷たい感触と、換気扇のブーンって音が妙に安心する。俺は汗だくで息を整えた。
「平安時代って、あんな優雅な雰囲気の中でトイレとか最悪だな……」
考えてみりゃ、あの貴族女、俺のこと本当に見えてたのか? いや、まさかな。見えてたらあんな落ち着いて笑ってねえよな。……よな?
「ったく、このトイレ、次はどこに飛ばす気だよ……」
とりあえず、カレーパンはもう二度と食わねえと心に誓いつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがまた怖いんだよな、これ。