第16話:彩花ちゃんのUNIQLOと恋の混乱
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう慣れたろ」って自分に言い聞かせても、毎回予想を裏切る展開に心が折れそう。世界各国の料理にハマってるせいで腹痛も多国籍で、昨日は大英博物館でチップス&フィッシュに苦しんだし、もう厳かすぎる場所は勘弁って思ってたけど……今回は身近すぎて、しかも心臓に悪すぎる。
今日は昼に食った日本の「たこ焼き」が胃の中でモヤモヤしてて、タコの歯ごたえとソースの甘辛さが腹をギュルギュル鳴らしてる。耐えきれずトイレに駆け込んだ俺は、ドアをガチャッと開けた。瞬間――。
「うおっ、UNIQLO!?」
目の前には、カラフルなTシャツやフリースが山積みにされた棚。蛍光灯が明るく照らす店内で、「ヒートテック50%オフ!」ってポップが目に入る。買い物客がカゴを持ってウロウロしてて、レジの「ピッ、ピッ」って音が響いてる。で、俺はいつものように便器ごと、その服の棚のど真ん中にポツンと出現。そして――目の前に、俺の片想いの相手、山本彩花ちゃんがいる。
「いや、マジかよ……彩花ちゃんがバイトしてるUNIQLOでトイレって、心が死ぬだろ!」
彩花ちゃん、クラスのマドンナで俺の大好きな子。前に彼女のリビングに転移した時も死ぬほど緊張したけど、今はバイト中の制服姿。黒いUNIQLOのポロシャツに名札つけて、棚の服を「ササッ」と整理してる。笑顔で「こちらでお預かりしますね!」って客に声かけてる姿が可愛すぎて、俺、便器に座ったままフリーズ。距離、2メートルくらい。たこ焼きのソースの匂いが漂う中、彼女のシャンプーの香りが混ざってきて頭クラクラだ。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、彩花ちゃんのスニーカーの「キュッ」って音や、服を畳む「パタ、パタ」って音がガンガン聞こえてくるんだぞ! こんなカジュアルな空間で、しかも好きな子の前で用を足すとか、羞恥心がヒートテックより熱くなっちまう。たこ焼きの油っぽさが鼻に残ってるのも、彼女の前じゃ汚物感あって最悪だ。
腹の中じゃ、たこ焼きのタコと生地の重さがグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が恋と緊張で爆発しそう。彩花ちゃんが「この色、可愛いですよね!」って客に笑顔で話しかけてる中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、彩花ちゃんが俺のすぐ横にしゃがんで、棚の下から服を取った。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも彼女、服持って立ち上がって「これですね!」って客に渡した。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、彼女の目が俺の方をチラッと見た気がして、心臓が止まりそうになった。錯覚だろ、マジで頼む!
店のBGMに紛れて、俺の腹が「ぐぅうう」って鳴った。彩花ちゃんが一瞬「ん?」って顔して首傾げた。やばい、音でバレる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の安定感が、いつも以上に現実に戻してくる。全身汗だくで、たこ焼きのソースの匂いと彩花ちゃんのシャンプーの残り香が混ざって混乱。息を整えながら、俺は呟いた。
「彩花ちゃんのUNIQLOって……好きな子のバイト先でトイレとか、恋心が穢れるだろ……」
考えてみれば、彼女、俺のこと本当に気づいてなかったよな? 首傾げたの、偶然だろ。でも、あの可愛い笑顔の前でやった事実は消えねえ。俺の片想い、もうUNIQLOの値札みたいに安っぽくなっちまった気分だよ。
「ったく、次はどこだよ……もう彩花ちゃん絡みは絶対勘弁してくれ」
たこ焼きは当分食わねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。