とある設計士の優秀な戦艦
あーでもない、こーでもない!
こっちも違う。あっちも違う!
設計とは人を変えるものである。
そう誰かが言ってたっけ?
本当に変わるのは技術だと思うが……。
まぁいい。
設計局に入って二週間。
セブリャコフ・リトは書類をまとめています。
軍艦、商船、戦時急造船の設計を担当しているこの設計局は正直言って忙しい。
俺を含め従業員はたったの四人。
今は大口の仕事をしている途中。
なんと、戦艦の設計の依頼が来たのだ。
帝国から直接の依頼は初めてで、これまでは小型艇ばっかりだった。
みんな喜んでいたが、戦艦の知識が乏しい上に要求する性能もめちゃくちゃなものだった。
一つは打たれ強い鉄壁の防御力
一つはどんな防御も撃ち抜く打撃力
一つは早い足を持って戦場で優位に立てる速力
一つは長い脚つまりは航続距離
この無茶苦茶な要求にみんな苦悩していた。
おまけに艦種は“戦艦”だ。
過去の戦艦ではダメで。
最新鋭艦が欲しいだと……。
「リト君、これをどう思う?」
「主砲の選定ですか……そうですね――」
「リトに聞くなよ! 今の世界標準は三六センチだ! だから一気に三八、いや四〇センチを乗せればいいじゃないか!」
「ちょっと待ってよ! それじゃあ重すぎて速度と航続距離が犠牲になっちゃうじゃない!」
最初に俺に話しかけてきたのは主任のセーブさん。まずはどこから手をつけていいかわかりかねているようで、主砲周り担当の二ドルさんはイライラしているし、それに反対して怒りをぶつけているのは発動機、装甲担当のリーリャさん。
いきなり足並みがズレているのはどうしようもない。
普段はみんな仲良しなんだが。
設計となると人が変わるのが二ドルさんとリーリャさん。
早くしないといけないのに、この二人がお互いに足を引っ張っては意味がない。
自分が考えたモノも出せずにいると、セーブさんが俺を気にかけて連れ出してくれた。
「はぁ……ごめんね。いつもはああじゃないんだけどね」
「いえ。大丈夫ですよ主任」
「提出期限もあるし、どうしたものか……」
「軍の要求を真に受けていたらできるものは中途半端になりますよ」
「それもそうだが……」
「それに国の造船、鉄鋼、製造技術とかを考えるとますます実現は遠退きます」
「ズバリなことを言わないでくれ……」
「そこで主任、こんなのはどうでしょう」
一枚にまとめた性能を渡してみる。
それは戦艦という艦種を世界の本から探し出したものだ。
「なになに……」
性能としてはこう。
主砲は三六センチ五五口径連装を一基として背負い式の前後四基八門。
防御は三八センチ対応装甲で傾斜をつけること、主要部にするバイタルパートとなる部分だけに重装甲をする集中防御方式。
速力は機関に混合燃焼ボイラー八基、タービン四基で速力三〇ノットを目指すもの。
航続距離は既存の軍艦より伸びるものと推定。
というモノだ。
「こ、これは……!」
「国の技術に合わせたら、これくらいしかできませんでした」
「いや! いけるぞ! これなら無理なく軍の要求性能を超えることができる!」
「主任?」
「ありがとうリト君!」
この基本性能が主任に認められ、他の二人も目からうろこという感じでいけると太鼓判を押してもらえた。
できた戦艦はとある海戦で格上の最新鋭戦艦と対峙し、押し勝つという偉業を達成でき戦艦設計者としてリトの名前は歴史に刻まれた。
俺的には、今一番のできることを、と思ってやった結果がこうなっただけ。
設計は忙しい。が、楽しい。
これでいいのだ。