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第19話:北極の氷とシロクマの視線

俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう限界だろ」って叫びも虚しく、毎回心を抉る場所に放り込まれる。最近は世界各国の料理にハマってて、それが腹痛の原因になってるのは確実だ。昨日は親父の会社のデスク前で気まずさに死にそうになったし、もう家族絡みは絶対勘弁って思ってたけど……今回は自然が相手で別の意味でヤバい。

今日は昼に食ったロシアの「ボルシチ」が胃の中でモヤモヤしてて、ビーツの濃い味とサワークリームの重さが腹をギュルギュル鳴らしてる。耐えきれずトイレに駆け込んだ俺は、ドアをガチャッと開けた。瞬間――。

「うおっ、北極!?」

目の前には、果てしない白い氷原が広がってる。冷たい風が「ヒュウウ」と吹き抜けて、顔にチクチク刺さってくる。遠くの氷が「パキッ」と割れる音が響き、空は薄い灰色で太陽がぼんやり霞んでる。で、俺はいつものように便器ごと、その氷原のど真ん中にポツンと出現。そして――目の前に、親子シロクマがいる。

「いや、マジかよ……北極のシロクマの前でトイレって、寒さと恐怖で死ぬだろ!」

でかい母シロクマが、子シロクマを連れて氷の上をトコトコ歩いてる。母ちゃんの白い毛が風に揺れてて、鼻を「クンクン」って動かしながらこっちを見てる。子シロクマは母ちゃんの足元で「クゥ」と鳴いて、氷にじゃれてるのが可愛い。でもその親子、俺から5メートルくらいしか離れてねえ。距離近すぎて、シロクマの吐く息が白い霧になって見える。ボルシチのビーツ臭が鼻に残ってるけど、この寒さで感覚が麻痺しそうだ。

「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、母シロクマの黒い目が俺をガン見してる気がするんだぞ! 氷の冷たさが便器越しに尻に伝わってきて、Tシャツじゃ耐えきれねえ寒さに歯がガチガチ鳴ってる。風が強くなると「ゴオオ」と唸って、氷の表面がキラキラ光るのが目に入る。こんな極寒の場所で用を足すとか、羞恥心より先に「凍死するんじゃね?」って恐怖が全身を包む。

腹の中じゃ、ボルシチの濃厚なスープと野菜がグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が寒さと緊張で凍りつきそう。母シロクマが一歩近づいてきて、鼻を「スンスン」って鳴らした。やばい、ボルシチの匂いでバレる!? 俺は必死に腹に力を入れる。

「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」

その時、子シロクマが俺の方にトテトテ走ってきた。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも子シロクマ、俺のすぐ横で止まって、氷を「ペロッ」って舐めて母ちゃんの方に戻った。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、母シロクマが「グルル」と低く唸って、俺の方に首を傾げた。心臓がバクバクで、寒さで手が震えてきた。

氷原の静寂に紛れて、俺の腹が「ぐぅうう」って鳴った。母シロクマの耳がピクッと動いた。やばい、音でバレる!?

ぷすっ。

「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」

光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の安定感が、いつも以上に温かく感じる。全身汗だくで、でも手足は北極の寒さが残っててガタガタ震えてる。ボルシチのビーツの匂いが鼻にこびりついてて、息を整えながら俺は呟いた。

「北極のシロクマって……親子の前でトイレとか、寒さと恐怖が極端すぎだろ……」

考えてみれば、あのシロクマ、俺のこと本当に気づいてなかったよな? 子シロクマが舐めたの、ただの氷だろ。でも、あの極寒の中でやった事実は消えねえ。俺のメンタル、もう氷点下で凍りついてるよ。

「ったく、次はどこだよ……もう極端すぎるとこは勘弁してくれ」

ボルシチは当分食わねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。



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