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悪魔殺しとテンペスト  作者: ジックの使用人
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日常崩壊序章

アメリカの学者が言うところの、って言うとすごい信頼感が出るけど、アメリカの学者も頭おかしいのが多いから何とも言えないよね。というわけで、異能学園シリーズの続きです。

時折吹く風が髪の毛を持っていく。


寝癖がひどくなりそうだと、少し頭を抑える。すると、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえる。そいつは、俺の横に立つと、少し待っててくれても良かろう、と愚痴をこぼした。


「全く今朝から、何かと嫌な事続きなんじゃ。例えばじゃ、朝起きてドアを開けようとしたら、机の角に小指をぶつけたり、敷居に頭をぶつけたり、朝飯を食べようと、味噌汁に手を伸ばしたら、ひっくり返すし、それに加えてじゃぞ、下駄を履いてきてしまうとは、不覚にも程があるんじゃよ。」


俺は、それを一言で返す。


「いつもだろ。」

「・・・・・いつもじゃけど。いや、今日は何か一味違うんじゃっ。ここ大事じゃぞ。」


どこか注意力散漫なのか知らないが、彼女はいつもこんな感じだ。

家がでかくてお嬢様だから、瑣末事を気にしないようだ。俺の家から見える五十メートルぐらい続く、大きな板塀が、こいつの家の塀だと思うと、どれほどの金持ちか分からなくなる。

瑞希は、落ち込んでいる様子を見せていたが、さらに落ち込んだ声で、はあ、と溜息をついた。


「今日は・・・・・・そういえばテストじゃったの。」

「忘れてたのかよ。」


その俺の一言は耳に入れず、葵は愚痴る。ほんと、今日は愚痴しかでねえな。


「だいたいの、テストというのがいけないんじゃ。何じゃ、人はそんな点数やら、グレードやらで分けられるとか思う根性がおかしいんじゃ。そうは思わんか。」

「それって、馬鹿常套句だよな。テストの存在に疑い持つって。」

「ぐむ。い、いや、違うぞ。馬鹿ではないぞ。」

「・・・・・・・・。」

「何じゃ、その哀れみの目は!」


賑やかな通学である。良く二人で学校まで歩くが話は尽きる事は無い。


これも幼馴染だからだろう。気兼ねしないで話せると言うのは楽でいい。友人の中にも気を使う奴は居る。そういうのと話す時、後々を気にしながら、言葉を選んで話さなくてはいけないというのは骨が折れてしょうがない。


だから、学校でも俺は特定の人としか、会話をしないようにしている。つまり不容易に話し掛けないのだ。これが俺の高校生活の基本スタイルなのだが。


しかし、他の奴と接点を持とうとしなくても、いつも俺の周りはうるさい。瑞希を始め、多々うるさいのを集めてみましたと、毎日がお祭り騒ぎである。カーニバルであるのだ。


やだそんなカーニバル。

俺も、葵と同じような溜息をつくとそれを聞いたのか、彼女が言った。


「ま、今回のテストも鋼矢と同じぐらいじゃろうからの。いくらやってもどうにもならんことぐらいあろう。そうじゃろう?」

「そうだな。」


何もテストが憂鬱なのは葵だけでなく、俺も同等なのだ。


いくらやっても伸びない成績を見るたびにテンションが下がってしょうがない。

横を通り過ぎる車の音がドップラ-で、まるで笑っているかのような音を立てていった。俺は顔を上げる。この通りは車が多い。


と、向こうから、どう見ても積載量オーバーなトラックがよろよろと進んできた。

いや、だめだろあれ。俺は、隣りの葵に注意をしようと横を向いた時、口をあけたあほ面が、思わず漏れてしまったような声を出した。


「今日の運勢は最悪だと思うたんじゃが・・・・なあ。大凶じゃな。」


その声に、通りを見ると、そのトラックが、クラクションを鳴らしながら俺達の歩いている通路に向かって突っ込んでくるのを見た。

俺は、左の小脇に葵を抱え込むと、右手を思いっきり広げて自分の背後に向け、顔を正面に見据えた。右から迫るトラックが、ガードレールを破ろうとした刹那、


力をありったけ込めながら、俺は右手から風を吐いた。


二人の体が、思いっきり前に飛び出る。後ろから恐ろしい風と、轟音がなるのを聞きつつ、俺達は通路に体を投げ出した。


「っつ、痛ってえ。おい、葵大丈夫か!」


小脇に抱えた葵が、うつ伏せになっている。

俺は慌てて声をかけるとうめき声を上げながら、瑞希が仰向けになった。ああ、死ぬかと思うたのう、とか言ってるので平気だろうと、俺はもう一回声をかける。


「・・・・・大丈夫そうだな。」


すると、以外にも小脇に抱え込んでる葵は、この抱え込まれている状況に今気づいたように、顔を真っ赤にしつつ、


「な、あ、あ、」


とどもり始めたので、からかう事にする。


「はは、恥ずかしいのか?おもしれえ。顔真っ赤にして、ははは。」

「うう、くそう、ううう。」

「はははは」


葵は乱暴に俺の腕を振り解くと、立ち上がる。


そして、まだ顔を真っ赤にしながら、俺に感謝の言葉を言ってきたが、その後に、次の機会は自分が、俺の事を笑ってやるような状況にしてやろうといきまいた。その姿が面白くて俺は、又声を上げて笑った。


