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ともだち

【主な登場人物】

大岐(おおき) 和珠(なごみ)

友達がいない主人公。自殺願望があったが、最近どうでも良くなっている。


・オルデュール

話すとうるさい。マイブームはオヤジギャグ。今回は出番無し。


時瀬(ときせ) 華撫(かなで)

人をからかうことに愉悦を感じる。幸せ宅配部の部長。


昏名井(くれない) 結璃(ゆうり)

幸せ宅配部の仮入部員。甘いものが好きな清楚系ギャル。


月座(つきざ) 繭羽(まゆは)

幸せ宅配部の部員と生徒会役員を兼ねている2年生。今回は出番無し。


小豆沢(あずさわ) 碧斗(あおと)

幸せ宅配部の部員。アブレイズ・シアンという二つ名を持つ。基本的に寡黙を貫く。


◆時瀬家

時瀬(ときせ) 春子(はるこ)

華撫の母。今回は出番無し。


時瀬(ときせ) 昂太朗(こうたろう)

華撫の父。今回は(以下略)

 



 急遽、時瀬家にて合宿をやることになった俺ら。しかもこれは部活としての合宿ではなく、勉強合宿を催す予定だったらしい。どうして一学年上の月座先輩を誘ったのか俺は時瀬に問いたい。

 何も説明されていない俺達が持ち込んだ物は着替えぐらいしかない訳で、時瀬家の一部である郷山神社でお手伝いをすることになった。これが前回までの幸せ宅配部活動記録である。



 オルデュールを本殿に入れるのは俺の体に障りそうで怖いので、あの自称奇声天使は客間でお茶を飲ませている。あれを預けておく託児所が欲しいものだ。放っておくと危なく、側にいさせると煩くて迷惑だとか幼児以下じゃないか。


 そんな無粋なことを考えている俺は、小豆沢と一緒に境内の掃き掃除をしていた。念を押しておくが、俺がリバースした吐き掃除ではない。遅咲きの桜が散ったばかりなので、主にそれの掃除である。


「なぁ、同胞(コムラード)よ」

 ボソリと小豆沢が俺に話しかける。


「その呼び方やめてくれ。頼むから時瀬たちと同じように苗字で呼んでくれ」


 小豆沢碧斗は厨二病である。と言っても、このよく分からないクレイジークラブに入部してから、俺と殆ど会話をしていない。偶に口を開いたと思ったら『カウント・ゼロ』やら『プロビジョン』など、横文字ばかりを羅列する。要するに寡黙な上に、会話をしても言葉のドッチボールにしかならないのだ。小学生でも出来るキャッチボールは無理そうである。


「えっと、君の…苗字ってなんだっけ?」

「急に素に戻るな!?しかも名前すらも覚えられていない!?初対面で俺ちゃんと自己紹介したよね!?」

「君の名前は…」

「うっせぇ!大岐だ!大岐和珠だよ!貴様のその胸に刻んでおけ!」


 某彗星が落下する映画のように言われても困る。

 それはともかく。フルネームで名乗るトラウマなんて今は全く気にならなくなってきた。大きなゴミみたいなこの名前を揶揄するのは、時瀬とオルデュールぐらいしかいないみたいだ。


「オレは小豆沢碧斗だ。又の名をアブレイズ…」

「知ってるから。覚えていないのはお前だけだよ」

 俺は小豆沢の二つ名紹介を遮る。

「しかし、どうして厨二病を患ってんだ?まあ大人になっても抜けない人は結構いるみたいだが。漫画だとか、昏名井が愛してやまないチート主人公なラノベとかに影響されたのか?」

「愚問だな。そんなのカッコイイからに決まってるからだろ」

「キメ顔で言うな」


 そう話しながら掃除をしていると、噂の昏名井がひらひらと手を振りながらこちらにやって来た。派手な髪型とは対象に、歪んだ顔の猫のTシャツにジャージと、女子力が欠落したファッションである。シャツの猫が可愛いとか別に思ってない。思ってないよ。


