海の向こうを見渡せる場所Ⅲ
【主な登場人物】
・大岐 和珠
悩み事が多い高校1年生。死ぬことが出来ない本編の主人公。
・オルデュール
自称ぷわぷわ天使。聖母マリアに受胎告知をしたらしい。
・時瀬 華撫
幸せ宅配部の部長。ゲームが大好き。
・昏名井 結璃
見た目パリピ。本編ではセリフが少ない。
・月座 繭羽
2年生。あまり出番がない可哀想な人。
・小豆沢 碧斗
厨二病だが、本編では厨二発言は少なめ。シリアス微注意。
・桃田 おうぎ
生徒会長。多分、次回は活躍します。
・灰田 礼依
幸せ宅配部と生徒会の顧問。小豆沢の従姉。
・鶴咲 征也
あだ名はユッキー。色々と手遅れな変態。場合によってはロリコンになる。
・美濃 湊叶
謎が多い生徒会2年の少年。女の子にしか見えない。
合宿で泊まる宿『楪の郷』に着いた。
俺たちはバスを降り、1泊分の荷物を持って、灰田先生の元へと集合する。だが――――
「…すっごいな。色々と。すごいな、これ」
「えっと……大丈夫かしら、和珠?いつもよりも語彙が無くなってるわよ?」
「だけど…、大岐くんがそう言うのも分かります…。これは酷いですね…。その、なんと言うか…」
「ズバリ、幽霊屋敷だね」
2年目の来訪になる生徒会役員以外、白い目で宿を見上げる。時瀬が幽霊屋敷と言うのも頷けるぐらい、壁には蔦が絡み、薄暗い林の中に佇む建物がそこにはあった。本当に絵に書いた様な幽霊屋敷である。
「ふふっ、安心しなさい。夜には幸せ宅配部と生徒会合同の肝試し大会があるわ!」
「嬉しくねぇ!?」
「付け足すと、ここで肝試しではなく、隣の廃墟だ。土地の管理者の市にきちんと取っているから遊べるぞ」
「だから、どっちも安心出来ないんですけど!?」
そういう問題ではない。潔癖だとか怖いものが苦手だとかそういうんじゃないのだ。ここに泊まることを俺の本能が拒絶反応をしている。
「ボクがいるから幽霊なんてイチコロね!可愛さパワーにお化けなんてぶっ飛ばしちゃうわ!さすが、可愛いボク!ぷわぷわ天使の名は伊達なんかじゃないんだから!」
「…俺は余計に不安なのだが。その可愛さパワーでそこら辺の霊を集めそうだ……」
顬の辺りが痛くなるような気がした。
「それにしても、お前、よくバスの中で静かに出来たな。凄いぞ…」
「でしょ?でしょ!?だ・か・ら!ボクにご褒美!!ハーゲン!!ダッツ!!!!」
そう言われて辺りを見渡す。木と、遠くに海のようなものが見渡せる他、特に何も無い。田舎という表現以外で表しようがないのだ。
「桃田会長。近くにハーゲンダッツを買える場所はあるか?」
「ハーゲンダッツ?売ってるか分からないけどコンビニなら車で10分よ。歩くと30分は有るわね…。買ったところで部屋に冷凍庫は無いから歩き食い一択になるけど?」
「だそうだ」
「えー!?ないのー!?」
「あとで俺が遊んでやるから我慢しろ。それか帰ったら寮の自販機で買ってやる」
「……分かったわ。寮のセブンティーンアイスで我慢する……」
珍しく妥協したオルデュールだった。
各自、指示が掛かる。俺たち男子組は飯盒炊爨で使う薪割りと、釜戸の掃除をするよう、灰田先生から言われる。ちなみに女子は風呂掃除と部屋の掃除機かけ、顧問は夕飯作りらしい。夕飯を灰田先生が作るのは、「今日、飯盒炊爨をすると当日の楽しみが減るから」だそうだ。
男子部屋に荷物を置いた俺らは、中庭に集まり、各々役割分担をすることに決めた。
「あれ?美濃先輩は何処に?」
「女子組の手伝いに行ったそうだ。こちらよりも人手がやばいらしいぞ」
鶴咲先輩が答える。
「美濃先輩って綺麗ですよね。実はあの先輩、女の子だ…、とか」
「んな訳あるか。もし、あいつが女の子だったら、おっぱいがあるだろう!」
「…この男、絶対彼女出来ないわね」
「何か言ったか?」
ん?こいつ、オルデュールの声が聞こえたのか?
