魔蜘蛛の悪夢
ちょっと残酷なシーンがあります。お気をつけ下さい。
日間ランキング1位(VR)になってました!(17/07/17 6:26現在)これも読んで下さってる皆さんのおかげです!
これからも楽しんで読んでもらえるように努力しますのでよろしくお願いします!
今日は海の日ですね。朝のニュースを見るまで気が付きませんでした。祝日バンザーイ!
ギルドに入りゴブリンとビックラットのクエストを破棄する。違約料を100Gずつ取られたが仕方ない、他で稼げばいいだろう。
クエスト一覧から<ニードルビー討伐><キャタピラー討伐><ソードマンティス討伐>を選んだ。蜂と芋虫と蟷螂、どう考えても蟲の森にいるだろうモンスターだ。虫なんだし火属性に弱いだろう、石ころが役に立つといいな。
門に立ち平原を見る。前とは違い、昼間のように見渡すことが出来る。昼間よりは少ないがランタンを吊るしながらホーンラビットと戦っているプレイヤーたちが見える。
森に行こうと足を踏み出した時、突然声をかけられた。
「嬢ちゃん、夜に灯りも持たずに外に出るなんて、ひっ」
声に反応して振り返ると、何故か驚いた顔をした門番さんがいた。
「そ、そうか魔眼持ちだったのか。な、なら大丈夫なのか?」
一人納得する門番さんだが、気になる言葉があった。
「なんで魔眼持ちだって分かったんだ?」
「え、そりゃあ、そんなに目を赤く光らせてるやつなんて魔眼持ちしかいないだろう?」
気づかなかった。自分の目を見る機会なんて無かったし、師匠も何も言わなかった。しまったな、これで街中を歩いていたとしたら結構目立っていたかもな。
「鏡とか持ってないか?」
「ん?鏡か、一応あるぞ」
そう行って門番さんは手鏡を取り出した。なんで持ってるんだよ、聞いた俺が思うことじゃないけど。
渡された鏡で自分の顔を見ると結構な美少女だった。そういえばこのアバターの顔は見たことがなかったな。目を見ると怪しく光る赤い目があった。確かにこんな目を突然見たらビビるわ。
手鏡を門番さんに返し今度こそ森へ向かう。
「それにしても自分の魔眼がどうなってるか知らないやつなんているんだなぁ」
そう門番さんが呟いているが無視して先へ進むことにする。変に追求されたら困るからな。
ーーーーー
平原を走り、たまにエンカウントするホーンラビットだけを倒しながら進んだ。10分程度で森の入口へ到着したが、夜目の魔眼を持ってしても森は少し薄暗かった。こんな鬱蒼とした森だ、夜に光が届かないのは当然か。いくら夜目が効くといっても光自体が少なければ意味はない。しかし全く見えないわけではないので森に入ることにする。
森の中には門から平原、森へと続く一本道しか無かった。道を外れれば遭難は確実であろうほど草木が生い茂り、地面に光が届くことを拒んでいた。
光が届かないのに何故草が生い茂っているのか?などというメタな発言はやめていただきたい。MP、つまりマナが存在する世界なのだから植物の生態も違うのだろう。
なので俺は大人しく一本道を進むことにする。自ら危険に飛び込んでいくことはないだろう。
そこらに探索の効果でアイテムがあるのが分かる。が、今は無視する。出てくるモンスターがはっきり分かっていないのに物集めをするなんて自殺行為はしない。
昼間はどうなのかは知らないが、夜の森には人っ子一人居なかった。しかし人ならざる者は確かに居るらしい。目の前に現れたそれは今の俺の身長程ある蜂だった。
鑑定してみるとニードルビーであると判明したそいつは俺を見るなり針から何かを飛ばしてきた。毒であろうそれを避け、俺は杖と盾を構える。ちらりと毒の着地点を見れば少しだけ生えていた草が枯れていた。石ころを使うのはまだいいだろう、取り敢えずファイアボールで様子見だな。
「ファイアボール」
