第10話:遊郭の艶と騒乱
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「もう嫌だ」って叫びも虚しく、毎回新たな地獄が待ってる。昨日はヤンデレ美少女の部屋で命の危機感じたし、もうストーカー系は勘弁って思ってたけど……今回は別種のプレッシャーがヤバい。
今日は昼に食ったコンビニの唐揚げ弁当が胃の中でモヤモヤしてて、仕方なくトイレに駆け込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うおっ、遊郭!?」
目の前には、畳敷きの部屋に赤い提灯が揺れてて、三味線の音が「ジャーン」と響いてる。豪華な着物を着た花魁が、扇子片手に客と笑い合ってる。で、俺はいつものように便器ごと、その宴会のど真ん中にポツン。花魁の横には酔っ払ったおっさんが「もう一杯!」って騒いでて、周りは芸者やら客やらでごった返してる。
「いや、マジかよ……江戸の花魁と宴会中にトイレって、場違いすぎだろ!」
花魁、めっちゃ美人だ。髪に簪刺して、笑うたびに扇子で口元隠してる。色っぽい声で「旦那様、もっとお酌しましょうか?」とか言ってるけど、俺は目の前で便器に座ってるわけ。距離、1メートルくらい。こんな華やかな空間で俺だけ異物感バリバリだ。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、三味線の音に混じって花魁の花みたいな香水まで届いてくるんだぞ! こんな賑やかな場所で用を足すとか、羞恥心が宴会の喧騒よりデカい。
腹の中じゃ、唐揚げの油がグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が混乱で爆発しそう。花魁が「さあ、皆で踊りましょう!」って立ち上がって客を煽る中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、酔っ払いのおっさんが俺の方にフラッと近づいてきた。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でもおっさん、俺をスルーして床に置かれた酒瓶取って戻った。見えてねえよな……よな? でもその瞬間、花魁が俺の方をチラッと見て「ふふっ」と笑った。え、見えてる!?
宴会の喧騒に紛れて、俺の腹が「ぐぅう」って鳴った。花魁が扇子で口隠してまた笑った。やばい、音でバレてる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の冷たさが、いつも以上にホッとする。汗だくで息を整えながら、俺は呟いた。
「遊郭の宴会って……花魁の艶っぽい笑顔の前でトイレとか、頭おかしくなるだろ……」
考えてみれば、あの花魁、俺のこと本当に気づいてなかったよな? 笑ったの、偶然だろ。でも、あの華やかな雰囲気の中でやった事実は消えねえ。俺の羞恥心、もう江戸時代レベルだよ。
「ったく、次はどこだよ……もう賑やかすぎるとこは勘弁してくれ」
唐揚げ弁当は当分パスだなと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。