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ホラーとギャグは紙一重

【主な登場人物】

大岐(おおき) 和珠(なごみ)

本はあまり読まないが、最近は一般文芸にも興味を持ち始める。オルデュールの世話に手を焼いている。


・オルデュール

大岐に『死ねない呪い』をかけた自称ぷわぷわ天使。マイブームは、部員が授業を受けている時に、小豆沢のノートパソコンでアニメを見ること。


時瀬(ときせ) 華撫(かなで)

『幸せ宅配部』の部長。高飛車で傲慢で毒舌。一言で表すと面倒臭い女。ギャルゲーが好きで、部活でもそれを作ろうとしている。


昏名井(くれない) 結璃(ゆうり)

ラノベが好きなオタク。ただし、見た目はギャルでパリピ。小豆沢の厨二病会話に付き合うことが出来る。


月座(つきざ) 繭羽(まゆは)

生徒会役員で『幸せ宅配部』の部員。大岐の1つ上の2年生。基本的に出番が少ない不憫な女の子。時瀬が付けたあだ名はビッチ先輩。


小豆沢(あずさわ) 碧斗(あおと)

厨二病を患っている少年。昏名井と同じ1年A組。黒くてカッコよくて妹思いな主人公に憧れている。イキリオタクではない。

 


「そうだ、合宿をしよう」


 隣の席の女が唐突に呟いた。

 7月8日。期末試験も無事に終わり、明日から試験休みだ。結果はどうだったかって?いつも通り、俺は可もなく不可もなく、良くて八割程度の点数だろう。隣の女は知らん。


「で、何だって?」

「それって難聴系主人公の真似?大岐くんはもう少し女の子を誑してからそういうセリフを用いた方が良いと思うよ?」


 難聴系主人公というパワーワードはさておき。俺は先程時瀬が呟いたことの真偽を問う。

「合宿をするのか?この間しただろう。GWにお前の実家で」

「今度は部活としてやるの。とりあえず作戦会議をしなきゃ。ほら、さっさと部室に行こう」


 猫のように俺の襟首を掴み引きずる時瀬。息苦しいのは言うまでもないが、周りからの視線が突き刺さって痛い。

 非常に迷惑なことだが、時瀬と俺のコンビは校内であらゆる噂が囁かれている。例えば、担任の灰田先生を脅して部室を奪い取っただとか、生徒会長の弱みを握って部の予算を巻き上げただとか、俺と時瀬が付き合っているだとか。生徒会の件は合っている。だがしかし、何処をどう見たら、俺と時瀬がリア充に見えるのだろうか。以前の発言から友達だと認識はされてはいるみたいだが、こいつの眼中には俺の存在は恋愛対象として映ってはいないだろう。


 部室を開けると、俺と時瀬以外の部員は既に来ていた。言うまでもなくオルデュールもいる。


「月座先輩がいるなんて珍しいね。生徒会の仕事は無いの?」

「うん。会長1人だけで良いって。お仕事、少ないみたい」

「へぇ…。うちわ先輩が部室に来なければ、私はどうでもいいや」

「今日の性悪、随分元気そうね?試験の出来が良かったのかしら?」

「まあ、そこそこ。いつも通りだよ」


 こいつはそこそこと言っておいて、満点みたいな点数を取ることを俺は知っている。それを考えるとイライラしてきた。

 いたたまれなくなって、俺は小豆沢の隣に腰掛ける。隣に座る彼は、女性のように長い睫毛に縁取られた瞳を細め、モデルガンを布で拭いていた。無許可で外出出来ない寮生活の何処でそれを買ったのか、非常に気になる。


「…小豆沢は何やってんだ」

「ああ。これはこうしてな」


 モデルガンに指を掛けて、自身の頭に突きつける。海外ドラマで自殺を図る容疑者のポーズだ。それか、某人気家庭用ゲームのシリーズにも、そのようなのがあった気がしないでもない。


「どうだ?」

「聞いた俺が馬鹿だった」


 いやいや。「どうだ?」と問われても困る。

 小豆沢は銀色のボディを撫でながら恍惚とした笑みを零した。

 あの女の子とにゃんにゃんするゲーム(仮)でも、パンをくわえた誰得主人公は、もう1人の自分とやらを引き出していたし。共犯は間違いなく昏名井だろう。


「大岐くん…、どうしてわたしを見るんですか」

「…何でもない。ところでお前試験はどうだったのか?また前回みたいにレッドポイントじゃないんだろうな?期末は補習だけじゃなくて追試もあるだろうし。合宿どころじゃないだろ?」


