2話
「・・・牛丼?」ボクは思わず聞き返した。予想外の答えだったからだ。
「うん。牛丼。小さい頃からの憧れだったの」
驚いた。ボクとカノジョとは小学生の頃からの、長い付き合いで、カノジョのことはよく知っているつもりだった。
「それでね、両親とも相談したんだけど、私シュトに行くことにしたの」
「え、シュト!?」
シュト。この国の政治、経済、文化の中心地。いわゆる『メトロポリス』というやつだ。
「そう。シュト。突然なんだけど、来月には上京するつもり」カノジョの目は子供のように輝いている。
牛丼になるなら、牛丼でトップを目指すのなら、上京は避けては通れない。実際、カノジョと同じように、多くの若者が夢を追い求めて上京している。だが、その全てが夢を叶えられるわけではない。
「上京したって、牛丼になれるとは限らないよ?」
「それは分かってるわ。でも、たった一度の人生だから、自分の夢を追いかけたいの」
「・・・人生、か」
ボクには何も言えなかった。カノジョの人生はカノジョのものなのだ。夢を追うことも、諦めることも、カノジョ自身の決断によるものでなければならない。
ボクたちはその後喫茶店を出て、いつものT字路で「頑張ってね」と、思いもしない事を言って別れた。東へ向かう道がカノジョの、西へ向かう道がボクの家へと続く道だ。小学生の頃から、カノジョとこのT字路で会って、別れてを繰り返してきた。
「・・・上京か」夕日を浴びるカノジョの背中を見て呟いた。
もうすぐ、カノジョはこの道のずっと向こうに行ってしまう。