第1話:渋谷ハロウィンのど真ん中
俺の名前は佐藤太一、18歳。ごく普通の高校生だ……って言いたいところだけど、最近の俺の日常は「普通」から程遠い。原因は引っ越し先のアパートに付いてきた、曰く付きのトイレ。あの日以来、俺がトイレのドアを開けるたびに、そこはもうただのトイレじゃない。どこか知らない場所に繋がっちまう、超面倒なワープ装置になってるんだ。
今日も朝から腹の調子が怪しくてさ。仕方なくトイレに駆け込んだら――。
「うわっ、渋谷交差点のど真ん中かよ!」
目の前には、ハロウィンで盛り上がる仮装集団が渦巻いてる。カボチャ頭のゾンビやら、キラキラの魔法少女やら、挙句の果てには謎の巨大タコ男まで。喧騒の中、俺は便器に座ったまま呆然と立ち尽くす。いや、座ってるんだから「立ち尽くす」は変か。まあいい。とにかく、ここで用を足さないと元の世界に戻れないってのが、このクソトイレのルールなんだよ!
「マジかよ……みんな楽しそうに騒いでる最中に、俺は脱糞ミッションか……ハードすぎだろ!」
目の前にいるのは、ピカピカのマントを翻した「自称・闇の王」っぽいコスプレイヤー。顔に謎のタトゥーシール貼って、王冠まで被ってる。ハロウィンってこういう感じじゃなくね? お化けとかホラー系じゃないの? こんなシュールな状況で集中できるかよ!
「いや、落ち着け俺。『俺からは見えてるけど、向こうからは見えない』ってルールだろ? 分かってる、分かってるけど……ハードル高すぎるって!」
羞恥心と戦いながら、俺は腹に全神経を集中させる。おっ、おっ、おっ、おっ、なんとか出そう……よし、気合入れろ!
ぽちゃっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
次の瞬間、目の前が真っ白に光って、俺はアパートの狭いトイレに戻ってた。便器の冷たい感触と、換気扇の微かな音。やっと現実だ。心臓バクバクで息を整えながら、俺は思う。
「本当に何でこんなトイレ付きの部屋に住んじまったんだろ……」
引っ越した当初は「駅近で家賃安い、ラッキー!」とか浮かれてたのに、今じゃ毎回トイレが命がけの冒険だ。昨日は戦国時代の城下町で野グソさせられたし、一昨日は宇宙船のコックピットで……いや、思い出したくもない。
「ったく、次のトイレはどこに飛ばされるんだよ……」
とりあえず、腹痛が収まったことに感謝しつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。次に開けるのが、ちょっと怖いけどさ。