オルデュールの姿は基本、霊感があるだとか、死を望んだりだとか、死に近い人間しか視認出来ないらしい。確か、姿は見えていないはずだったのだが。
「…先輩、ロリは好きっすか?」
「おっぱいがないから駄目だ。僕は巨乳が好きだ!だが、可愛かったら許す。可愛いは正義だからな」
「女の子の価値が胸にしか無いみたいに言わないでくれよ…」
俺も大きい方が好きだけどな。あくまで大きい方が好ましいだけだ。ところで俺は巨乳という表現があまり好きじゃない。大きいと言った方がロマンと品があるように感じる。
そんな余談は置いておいてだ。オルデュールは鶴咲先輩の発言を聞いて決心したのか、彼の背後に回る。
「和珠、ちょっと我慢してくれる?」
「我慢?おいおい…、そいつに何をするんだ?」
「……大岐って独り言、大きいのな。大岐だけに。ぷぷっ」
「つまらないギャグばかり言ってると…、女の子に嫌われちゃうわよっ!」
自称ぷわぷわ天使から青白い光が迸った。
瞬間、俺の全身に気だるさが襲う。思わず、立てずにしゃがみこむ。汗が止まらない。まるでマラソン大会で5キロを15分で走り終えた後みたいだ。気分が悪い。
「…っ!?!?オルデュール!おい、お前!俺に何したし!?」
目眩を抱えながら立ち上がる。
「こいつ…なんだったかしら?鶴なんちゃらとボクの波長を合わせたのよ!だから、死人を視認出来るはずよ!」
「自分で死人って言うなアホ。ぷわぷわ天使設定はどこ行ったんだよ。ブレブレだぞ」
「ただね、これ。すっごいエネルギー使うのよ。そうねぇ…、どれぐらいかって言うならば、ボクの寿命3時間分ぐらい?」
「だからね!?俺の話を聞けよ…!?」
しかも、どれぐらいすごいのかよく分からねぇ…。
鶴咲の方を見る。彼はとてもわかりやすい反応をしていた。自分の眼鏡を取ったり外したりし、「そんな馬鹿な」「嘘だろ」と繰り返している。明らかに変質者だ。
「絵に描いた…ようじょ…」
「幼女じゃないわ。ボクは天使よ!イエス・キリストに受胎告知をした大天使よ!英語で言うならエンジェル!!」
「さらっと嘘ついてるんじゃない。…鶴咲先輩、マジで見えてるのか?」
「ようじょ……」
会話にならない。駄目だこいつ・・・早くなんとかしないと・・・。
ただ、うわ言のように繰り返す様子から、オルデュールの姿は見えているようだ。気持ち悪い。もう一度言おう。この男、気持ち悪い。
「そこで突っ立ってないで手伝ったらどうだろうか?兄者と同胞よ。…?兄者?」
律儀に釜戸の掃除を終えた小豆沢がこちらに来る。だが、直ぐに肉親の違和感に気付いたようだ。
「何だこれは」
「ボクね!張り切っちゃった♡」
「…大岐よ、3行で説明してくれ」
素に戻った小豆沢が質問する。様子を見るとかなり混乱しているようだ。そりゃそうだろう。
「オルデュールの
胡散臭いマジックで
見えるようになった」
「……誰が、だ?」
「見てわかるでしょ。あんたが兄者って慕う変態よ。あと、胡散臭いマジックなんかじゃないわ!天使の御加護とお呼び!!」
「うっせぇこのペ天使が!」
「ボクだってダルいのよ!でもこれ、便利でしょ!?」
そう言えば、オルデュールが被った痛みは俺に来るという契約だったか。いつも構わず殴ったり蹴り飛ばしたりしているが(もちろん手加減はしている)、この〝痛み〟というのは間接的なものなのだろう。
とりあえずこの倦怠感をなんとかして欲しい。
「釜戸の掃除は終わった。次は薪割りだったか。オレも手伝おう」