「お疲れさまです。時瀬さんのお父さんから差し入れですよ。まあ煎れたのはオルデュールちゃんですが」

「お茶か。ありがとう」


 お礼を言いそれを受け取る。

 俺は湯呑みを抱えたまま社務所の前に置かれたベンチに腰掛けた。

 普通の温かい緑茶だ。きっと「ホットなお茶を飲めば心がホットするわ」なんて言いながら煎れたのだろう。あの馬鹿のことだから容易に推測出来る。

 昏名井も、俺と小豆沢の隣にそっと座る。


「何を話しながらお掃除してたんですか?大岐くんの顔が笑ってましたよ?」

「いつも俺が笑っていないみたいに言うなよ」

「へへっ…、すみません」


 笑いながら謝罪。チャームポイントがスマイルと言えなくなるじゃないか。酷い話である。


「それで」と俺は付け加えて、

「小豆沢の病気の話だ。って言っても昏名井の方が、こいつの普段の奇行に詳しいか」

「病気ですか…?小豆沢くんって喘息持ちとかでしたっけ?」

「違ぇよ!オレが言うのも変だが、カッコイイものに憧れる少年魂のことについて論議していた。昏名井さんに理解出来るかどうかは分からないけど」


「えぇ…、やっぱり普通に話せるんですよね…。クラス内ではああいった…、うーん…なんと言いますか…。その、…どうしてアホの子症候群なんでしょうか…?」

 小豆沢が普通に答えただけで、昏名井は目を白黒させる。


「一体どんなスクールライフを送ってるんだ!?」

「本人に聞いてみたらどうです…?」

「おい小豆沢」


 小豆沢の方を向くと目を逸らされる。

 意外にも、彼は自身のことを痛々しい人だと自覚しているらしい。自覚がある厨二病ってそれはそれで面倒臭い。


「しかし、昏名井って小豆沢と仲良さそうに話すよな。クラスでも結構接点あるのか?」

「それを言ったら時瀬さんと大岐くんも仲良いじゃないですか。わたしと小豆沢くんは友達にも満ちませんよ」

「俺と時瀬が仲良し?…と問いたいが、小豆沢、かなりダメージ受けているぞ」


 隣に腰掛ける小豆沢が硬直していた。昏名井が友達であると否定したことが原因だろう。交流の接点は無いと言っても、昏名井もオタク気質があるゆえに、小豆沢の思考回路の理解者とも捉えられる。彼なりに心を許していたのかもしれない。


「友達かぁ…。なんだろうな」


 真っ黒な髪を揺らし、小豆沢は虚空を見上げる。皐月晴の木漏れ日がゆらゆらと舞踊り、その繊細な顔に陰陽を映す。


「お前らって友達いたことある?」

「いきなり心を抉る質問ですね…。わたしは中学時代、ずっとぼっちでしたね。小学生の時は青い鳥文庫が友達でしたし。遡るならば、幼稚園の時にはいたでしょうか…?」

「オレは保育園出身だが、1人も友達いなかったぞ。遊ぶ奴はいたが、大体いつもニチアサヒーローの敵か怪獣役やらされてたな」

「ごめん…聞いた俺がアホだった…」


 疑問形で話す昏名井に、トラウマ級の恐ろしい思い出を語る小豆沢。この過去話を聞いてしまえば、二人の性格に納得をするしかない俺だった。

 ちなみに、余談だが、かなりどうでも良い話をしよう。俺も小学生、中学生時代は友達が1人もいなかった。それ以前は幼児期健忘症で記憶がない。俺のことだ。恐らく、まともな友達はいなかっただろう。