「さてと、じゃ、学校行くか。」

「うううううううううううううううううううう。」

「何の呪いだそれ。」



朝から色々と障害物レースだったが、何とか切り抜けて俺達は学校に辿り着く事が出来た。


疲れた。


今日のテストとかやってらんない。早く帰りたいという、俺の心の声を頷きなら無視すると、校門に足を踏み入れる。

同じ制服を着た男女と共に桜並木を歩く。さすがに満開ではなくなったが、俺はこのちり際の桜を見るのが好きだ。


春の風は、容赦なく桜を散らしていくが、その一瞬の散り際に、俺は桜の綺麗さを感じるのだ。隣りで今日のお礼に、アイスをおごってやるとか言ってる声も、遠くに感じる。


アイスですか。春にアイスですか。俺は、気を使わなくていいと言った。本音はアイスは嫌だといった。勿論心の中だけで。しかし、葵は納得がいかないようで、


「いや、それじゃあ、我の矜持が保てんわ。命を助けてもらっておるのに、アイスというのにも、本当は矢なんじゃが。分かったかのじゃ、何でも好きな物を言ってくれんかの。そうしないと気が済まないんじゃ。」


こっちを見る瑞希の目は、真剣そのものだった。少し気恥ずかしくなって俺は桜に目をやる。


「そ、そうか。」

そこまでいうのなら、俺も遠慮無く言うべきだろう。


「・・・・・・じゃあ、永遠の命をくれ。」

「お前さんは我を何と見ておるのかの。神かなんかじゃないんだがのう。好きな物といっても、我の家が出せるくらいじゃぞ。そんなのいくら積んでも無理じゃ。」

「・・・・冗談だったんだけどな。・・・・うん、じゃあ、何もいらないぞ?本当に。」


それでは駄目じゃ、駄目じゃと駄々をこね始めるのでどうしようかと思ったとき、後ろから声がした。


「おや、そこにいるのは鋼矢くんと、可愛い葵さんじゃないですか。今日も二本の縄を垂らして、なんか虫でもとる気ですか?」

「いきなり辛辣だなおい。」


彼女は、暁は、この俺より少し、ほんの少しだけ背の高い彼女は、俺と瑞希のクラスメートである。彼女は高校一年のときから同じクラスだったと思う。腐れ縁レベルで席も近い。

そして、葵との仲は、


「なんじゃあ、誰かと思えばどっかのメス猫。また、我に突っかかってきおって、何じゃ我が好きなら、素直にすきと言えば良いのにのう。小学生のような意地張っておるから、いえないんじゃろう?」

「あは、老いた高校生が、耄碌していますねえ。ちょっと、認知症じゃないんですか?」

「ほう、一丁前にいいおるのう、洟垂れがあ」


こんな感じである。だから、俺はさっき言ったのだ。毎日がカーニバルであると。そして、そのカーニバルに、このやりとりは含まれている。この二人は顔を見合わせるたびにこうなのだ。どうしてくれんだよ。


俺挟まれてんだけど。


ぎゃあ、ぎゃあと俺を挟んで言い合う二人に、俺は道の横に広がるグラウンドに目をやる。

すると、一人の男子生徒が、校庭で自主練をしていた。


大量の水が、彼の頭の上に渦巻き、滴っている。彼は、それを校庭に叩きつけると、その音がここまで届いてきた。


俺がそっちに意識を向けている事に気づいたのか、この好戦的な二人もしばし舌戦を止めて、校庭に目をやる。

彼の姿が見えなくなると、ふと暁が漏らす。


「村崎、今回こそAを取ろうと必死なんですね。恐らく、というよりほぼ無理でしょうけど。」

「そうじゃなあ、さすがにAは、無理じゃなあ。」


確かにAは、不可能だろう。この日本を探し回っても、Aを取れる生徒は、一人か二人である。大人であれば、何十人といると思うが、流石に、子供では。

ましてや、この学校では一人を除いて無理だろう。


「・・・・・・・・・・まあ、今回もあの生徒会長だけじゃな。」

「そうですね。」

「そうだな。」


この学校には、生徒会長がいる。

何を当たり前な、確かにそうだが、この生徒会長は、生徒会長がいてこそのこの学校だと言えるほどなのだ。この学校が有名、一応有名であるのは、彼のおかげであろう。


この俺のような高校生でさえ知っているのだから。彼の凄さを。

と丁度いい具合に、テストの事を思い出して落ちこんだか、二人は静かになったので、俺は又校舎まで続く桜並木で散りゆく桜を、ゆるりと眺めつつ、穏やかな気持ちに、成れそうに無かった。


俺は、両腕を広げる形で、瑞希と暁を両脇に押し出す。


「え」

「の?」


そして、俺は左足を後ろに出して半身になると、後ろから殺気を運んできてくれた小さい体が放つ、鋭い音がする右こぶしを避けつつ、これを捕獲する。

むぎゅと、声がしたので俺、それに向かって言った。


「ったく、そろそろ挑戦状禁止にするぞ。柚子」

「むぎゅう。」


「ああ」

「何じゃ、柚子かの。」


両脇から、二人が納得していた。俺は今捕まえたばかりの柚子を、解放するとこの小さいのは、溜息をつきつつ心底残念そうに言った。


「はあ、今日もとどめをさせなかったのだ。」


いや、もう否定すると言うか、何回言う気すら失せているけど、何でこの子は、いつも俺の命を狙ってくるのだろう。

どうして、気づくのだろうか、それは、鋼矢は妙に勘がいいから、と話す彼女らにとても言いたい。


その日常はおかしいぞ。


挑戦状、ほんと禁止にしたくなった。前は、急に襲ってくるから手紙くらい書いてからにしてくれと言ったが、達筆すぎて文字が読めないため、結局不意打ちとあまり変わらないのだ。


心にそう固く誓いながら、俺達は校舎へと入っていった。


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