詠唱をすると魔法陣が展開され始める。もちろんそんなものを待ってくれるはずもなくニードルビーは毒を飛ばしてくる。しかし詠唱時間は5秒、一度躱せば魔法は完成しマナから作られた火の現象がニードルビーを襲う。そしてニードルビーはその命を散らした。
<<針蜂の毒針>がドロップしました>
・・お、落ち着け俺。考えるんだ、INTがホーンラビットをワンパンした時の3倍で、ニードルビーの弱点はおそらく火属性・・それならワンパンもしょうがないか。ニードルビーェ・・。
まぁいいや。楽なことに越したことはないし。そうと分かれば虫狩りだぜ。
そこからの俺の道のりは楽だった。ニードルビーは基本的に毒を飛ばしてくるだけなので躱しつつファイアボールで。キャタピラーは縦に俺の身長くらい横に俺の3倍くらいある巨体だったが動きが鈍かったので時間は掛かるが杖で殴り殺せた。ソードマンティスは鎌が鋭く、木を切り倒したときは焦ったがファイアボールで吹き飛んだ。
レベルも1上がり「何だこの森。楽勝じゃないか」と調子に乗っていたが思わぬ強敵に出会った。マジックスパイダーだ。マジックスパイダーは俺の装備の素材にもなっているモンスターで、魔法防御が高いらしくファイアボールで死ななかった。しかも動きが早く、トリッキーなので杖も当てづらい。
「くそっ」
MPは4しかないのでファイアボールの石ころを投げる。しかしそれも避けらてしまい、代わりに木がファイアボールの衝撃で倒れた。動きが速すぎる、あの動きさえ止められれば・・動きを止める?そうだ!俺には触手があるじゃないか!そう思い付きマジックスパイダーが近づくのを狙う。
マジックスパイダーの攻撃パターンは3種、糸を丸めた物を飛ばす攻撃、水の玉での攻撃、そして高速で接近した後の前脚の叩きつけ。最後の叩きつけが狙い目だ。しかし叩きつけの威力はとても高く、先程なんとか回避した後の地面は抉れている。
牽制としてファイアボールの石ころを投げる。しっかりと狙ったそれは容易く避けられ、お返しとばかりに水の玉が飛んで来る。それを盾で受け、今度は石ころを3つ、マジックスパイダーの進行方向、マジックスパイダーの背後、俺から見て奥側の順に投げる。周りを炎の熱と煙に包まれたマジックスパイダーは怒りを露わにし俺の方を睨む。そうだ、そのまま突っ込んでこい!
その思いが届いたのか、怒りによるものだったのかは分からないがマジックスパイダーは前脚を高く上げ突進をしてきた。全身に力を入れ触手をイメージする、長く頑丈なイメージだ。
「グラミクス!力を貸せ!」
叫び声を上げ気合を入れる。その瞬間、全身から触手が飛び出してきた。触手は突進してくるマジックスパイダーの前足を押さえ込み、胴体を縛り上げ、最後に残った6本の脚を掴み取った。規模が大きかったせいか、なけなしのMPをすべて持っていかれたが仕方ないだろう。
身動きの取れないマジックスパイダーに近づき観察したが、身長は俺の倍くらい、胴体は俺が4人は入りそうな大きさだった。この森のモンスターはどれも「無理な人もいるのではないか?」というほどリアルな描写でちょっと気持ち悪い。
ふと思いつきカバンから解体セットを取り出した。フタを開けると中にはメスや尖った針などの小さなものからノコギリや鉈といった大きな道具まであった。
取り敢えず鉈でいいか。固定された前脚を無理矢理目の前まで降ろさせ、俺は鉈を振りかぶり前脚の付け根に叩きつけた。鉈は付け根の半分くらいまで食い込み切れ目から緑の汁が飛んできた、ローブに付いたが気にしない。マジックスパイダーは逃げ出そうと藻掻くが一度顕現した触手は維持するのにMPは消費しないので問題ない。漏れ出ている汁を瓶に集めてみようと思ったが量が少ないのであまり集まらなかった、あとで胴体をぶち抜いてみよう。俺は鉈を切り込みの入ったところにもう一度叩きつける。すると前脚は千切れ地面に落ちた。それと同時にマジックスパイダーは先程より激しく体を動かし暴れる、マジックスパイダーも痛みを感じるのだろうか?
