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第12話:硫化水素の谷と息苦しい試練

俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう死にたい」って叫びも虚しく、毎回想像を絶する場所に放り込まれる。昨日は長篠の戦いで鉄砲と馬に囲まれて心臓が縮こまったし、もう戦場みたいなカオスは勘弁って思ってたけど……今回は別の意味で命が危ねえ。

今日は昼に食ったコンビニのキムチチャーハンが胃の中で暴れ回ってて、ピリ辛の余韻が腹をギュルギュル鳴らしてる。耐えきれずトイレに駆け込んだ俺は、覚悟を決めてドアをガチャッと開けた。瞬間――。

「うおっ、なんじゃこの臭い!?」

目の前に広がるのは、深い谷間に切り立った岩壁がそびえる荒涼とした風景。足元にはゴツゴツした黒い石が転がり、地面から白い湯気がモクモクと立ち上ってる。温泉の源泉だ。硫黄のツンとした匂いが鼻を刺し、喉の奥までジリジリくる。遠くを見ると、谷の奥に小さな滝が流れ落ちてて、その水面が緑がかった色で不気味に揺れてる。で、俺はいつものように便器ごと、その谷のど真ん中にポツンと出現。

「いや、マジかよ……硫化水素が発生してる温泉の谷でトイレって、死ぬ気か!」

見回すと、岩に打ち付けられた「立ち入り禁止」の看板が錆びついて傾いてる。風がビュウッと吹き抜けるたび、湯気と一緒に硫化水素の腐った卵みたいな臭いが鼻にガツンとくる。目がチカチカして涙が出てきた。こんな場所、普通なら近づくのも嫌なのに、俺は便器に座って動けない。遠くの木々の間からカラスが「カア、カア」と不吉に鳴いてて、谷全体がまるで生き物の息づかいみたいに不気味だ。

「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの状況、硫化水素の濃度がヤバそうで、ルール以前に「吸いすぎたら死ぬんじゃね?」って恐怖が頭をよぎる。鼻と口を手で押さえても、臭いが指の隙間から侵入してきて逃げ場がない。湯気が俺の周りを包み込んで、Tシャツがじっとり湿ってくる。足元の岩が熱くて、便器の下が微妙に温かいのも気持ち悪い。

腹の中じゃ、キムチチャーハンの辛さが胃を締め付けて、汗が額からポタポタ落ちてる。時間がない。こんな毒ガス漂う谷で用を足すとか、羞恥心より先に生存本能が全力で拒否ってる。遠くで滝の水が「ザアア」と落ちる音に混じって、俺の腹が「ぐぅうう」と唸った。硫化水素の臭いとキムチの辛さが混ざって、頭がクラクラしてきた。

「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ! 早く終わらせて帰りたい!」

その時、風向きが変わって、湯気が一気に俺を包んだ。視界が真っ白になり、硫黄の臭いが喉を焼くように襲ってくる。「うげっ!」って咳き込んだ瞬間、便器がグラッと揺れた。やばい、岩が崩れる!? 俺は慌てて便器の縁を掴んで耐える。でも揺れはすぐ収まって、ただの風だったらしい。心臓がバクバクして息が上がる中、俺は必死に腹に力を込めた。

硫化水素の臭いと滝の音に紛れて、俺の腹がまた「ぐぅうう」と鳴った。カラスが一羽、俺の上を旋回して不気味に鳴いた。やばい、このままじゃ意識が飛びそう!

ぷすっ。

「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」

光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の冷たさが、いつも以上に天国に感じる。全身汗だくで、硫黄の臭いがまだ鼻に残ってる。咳き込みながら息を整えて、俺は呟いた。

「硫化水素の温泉谷って……毒ガス漂う中でトイレとか、命がけすぎだろ……」

考えてみれば、あの谷、誰もいなかったから見られる心配はなかったけど、硫化水素で死にかけた事実は消えねえ。鼻が慣れるまでしばらく臭いが取れそうにないし、目もまだチカチカしてる。俺のメンタル、もう限界突破だよ。

「ったく、次はどこだよ……もう命に関わるとこは絶対勘弁してくれ」

キムチチャーハンは二度と食わねえと心に誓いつつ、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。



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