第13話:玉入れの籠と無垢な嵐
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もうやめてくれ」って叫びも虚しく、毎回想像を超える場所に放り込まれる。昨日は硫化水素の温泉谷で毒ガスにやられそうになったし、もう命に関わる場所は勘弁って思ってたけど……今回は別の意味で心が折れそうだ。
今日は朝に食ったコンビニのハムチーズサンドが胃の中でモヤモヤしてて、仕方なくトイレに駆け込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うおっ、幼稚園!?」
目の前には、色とりどりの旗がパタパタ揺れる運動場。青空の下、園児たちが「えいえいおー!」って元気に叫んでる。赤と白のハチマキを締めた子供たちが、玉入れの籠に向かってカラフルなボールをポイポイ投げてる。で、俺はいつものように便器ごと、その玉入れの籠の真下にポツンと出現。
「いや、マジかよ……幼稚園の運動会でトイレって、無邪気すぎて逆にキツいだろ!」
籠の上では、ボールが「ポン、ポン」と当たって跳ね返り、時々「ガサッ」と籠の中に入ってくる。すぐ横では、園児たちが「もっと投げてー!」って走り回ってる。小さな手で一生懸命ボールを握って、ニコニコ笑いながら投げる姿が可愛すぎる。でもその下で、俺は便器に座ってるわけ。籠の影が俺の頭に落ちてきて、運動場の砂埃が鼻をくすぐる。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、園児の汗と笑顔の熱気がガンガン伝わってくるんだぞ! スピーカーからは「次は玉入れの最終ラウンドです!」ってアナウンスが流れてきて、応援する保護者の「がんばれー!」って声が響いてる。こんなほのぼのした場所で用を足すとか、羞恥心が子供たちの笑い声よりデカい。
腹の中じゃ、ハムチーズサンドの油がグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな無垢な空間でミッションとか、心が罪悪感でギュッて締め付けられる。園児の一人が「籠に入ったー!」って跳ねて喜んでる中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、ちっちゃい女の子が俺のすぐ横でボールを落としちゃって、「あー!」ってしゃがみ込んだ。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも彼女、ボールを拾って「えへへ」と笑って立ち去った。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、籠にボールがドサッと入ってきて、頭に軽く当たった。「痛っ!」って声出そうになったけど、グッと堪えた。
子供たちの「やったー!」って歓声に紛れて、俺の腹が「ぐぅう」って鳴った。近くの先生が一瞬「ん?」って顔した。やばい、音でバレる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の冷たさが、いつも以上にホッとする。汗だくで息を整えながら、俺は呟いた。
「幼稚園の運動会って……玉入れの籠の下でトイレとか、無邪気な笑顔に罪悪感マックスだろ……」
考えてみれば、あの園児たち、俺のこと本当に気づいてなかったよな? ボール拾った子も笑ってただけだし。でも、あのピュアな空間でやった事実は消えねえ。俺の心、もう穢れちまった気分だよ。
「ったく、次はどこだよ……もう可愛すぎるとこは勘弁してくれ」
ハムチーズサンドは当分パスだなと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。