第15話:大英博物館の静寂と油の反乱
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう嫌だ」って叫びも虚しく、毎回予測不能な場所に放り込まれる。最近じゃ、世界各国の料理にハマってて、インドのカレー、メキシコのタコス、韓国のキムチとか色々食べてるけど、それが腹痛の原因になってる気もする。昨日は深海で大王イカにビビりまくったし、もう怖すぎる場所は勘弁って思ってたけど……今回は別の意味でプレッシャーがヤバい。
今日は昼に食ったイギリスの「チップス&フィッシュ」が胃の中でモヤモヤしてて、フィッシュの油っぽさとポテトの重さが腹をギュルギュル鳴らしてる。耐えきれずトイレに駆け込んだ俺は、ドアをガチャッと開けた。瞬間――。
「うおっ、大英博物館!?」
目の前には、薄暗い展示室。高い天井に反響する足音、ガラスケースに並んだ古代の壺や彫像が静かに佇んでる。壁にはエジプトのヒエログラフが刻まれた石板がデカデカと飾られてて、遠くで「カツ、カツ」と警備員の靴音が響いてる。で、俺はいつものように便器ごと、その展示室のど真ん中にポツンと出現。
「いや、マジかよ……大英博物館でトイレって、知的な空気に耐えきれねえだろ!」
すぐ横には、ロゼッタストーンが鎮座してる。黒い石に刻まれた文字が、まるで俺を監視してるみたいだ。周りは観光客が「オー、ファンタスティック!」とか囁きながら写真撮ってるけど、声が小さくて逆に緊張感ある。ガラスケースの反射に俺の便器が映り込んでて、場違い感がハンパねえ。空気がひんやりしてて、床の大理石が冷たく光ってるのが足元に伝わってくる。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの静けさ、観光客のスニーカーの「キィ」って音や、警備員の無線が「ザザッ」って鳴るのが耳にガンガン入ってくるんだぞ! こんな荘厳な場所で用を足すとか、羞恥心が歴史の重さに押し潰されそう。チップス&フィッシュの油が鼻に残ってるのも、なんか場にそぐわなくて罪悪感倍増だ。
腹の中じゃ、フィッシュの衣の油とポテトのデンプンがグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が知性と緊張でギュッて締め付けられる。観光客の一人が「この石、紀元前からあるんだって!」って感心してる中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、警備員が俺のすぐ横を通り過ぎた。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも彼、俺をスルーして展示物の埃をチェックして立ち去った。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、観光客の子供が「何か臭うね?」って母親に囁いた。チップス&フィッシュの油臭か!? 俺の汗が冷たくなった。
展示室の静寂に紛れて、俺の腹が「ぐぅうう」って鳴った。近くの老夫婦が一瞬「ん?」って顔した。やばい、音でバレる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の安定感が、いつも以上にホッとする。全身汗だくで、フィッシュの油っぽい匂いがまだ鼻に残ってる。息を整えながら、俺は呟いた。
「大英博物館って……ロゼッタストーンの前でトイレとか、歴史に失礼すぎだろ……」
考えてみれば、あの観光客や警備員、俺のこと本当に気づいてなかったよな? 子供の「臭う」発言は偶然だろ。でも、あの知的で静かな空間でやった事実は消えねえ。俺のメンタル、もう古代遺跡レベルで崩れてるよ。
「ったく、次はどこだよ……もう厳かすぎるとこは勘弁してくれ」
チップス&フィッシュは当分食わねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。




