第8話:リビングの極端な羞恥
俺、佐藤太一、18歳。この呪われたトイレに振り回される生活、もう何度目かの「マジでやめてくれ」って叫びも虚しく、毎回想像を超えてくる。昨日は宇宙船内で触手にビビりながら用を足したし、もう未知の場所は勘弁って思ってたけど……今回は別ベクトルでヤバい。
今日は昼に食ったコンビニのツナおにぎりが胃の中でモヤモヤしてて、仕方なくトイレに駆け込んだ。ドアを開けた瞬間――。
「うおっ、山本さんのリビング!?」
目の前には、見慣れた……いや、見慣れてねえけど、夢に見るような光景。クラスメイトの山本彩花が、自宅のリビングでソファに座ってテレビ見てんの。しかもパジャマ姿でポテチ食いながら、リラックスしまくりだ。で、俺はいつものように便器ごと、そのテレビの真ん前にポツン。
「いや、マジかよ……大好きな彩花ちゃんの前でトイレって、心臓止まるだろ!」
彩花ちゃんは俺の片想いの相手で、クラスのマドンナ。笑顔が可愛くて、優しくて、俺なんかが話しかけるのも緊張するレベルだ。そんな子が、テレビで流れるクイズ番組に「えー、分かんないよー」って笑ってる。で、俺は目の前で便器に座ってるわけ。距離、2メートルくらい。死にたい。
「見えてるのは俺だけで、向こうからは見えない」ってルール、信じたい。でもこの近さ、息するのも怖い。だって、彩花ちゃんのポテチの匂いまで届いてくるんだぞ! こんなプライベートな空間で用を足すとか、羞恥心が宇宙船の時よりエグい。
腹の中じゃ、ツナおにぎりがグチャグチャ暴れてる。時間がない。こんな場所でミッションとか、心が罪悪感と緊張で爆発しそう。彩花ちゃんが「次はお菓子作りのコーナーだって!」って無邪気に喜んでる中、俺は必死に腹に力を入れる。
「おっ、おっ、おっ……頼む、出てくれ!」
その時、彩花ちゃんがソファから立ち上がって、俺の方に近づいてきた。やばい、見つかる!? 俺は慌てて息を止めて固まる。でも彼女、俺をスルーしてテレビ横のテーブルからリモコン取って戻った。見えてねえよな……よな? でも心臓、止まるかと思った。
彼女がまたソファに座ってポテチ食う音に紛れて、俺の腹が「ぐぅう」って鳴った。彩花ちゃんが一瞬「ん?」って顔した。やばい、音でバレる!?
ぷすっ。
「……ミッションクリアー、通常トイレに戻ります」
光がパッと弾けて、俺はアパートの狭いトイレに帰還。換気扇のブーンって音と便器の冷たさが、いつも以上に現実感ある。汗だくで息を整えながら、俺は呟いた。
「彩花ちゃんのリビングって……大好きな子の前でトイレとか、メンタル死ぬだろ……」
考えてみれば、彼女、俺のこと本当に気づいてなかったよな? リモコン取っただけだし。でも、あの可愛い笑顔の前でやった事実は消えねえ。俺の片想い、もう穢れた気分だよ。
「ったく、次はどこだよ……もう彩花ちゃん絡みは絶対勘弁してくれ」
ツナおにぎりは当分見たくもねえと思いながら、俺はトイレのドアをそっと閉めた。でも、次に開けるのがやっぱり怖いんだよな、これ。