「大岐くんは聞かなくても答えは導けますね」

「導かなくていいから!?……友達いないのは本当だけどさ」

「いそうに見えないもんな」

「事実だから否定出来ない!?」


 素の小豆沢に傷を抉られる。だが、不思議と悪い気はしなかった。昏名井と小豆沢と俺は互いに顔を見合わせ、そして失笑した。


「もう、笑わせんなよ。昏名井さんは友達という概念についてどう考えるんだ?」

「キャーカワイイだとかマジウケルーだとか語彙力が失われたパリピゴリラの女子共ですね。あとブッサイクな顔をSNSのアイコンにしてインスタ映えするツイートをして彼氏とのラブラブLINEのスクショを他人に送り付ける頭の悪い集団ですね」

「それ、ほぼ悪口じゃないか…?」

「色々混ざってんぞ」


 闇が深そうだ。追求しないでおこう。


「で、お二人は友達と言われて何を連想します?」


 俺も小豆沢も即答で、

「無論、金魚の糞だな」

「趣味という名の自由を拘束される枷」

「…そうですか。お二人とも友達作る気無いんですね…」


「確かに金魚の糞ですし一緒にいる時間を強制させられますけれども」と昏名井は付け加える。

「昏名井は友達作る気あるのか?…っても既に時瀬にアプローチしてるか」

「振られっぱなしですが。わたしだって同世代の女の子とパンケーキ食べたりパンケーキ食べたりパンケーキ食べたりしたいですよ」

「パンケーキしか言ってないぞ」

「インスタ映えした画像をツイートしてLINEのTLに流すのが夢です」

「ネタの多様は会話が脱線するからやめてくれ」

「そうですか。それはすみません。あー!パンケーキ食べに行きたいなー!」


 大きく叫ぶと境内に昏名井の声が響く。

 同世代の友人が欲しいことは俺も同意出来る。人間関係の付き合いは言うまでもなく面倒だ。だが、やっぱり居て損をするようなものではないだろう。日常生活に潤いが欲しい。

 最後のは俺や小豆沢に語りかけるつもりがない独り言だと思われるが、彼女の口調で唯一丁寧語が外れていたので、俺はやや驚いた。


「昏名井、まずはその馬鹿丁寧な口調をやめたらどうか?会話してると壁を感じる」

「オレもそう思う。タメ口って不可能なのか?」

「無理じゃないです。ただ、これがわたしのアイデンティティなので。でも…そうですね。この学校に来て、まだ仮入部員らしいみたいですけど変な部活で貴方たちと出会って…きっとこれも運命ですね。わたしは偶然だとか、運命とか信じる人間です」


 昏名井は言葉を探すように、向かい風にポニーテールを棚引かせ、目を細めた。


「部員じゃなくて、まずは友達から初めてみたいな」


「はっ。男友達を作ってそこからセフレをキープしようとする思考。やはり昏名井さんはビッチだね。私の目は正しかったみたい」

「時瀬!?いつからそこにいたんだ!?」

「パンケーキの辺りから。お風呂湧いたから順番決めようと思って。汗かいたでしょ?」

「まあ汗かきましたよね…。じゃなくて!わたしはビッチじゃないです!清廉潔白です!処女マリアです!心はウエディングドレスです!」

「えー。ちょっと何言ってるか分からない」


 ジト目で昏名井を煽るのは相変わらず得意のようだ。いつもと変わらない、オルデュールが『性悪』と呼ぶそのままの彼女である。


「ふふっ…。昏名井さん、私と友達になりたい?」

「なりたいですよ。JKっぽいことしたいですよ。時瀬さんもそのような青春、したいでしょう?」

「いや、別に。あと、私はパンケーキは余り食べないし、そこまで好きじゃないよ」

「…またからかってますね。わたしのこと玩具にしか思ってないんですよね、分かります」

「そんなことないよ。昏名井さんのことはパンケーキと同じくらい好き」

「はっきり嫌いって言ってくれます!?」


 結局、昏名井のタメ口は一言だけしか聞けず、幻となった。俺に友達が出来るのは、かなり先のことになりそうである。

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