「悪いな小豆沢。てか、意外と真面目なんだな。…オルデュールも突っ立ってないで手伝え」
「えー。ボク?ボクはこれから遊ぼうかと思っていたんだけどなぁ」
「一応聞いてやる。何をして遊ぶんだ?」
「ハヅキルーペごっこ!」
切り株に座る鶴咲に、容赦なくケツから突っ込んだ。「ぐへぇ!?」という呻き声が上がる。
馬鹿か。いや、馬鹿だったか。
どうでも良いけど「字が小さすぎて読めない!」の方かと俺は思った。うわー、どうでも良い……。
「兄者もハヅキルーペごっこしてないで手伝え。オレよりも先輩だろう?」
「いや!?僕はする気ないし!?そもそもハヅキルーペごっこって何?」
「俺に聞くな」
ようやく周囲のやる気のボルテージが上がりそうだ。これをやらなければ仕事からは解放されない。
既に割られている薪を数えてみると、去年の生徒会が頑張ったのだろうか、結構あった。これなら俺たちの仕事は僅かで済みそうだ。
積まれた木の塊を置き、斧を振り上げる。
「意外と重いのな…。見た目はカッコイイが」
「そりゃ、人を殺せるぐらいだし。…殺すなよ?」
「そのようにしてフラグ立てると何かしら事件が起きるのだ。案ずるな。オレは何よりも平穏を愛する」
普段から得体の知れない組織と闘ってる奴が平穏を愛するのか。言っていることが矛盾していて訳が分からない。
「そういや、鶴咲先輩と小豆沢って従兄弟で良いんだよな?」
俺が質問すると、隣で薪を割る鶴咲先輩が頷く。静かな平地にガッ、と鈍い音が響く。
「僕の母の妹の子どもだ。従兄弟と言っても、一緒に暮らしていたからほぼ兄弟だな」
「一緒に?小豆沢の両親もそこで暮らしてたのか?」
軽い質問だったつもりだが、俺の問いに小豆沢は一瞬だけ表情を暗くする。
「いないんだよ。オレの両親、事故で死んだ」
やばい、地雷を踏んだか……?
俺は慌てて謝罪をする。
「……すまん、聞きすぎた」
「気にするな。オレ自身小さすぎて、ロクに覚えてないからさ」
と言っても小豆沢の顔は寂しそうなままだった。
「べ、別に寂しいとか、思っている訳じゃないんだからな。姐さんも兄者もいたし。おじさんやおばさんだって優しかったし!」
「ツンデレか!?」
「…オレはこの学校に来れて楽しいぜ」
「それは良いことだ。まあ、そう言う俺も中学時代と比べれば楽しいよ」
そう言うとオルデュールは満足そうに頷くのだった。お前は俺の保護者か。
それよりも少しは手伝って欲しいものだ。
「お疲れ様です」
ある程度仕事は片付いた。
突然、俺たちの会話に混ざってきたのは美濃先輩であった。小柄な体格に綺麗な顔。もし、女子制服を着ていたのならば、間違いなく男子生徒には見えないだろうと俺は確信する。
「どうしたんだ?湊叶」
「男子は風呂に入るようにと灰田先生が。疲れたでしょ?」
「お風呂は男女混浴か…どぅっ!?」
オルデュールが手加減せず、鶴咲先輩の頭を引っぱたいた。
「んな訳ないでしょ!?そうよね?」
だがしかし、オルデュールの声は、視認出来ない美濃先輩には届かない。仕方なく俺が質問する。
「男子だけ、ですよね?」
「……何当たり前なこと言ってるの?」
「デスヨネー」
そんなギャルゲーイベントは存在しない。変な期待をしたのが間違いだったようだ。
どうやら、風呂はひとつしか沸かしていないらしい。そのため、男子と女子は時間で交代をすることになっているそうだ。