 俺の発言に、皆が一斉に時瀬の方を見つめる。

 唐突に言い出しただけあり、やはり、他の部員は謎のプランについて何も聞いてないらしい。とりあえず、自分抜きで話が進んでいないことに、胸を撫で下ろす。


「…え?合宿?時瀬ちゃんまた合宿やるの?」

「今回のは違うよ。もっとビックになる予定」

「ったく。どう違うのか説明してみろ。なるべく分かりやすく頼むぞ?」


 待ってました、と言わんばかりに、我部の部長は椅子から立ち上がった。パイプ椅子が激しい音を立てて床に倒れる。


「あのね、心霊スポットに行こうと思ってるんだ」

「…幽霊ならここにいるぞ」


 何故にそれをチョイスするのか、説明が無いため、さっぱり分からない。部員は揃えて首を傾げ、はてなマークを浮かべた。


「オルデュールじゃ駄目なのか…。まあ、それで良かったのなら、そんな突飛なことなんて言わねぇよなぁ」


「ボクは幽霊じゃないわ!天使よ、天使!」と言うオルデュールを無視し、時瀬は続ける。


「無論、駄目だね。大岐くんは何一つ理解していない」

「と、いうと?」

「ここにいるメンバーはオルデュールを初めとした『この世に存在しないはずのモノ』が見えるということ、忘れてない?」

「正しくは、俺はあちら側に呼ばれない限り見えず、逆に憑かれやすいみたいだけどな」


 前、合宿を行った時に聞いた話だ。特に、小豆沢や昏名井は霊感なるものは強い方らしいし、時瀬は家系が神道だ。月座先輩はオルデュール以外のも見えているのかどうかは知らん。何も言わないから見えてはいるのだろう。


「何が言いたいんですか、時瀬さん。下手に動いたら呪われますよ?大岐くんみたいな特殊能力的なのではなく、ガチのヤバイ方で」

「そうだな、昏名井が言うのも正しい。興味本位で赴くものではないだろう。想いを残していった故人に失礼だ」

「ノリが悪いね…。冷やかしじゃないよ。私はね、幽霊と仲良くなって死後の世界について問いただしたいの」

「どこかのSOS団みたいになってますよ?本当に会話出来ると思っているんですか?」

「あのね…。小豆沢くんや昏名井さんと違って、これは元ネタの引用なんかじゃないから」


 時瀬は小豆沢の私物であるパソコンを俺たちの方へ向ける。画面に並ぶのは旅館の紹介ばかりだ。旅行サイトを開いたらしい。


「一応聞いてやろう。お前は何をしようとしている?」

「評価が低いホテルを出してみた。宿泊者の不満が溜まった場所を特定すれば幽霊出るかなって」

「他にマシなやり方あるだろう!?」


 検索結果を昏名井は覗き込み、

「見てくださいよ。『食堂まで便所の臭いがして気が狂いそうだった』だとか『風呂代別料金だったのを知らず、3000円ぼったくられた』だとか『あると思ったのにトイレが部屋になかった』だとか…。酷いですね、これ。何の罰ゲームですか?」

「心霊現象よりも他のサービスで白目剥きそう…」

「言っておきますけど、汚い宿だったら行きませんよ?こんなんだったら自室にいた方がマシです」

「大丈夫。面白いところ見つけたから」


 時瀬はノートパソコンを奪い取り、別のサイトを開いた。今のは何だったんだ。あいつなりのジョークだったのだろうか。


「旅館、詠美(うたみ)って読むのか…?」

「そう。立て直ししたばかりだからとても綺麗だって。ただ、立て直した後でも、ここの201号室は『死神の間』と呼ばれているらしい」

「201号室…死神…、黒の…死神!」

「小豆沢は黙っとけ」


 銃を置いて机に手を付く小豆沢の頭を軽く叩く。


「まとめサイトにも載ってますね。泊まった人が次々に原因不明の死を迎える、だから『死神の間』ですか。でも亡くなってない人の方が多いみたいですよ。死んでたらレビュー書けませんし」

「なかなか面白そうだな。しかし、こんな訳アリの部屋通されるのか?宿の人から見るとかなり迷惑だろう」

「そうだね。電話しよう」

「急すぎね!?」


 時瀬は制服のポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと携帯を探す。だが、無いようで「あ」と顔を青くした。


「灰田先生に没収されたままだった」

「…大体、授業中に触っているお前が悪い」

「大岐くん貸して」


 俺が良いと返答するのを待たず、ワイシャツのポケットから引き抜く。そして、部室の隅に行き、顔の横にスマホを充てる。一応会話をしているようだが、ここからだと、距離が遠くて上手く聞き取れない。

 話すこと数分。時瀬は元の座席についた。


「どうだったんだ?泊まれるのか?」

「喜んで、大岐くん。正直泊まるのはオススメしないらしいけど、ゴリ押ししたら通してくれるって!あとね、あとね、近くに別の心霊スポットがあるの!しかも2つも!古井戸と廃病院なんて如何にも心が震えるね!!!震えない?」

「…顔が近い!?」


 息が触れるほど近付く時瀬の顔を強引に押し返す。 黙っていれば美少女なのに、どうしてここまで性格が残念なのだろう。

 どうやら、この合宿の計画は、俺らが思い浮かべるものとは大きく掛け離れることまでは想像出来た。どうして心霊スポットなんて色気のない場所に行くのだろう。プールだとか海だとかに行く方が数倍羨ましい。


「合宿決行は明後日って言っちゃったから。明日で準備して」

「明後日!?まだ夏休みでもないぞ!?たった1週間しかない試験休みだぞ!?」

「安心して。宿泊費は生徒会長から巻き上げた部費でカバーするから」

「微妙に話が噛み合わない!?」


 そんな理由で合宿に行くことになった。

 先が不安である。


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