そんな考えを隅に追いやり千切れた脚を鑑定してみる。
<魔蜘蛛の前脚>レア度:4
マジックスパイダーの前方の脚。攻撃に用いることもあるため先端は鋭く尖ってる。
なかなか良い素材のようだ。折角なので残りの脚も切り取っておくことにする。15分程掛けて残り7本の脚を切り取った。後脚の方は前脚より太く丈夫だったので少し時間が掛かってしまった。
<魔蜘蛛の後脚>レア度:4
マジックスパイダーの後方の脚。体を支えるためとても丈夫になっている。前脚と比べ太く、殻は厚い。
残っているのは脚が無くなり達磨のような格好になっているマジックスパイダーだ。腹を割れば体液が手に入るかなと思い、先の尖った金槌(先切金槌と言われるもの)を取り出し叩いてみた。しかし思ったより甲殻の強度が高く割れる気配はない。ノコギリで切ろうとしてみたり、より大きな金槌で叩き割ってみようとしたが結果は芳しくなかった。しばらく考えて思いついたのが頭胸部と腹部の接続部分を切ることだ。脚は付け根を切っていたのに何故このことをすぐに気が付かなかったのか。鉈を取り出し叩きまくる、20回ほど叩くと頭胸部と腹部は完全に切断され足の付根を必死に動かしていたマジックスパイダーも動かなくなった。全身緑の汁塗れなのはこの際気にしない。死んだはずなのに消えないことを不思議に思ったが、解体されたと判断されたのだろう。まさか全部残るとは思わなかったがこれは大収穫だ。
<魔蜘蛛の頭胸部>レア度:4
マジックスパイダーの頭胸部。解体可能。
<魔蜘蛛の腹部>レア度:4
マジックスパイダーの腹部。解体可能。
どうやらアイテム扱いらしい。試しにカバンに入れようと試してみると吸い込まれるように中に入った。不思議で堪らないが持ち帰れるなら問題ない。
ひとまず帰還することにした。理由はMPも回復はしてるとは言え少ないし、新しい素材でカバンが結構埋まってしまったからだ。
森の中は出しっぱなしにしたままの触手を使って移動する。今は夜で森にプレイヤーの気配はないし大丈夫だろう。森を出ればホーンラビットしか居ないから解除するけど森の中はソードマンティスなんかが居るから危険だ。何度か戦闘になったが全て逃げに徹している、触手で攻撃を防ぎ、気を障害物にしながら走り抜ける。戦えば魔法を使うにしても触手を補充するにしてもMPが減るので仕方ない。
ステルススキルもあるがこんなに音とを立てていては役に立たないし、普段は隠れる必要のないくらい攻撃手段もある。少し損をした気もするが触手や魔術錬金なんてあると思わなかったから仕方ないだろう。
ーーーーー
30分掛けてなんとか門まで帰還することが出来た。門に近づくと何故か皆こっちを見ていた。何人かはこっちを見るなり気持ち悪そうにしていた。疑問に思っていると手鏡を貸してくれた門番さんが声をかけてきた。
「な、なぁ。嬢ちゃんなんでそんな液体体中につけてるんだ?」
「え?」
自分の体を見てみるとマジックスパイダーの体液が掛かったままだったのを思い出した。
「あー。気にしないで。今度からは気をつけるんで」
「宿屋行ったらどうだ?洗濯してくれるところもあるからしてもらえばどうだ?」
「洗濯してくれるのか?」
「<旅人のオアシス>って宿屋はおすすめだ。サービスもいいからな。場所はこの紙に書いてある」
それはいいことを聞いた。門番さんには感謝だ。
「ありがと、門番さん」
「ああ、じゃあ気をつけろよ」
そう言う門番さんに軽く手を振り俺はその場を後にした。
魔蜘蛛の悪夢は魔蜘蛛に酷い目に合わされるのではなく、魔蜘蛛が酷い目に遭う話でした。
主人公は少しマッドです。え?少しじゃない?