残念ながら、ギャルゲーによくある女子風呂を覗こうぜイベントは存在しないことになる。はやくも男の期待が潰れてしまったのだ。
「…しかし、どうして此処にオルデュールがいるんだよ!?」
露天風呂。掃除仕立ての艶々な岩肌に、場違いなフリフリドレスが腰掛けていた。白ニーハイも脱ぎ捨て、足だけお湯に付けてリラックスしている。
「えー?ボクだってお風呂ぐらい楽しみたいもの。脱いでないから良いわよね?」
「お前は脱いでなくても俺は脱いでいるんだよ!?」
「じゃあボクも脱げば良いかしら?」
「脱ぐなぁ!?!?!?」
ドレスのチャックを下げようとするオルデュール。
野郎しかいないっていうのに、こいつはどういう倫理観をしているんだ。しかも全裸の野郎とである。
いくら死んでいるとは言え、希薄すぎだろう。
「兄者…?大丈夫か?」
「心配するな…。天使の輝きに目が眩んだだけだ……」
鶴咲先輩が両手で顔を覆う。風呂場だからか、眼鏡を取っており、いつもとは雰囲気が異なる。眼鏡を取っても小豆沢とは似てない。
「そもそも天使じゃないんだよなぁ…」
「和珠もボクのこと崇めても良いのよ?ボクのことを信じればこんなクソダサパンツから卒業できるわ」
「ダサくて悪かったな」
生憎、勝負下着とかは気にしないんだ。身につけられるなら、イトーヨーカドーで売られている三組で千円の下着で十分である。
「しかし、オルデュールは女子共と入らないんだ?」
「入ろうと思ったんだけどね、追い出されたのよ!腹立つわね〜」
「いくら美少女とは言え、これだけ喧しいとゆっくり入れないもんな」
「美少女!?」
いちいち反応するな。本当に喧しい。
「ここの掃除って女子がしたんだよな。一番風呂貰って良いのだろうか?」
「さあな。それより俺は美濃先輩の付き合いの悪さに悲しくなる」
「…ここにいないってことは、和珠の言う通り女の子だったりして!」
「なぁ、鶴咲先輩。去年の美濃先輩は男風呂入ってましたか?」
「残念ながら僕と彼は1年の時はクラスが違う上に、生徒会に入っていなかったんだよ」
美濃湊叶。謎が多い少年だ。
その時、オルデュールが露天風呂の入口の方へと顔を向けた。
「どうしたんだ?幽霊でもいたか?」
「誰が友達よ!?…なんか人の気配がしたから。ちょっと不思議に思っただけよ…」
「……人の気配?」
曇りガラスのドアに目を凝らしてみるものの、残念ながら俺には察知できない。霊体特有の第六感というものだろうか。聞こえるのは風呂の循環機械の音のみである。
「兄者、ここの風呂って何時までだったか?もう40分は入っているぞ」
小豆沢の言う通り、俺たちが風呂に入ってから随分と時間が経過している。日は傾きはじめ、辺りはひぐらしの鳴き声が響き渡っていた。
「仕事は終わってるし、夕食までじゃないか?どちらにせよ、女子共は食後に入浴だと僕は思うぞ」
「食後に入浴ねぇ…。俺はご飯前に風呂に入る派だ」
「どうでも良い情報を暴露しなくて良いわよ……。それより、本当に聞こえないの?」
「やめたまえ…。怖いではないか……。」
「ジャンケンで負けた人が…、見てくるとか…どうだ?」
何気ない鶴咲先輩の発言に皆が固唾を飲む。
「つーかさ、オルデュール行けよ!?お前幽霊だろ!?」
「絶対に嫌よ!それに幽霊じゃないわ!天使よ!天使!!」
「チキってんじゃねぇよ!?じゃあ、その天使様は早く我々を救ってくれませんかね!?」
「今は無理!」
「いや、いつやるって言ったら今なんじゃないのか!?」
痺れを切らした鶴咲先輩が叫んだ。
