3話
いよいよ、カノジョが出発する日になった。カノジョの友達や両親が駅まで見送りにきていた。
ボクも、もちろんその場にいる。
友達からのメッセージカードや花束と旅行用の鞄を抱えたカノジョは、嬉しそうな、悲しそうな、どちらともとれる表情でみんなと話していた。
「で、事務所どこなんだっけ」
「レッスンきついんだってね。頑張ってね」
「いいなー、私も上京したいー」
友達が、口々にカノジョに話しかける。一人一人丁寧に返事をしているカノジョを少し遠くから見ていて、昔からそういうところは全然変わってないな、と思う。
いつも、誰かのことを気にかけていて、どんなときでもしっかりと対応する。誰かのために一生懸命で、自分のことは後回し。だからこれは、カノジョの初めてのわがままなのかもしれない。だから僕も、応援しようと決めたのだ。
1番線に列車が参ります。とカノジョとの別れを告げるアナウンスが流れた。
「いってらっしゃい。がんばってね」
ボクは一言、そう言った。
「うん。いろいろありがとう」
カノジョの目に涙が浮かんでいた。
ボクはつられて泣きそうになるのを必死で堪えて、笑顔を作る。
「泣くなよ。夢への第一歩でしょ?」
「そうだよね。私、頑張るね!」
あはは、と笑ってカノジョはそう言った。
カノジョを乗せた列車は、シュトへと出発した。ボクたちはその列車が見えなくなった後も、しばらくの間静かにホームに立っていた。