非道ナル者の効果も少しは関係してるかも?
ちなみにマジックスパイダーはレアモンスターです。
ステルススキルさんについて追記(17/07/17 20:21)
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<ステイタス>
名前:ケイ 種族:ヒューマン レベル:6
ステイタスポイント:5 スキルポイント:4
HP 109/120 MP 45/80(+14)[+13]→45/215 満腹度42%
STR 12(+1)[+5] →18
DEX 10 →10
VIT 13(+17)[+5] →35
AGI 13[+5] →18
INT 17(+33)[+13] →63
MND 10(+16)[+4]→30
LUK 10 →10
スキル(4/4):<錬金術:13>
「錬金の基本:Passive」<分解><合成><最下位錬金>
「初級錬金:Passive」<下位錬金>
「中級錬金:Passive」<中級錬金><マナ錬金>
「上級錬金:Passive」<上級錬金><魔術錬金>
<偵察:1>
「イージーステルス:4」
<探索:4>
「もの探し:Passive」
<火術:2>
「ファイアボール:5」
「ファイアバレット:3」
<闇の錬金術:2>
「闇の錬金術の基本:Passive」<変質><融合>
特殊スキル:<夜目>
<触手:グラミラス>
<鑑定>
装備:右手 :青銅の杖
左手 :角兎の盾(49/70)
頭 :森狼のマジックハット(100/100)
右腕 :なし
左腕 :なし
胴1 :森狼のマジックローブ(140/140)
胴2 :森狼のマジッククロース(140/140)
靴 :森狼のマジックブーツ(80/80)
アクセ1:探索者のカバン
アクセ2:ゴブリンの首飾り(5/10)
アクセ3:なし
持ち物(38/40):初心者ポーション*5、石ころ*30、石ころ*20、ビビ草*30、イズン草*30、スリプ草*18、汚水*12(5%↑)、ウィケストマウスの骨*16、ウィケストマウスの骨粉*1、ケイの下位回復薬*5、ケイの回復薬*1、ホーンラビットの毛皮*19、ホーンラビットの肉*14、ホーンラビットの串焼き*7(25%↑)、ケイの下位回復薬:失敗*2、ボロ布*4、ビックラットの牙*1、ケイの下位回復薬:失敗*2、テオフラウトゥスの魔法陣*1、ミスリルの釜*1、ユグドラシルの枝*1、ミスリルの筒*1、採血のナイフ*1、テオフラストゥス印の解体セット*1、テオフラストゥスのメモ*1、契約の悪魔の残滓*24、石ころ(ファイアボール)*17、錬金術師見習いの杖*1、針蜂の毒針*3、針蜂の甲殻*2、針蜂の羽*4、芋蟲の体液4、芋蟲の触角2、剣蟷螂の剣足*5、魔蜘蛛の前脚*4、魔蜘蛛の後脚*4、魔蜘蛛の頭胸部*1、魔蜘蛛の腹部*1
所持金:655G
取得可能スキル:なし
称号:<座標同期者><テオフラストゥスの愛弟子><夜目の魔眼><自己改造><ダークアルケミスト><宿主><魔蟲の同化者><鑑定の魔眼><非道ナル者>
所属ギルド:冒険者ギルド
クエスト[冒険者ギルド(3/3)]<ニードルビー討伐(9/10)><キャラピラー討伐(6/10)><ソードマンティス討伐(5/10)>
[Extra]<錬金術士・テオフラストゥス>
[ミドガ暦1年1月6日PM10:00][西暦2161年7月20日AM7:20]




