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第22話:本能寺アフレコと歴史オタクの葛藤

俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう慣れたろ」って言い聞かせても、毎回心が折れる場所に放り込まれる。最近は世界各国の料理にハマってて、それが腹痛の原因になってるのは分かってる。昨日は砂漠でフンコロガシにシュールさにやられたし、もう暑すぎる場所は勘弁って思ってたけど……今回は涼しいどころか、俺の歴史オタク魂が震える場所が待ってた。

今日は昼に食った日本の「寿司」が胃の中でモヤモヤしてて、マグロの脂と酢飯の酸味が腹をギュルギュル鳴らしてる。耐えきれずトイレに駆け込んだ俺は、ドアをガチャッと開けた。瞬間――。

「うおっ、アフレコ現場!?」

目の前には、防音壁に囲まれたスタジオ。マイクがズラッと並び、ガラス越しのブースにはミキサーやスタッフがモニター見てる。机には台本が積まれてて、「カチン」と音がして録音が始まる合図が響いてる。で、俺はいつものように便器ごと、そのスタジオのど真ん中にポツンと出現。そして――目の前に、俺が大好きなアニメ『本能寺から始める信長との天下統一』の初話プロローグのアフレコが行われてる。

「いや、マジかよ……『本能寺』のプロローグのアフレコ現場でトイレって、歴史と夢が燃えすぎだろ!」

『本能寺から始める信長との天下統一』、俺が高校生になってからドハマりした歴史ファンタジーアニメ。織田信長が本能寺の変で死なずに天下を目指す話で、初話プロローグは本能寺炎上の緊迫感から始まる名シーンだ。信長役の声優さん(以下●●さん)が「我が命、燃え尽きぬ限り天下は我が手中に!」って低く響く声で叫んでる。茶々役の声優さん(以下□□さん)が「兄上、無茶はなりません!」って切なげに返す。距離、3メートルくらい。スタジオの空調が効いてて涼しいけど、寿司の魚臭が鼻に残ってて、汗が冷たくなる。

プロローグの設定じゃ、本能寺が炎に包まれる中、信長が異世界への門を見つけて覚悟を決める場面だ。お初役の声優さん(以下△△さん)が「伯父上様、ここで終わるわけには!」って力強く叫び、お江役の声優さん(以下◇◇さん)が「まこ~、私も参るよ!」って決意を込めてる。俺、このシーン何度もリピートして見てるから台詞覚えてるレベルだ。声優さんたちの熱演がマイク越しに響いて、俺のオタク心が「うおおお!」って叫びそうになる。

「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、●●さんの迫力ある息遣いや、台本をめくる「パラッ」って音が耳にガンガン入ってくるんだぞ! スタジオの空気がひんやりしてて、便器の冷たさが尻に染みる。ガラス越しのスタッフが「プロローグの炎上シーン、次テイク2から!」って指示出してるのが聞こえる。こんな神聖な場所で用を足すとか、羞恥心が本能寺の炎より熱くなっちまう。

腹の中じゃ、寿司のマグロとイカがグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が歴史オタクの夢と緊張で爆発しそう。●●さんが「我が野望、ここから始まる!」ってド迫力で叫んでる中、俺は必死に腹に力を入れる。

「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」

その時、□□さんがマイクから離れて、俺の方に近づいてきた。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも彼女、俺をスルーして机の水ボトル取って「喉乾いた~」って呟いて戻った。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、スタッフが「ちょっとノイズ入ったかも?」ってブースで首傾げた。寿司の匂いか!? 俺の心臓がバクバクだ。

録音の合間に紛れて、俺の腹が「ぐぅうう」って鳴った。●●さんが一瞬「ん?」って顔した。やばい、音でバレる!?

ぷすっ。

「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」

光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の安定感が、いつも以上に現実に戻してくる。全身汗だくで、寿司の魚臭がまだ鼻に残ってる。息を整えながら、俺は呟いた。

「『本能寺から始める信長との天下統一』のプロローグって……大好きなアニメの前でトイレとか、歴史オタクの魂が穢れるだろ……」

考えてみれば、あの声優さんたち、俺のこと本当に気づいてなかったよな? スタッフの「ノイズ」は偶然だろ。でも、あの本能寺の熱いプロローグの中でやった事実は消えねえ。俺のメンタル、もう信長の野望みたいに燃え尽きてるよ。

「ったく、次はどこだよ……もうオタク絡みは勘弁してくれ

寿司は当分食わねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。



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