「あー!もう、喧しい!!せーの、ジャンケンポン!」
咄嗟に出した俺はパー。鶴咲先輩と小豆沢はチョキだった。
つまり、俺が負けなのだが―――
「オルデュールなんてそもそも出してないじゃないか!?」
「男を見せなさい、和珠。敗者は四の五の言えないのよ」
「くそぉ…。後でお前ら覚えとけよ…」
俺は風呂から出て、タオルで大事なところを隠しながら扉に近付く。開けるのは流石に怖いため、そっと、耳を近付けた。
「…?声?」
脱衣所の扉が開く音がし、高いトーンの声が聞こえる。間違いない。俺はこの声音を聞いた事がある。
もしかしたらだ。いや、もしかしなくても、この状況は幽霊と遭遇するよりまずいかもしれない。
「……だ、誰か来るぞ!?」
俺はタオルを腰に巻いていることも忘れ、一目散に露天風呂に戻る。
温かいお湯が俺の緊張を解きほぐす。それでも緊迫していることには変わりない。
「誰かって、誰だよ…?……分かった、組織か!組織だな?」
「んな訳ねぇだろ!?!?組織よりもやばい連中だよ!」
オルデュールも勘づいたのか、「ああ!」と適当に相槌を打った。
「女子ね!」
「そうだ、その女子だ!どうしよう!?」
「ドントウォーリーだ、大岐。ここは正々堂々戦おうではないか!」
「どうやってだよ!?武器なんて桶ぐらいしかねぇよ!?」
「…オレの愛するゲームでは露天風呂の中心の岩に隠れるという選択肢があったが」
「んな便利なものねぇんだな、それが!」
「……大岐」
鶴咲先輩が静かに呟く。俺とは異なり、どうしてこの男はこんなにも冷静なんだ。考えられない。
「諦めたらそこで試合終了なんだぜ?」
シリアスな場面でパロディするな。
「諦めてるのは先輩の方じゃないんすかね!?」
「大岐は女子の…、その生まれたままの姿を見たくないのか…?」
「黙れ変態!お前と俺を一緒にするな!引くわ!」
「兄者…、女子の肌色が見たいです……」
「お前も同類かよ!?見損なったぞ、小豆沢!?!?」
「ねぇ?どうするのよ?女子が内風呂の方に入ってきた見たいよ?」
曇りガラスの方に人影が映る。大体、ロッカーに服が置いてあるはずなのに、どうして確認しないで入ってくるんだ、と思う。だが、ロッカーは蓋付きだったことを思い出す。もしかしたら、態々中まで確認しないのかもしれない。
「ロッカーの中身はまだしも、スリッパで気がつくだろ…」
「スリッパか?ああ、悪い。僕、知らない人に履かれるのが嫌でな。お前らと混ざらないようにロッカーの中にぶち込んでおいたのさ」
「嫌だよな!?そうだよな!?その気持ちは分からなくはないけど!?」
「だから、僕がロッカー別に入れといたんだって」
「俺が言いたいのはそういうんじゃないだよ!オルデュール、こちら側からドアに鍵を掛けるってのは?」
「無理ね。そもそもこのドア、鍵ないもの!」
「はい、詰んだー!」
俺の嫌な予感は現実となり、女子の声が近付いてくる。
股間に桶とフェイスタオルの2点セットを構える。装備品がこれだけだとか、RPGもびっくりだ。
そして、ドアノブがガチャリと音を立てる。扉が開いたのだ。
「……」
「………」
見えた。何がとは言わない。見えた。
鶴咲先輩と小豆沢を見ると、鼻血を出していた。分かりやすいヤツめ。
時瀬と目が合う。前を隠したフェイスタオルを更に胸元まで寄せる。
そしてそのまま、扉を閉めた。
「そっ閉じかよ!?!?!?」
因みに、女子メンバーの中に美濃先輩はいなかった。