華麗で痛い攻撃
「アス、デートしようぜ」
「……俺、敬語キャラ好きだ」
「……ほわぁぁぁぁぁぁぁ」
校門の前でキャラ作りすることなく、安月 志波がやって来て花束を差し出す。変装もなくいきなりの言葉に明日奈は一時停止となっていたが、一番最初に出会った時のことを思い出す。
学校近くを通りかかった人たちは、国民的アイドルがいることに驚き黄色い悲鳴をあげていた。
「くっ、アス。デートしませんか?」
「敬語で言おうとそれは却下する」
「酷すぎです!」
「別に俺は嫌いじゃないよ。俺はね?」
(お兄ちゃんは間違いなく大嫌いだという部類だろうね。チャラチャラしてるような男は大嫌いだから)
からかうの楽しいと思うくらい弄りがいがある。からかいがいがある、という男だった。
「どういう」
「そんなことよりさ、おまえ隣高のリーダーなんだろ」
「そうですよ、だいぶ最近話したような気がしますが」
「んなこと忘れた。っつーかさ、ケンカ強いのか? なんでここに来るんだ? アイドルってどうやってなったんだ? 今日の朝食なんだった? 不良はどのレベルの強さなんだ? なんでリーダー何てことをしだしたんだ」
「質問多すぎだし途中意味ないのが。はぁ、ケンカはまあまあだと思います。ここに来るのはアスが気になるし手腕を真似するため、アイドルにはスカウトで、朝食はサンドウィッチ、不良はここと大差ない、リーダーには憧れたから、です。アスに」
「すっげぇ答えた。ってかサンドウィッチ美味いよな」
「選んだのはそれですか、そんなに朝食が気になりますか」
普通ならば朝食よりも自分に関わるようなことを興味を持つのが当たり前のはず、けれどサンドウィッチが食べたくなってしまった。
「で。……デートしてください」
「花、正直苦手」
「え」
しょぼんと頭を項垂れていたが、花も一緒に落ち込んでいたのが印象的だった。
渡されても手入れ出来ないため、枯らしてしまうのが切ないから花が苦手だった。
「じゃあ花抜きでデート」
「断る」
「何でですかぁぁぁぁ!」
「え、好きでもない人とデートなんかしたくないだろ」
正論を述べてるはずなのに、志波の泣きそうな顔に心が抉られそうだった。初めて会ってから特に気にも止めてはいなかったが、積極的過ぎて引いていた。
「じゃあ、こっちに転校してきます」
「来るな」
「来ます」
「来んな」
「行きます」
「大嫌い」
「ぐはっ……、直球過ぎます」
周りではカッコイイと盛り上がっているが、この変態っぷりを見ても動じないファンたちがカッコイイと思って路線変更なことを考えていた。
「その花ファンに渡せよ。貢いでくれてるようなもんだろ恩返しのつもりでな」
「貢ぐって、口が悪い。まあ、分かりました」
ファンな元に向かうっ黄色い声が更に大きくなり、花の一つ一つをプレゼントをすると興奮のあまり気絶する子達が続出。
アイドルスマイルも追加をして、顔だけは立派に綺麗だった。
「はぁ、疲れた」
「年寄り」
「違いますから」
戻ってくると志波がため息をしている。言葉の節々から感じられる若さの消失に明日奈はやはりからかう。
「デートしたって、こっちに何の利益もないだろ」
「ケーキ食べ放題行きますか? 奢りで」
「!!」
「映画とか」
「……」
(あー、それは良いかも。ケーキ食べ放題は興味がそそられる)
女の子らしく甘いものが好きな明日奈としては、演技が崩壊するほど気にかかるものだった。
「……なぁ」
「ん?」
「俺に憧れたってさ、どういうことなんだ?」
「今さらですか、というか会話に繋がりがないです」
「なんだよ」
「昔に、高校に入学したてのことです」
答えるつもりがなさそうだったのに、思い出すように目を細める志波。日差しがキツかったため、日陰のあるベンチにまで移動して話を聞くことにした。
日差しや日向の温度差に驚きながら、志波は真っ直ぐと土を見ていた。
その当時は安月 志波は高校一年生、アイドルとしてデビューしたばっかりで両立することに必死になっていた。
服を買いに明星駅にやって来た時のこと、少し散歩をしたくなり場所は分からないが高校まで歩き出した。
「おい、誰に断り入れてこの地に足を突っ込んでるんだ?」
(うわ、中学生が絡まれてる。噂では聞いてたけど、ここガラが悪いの集まってるな)
空き地で中学生の男の子が襟首掴まれながらコンクリートの壁に押し付けられていた。
「ダサっ」
「あ゛?」
「猿かよ、前にも似たようなこと話してたクズがいたぞ。いや、猿に悪いな」
「俺に悪いと思え!」
相手は高校生で見たまんまの不良なのに、臆することもなく挑発をする少年に驚いていた。
華奢で身長だって不良たちより小さいのに、口だけは立派だった。
「ガキが舐めたこと言うんじゃねぇ!」
「誰がお前なんか舐めたいよ。気色悪い」
「てめぇ!」
少年は不良の肘の内側を強くチョップをして、カクッを曲がり力が抜けたのか服を掴んでいた手が離れた。
そして容赦なく股間を蹴り上げた。
「っつ」
「うわ、痛い、今の」
自分もやられたような錯覚になり、ひゅんっと引き腰になっていた。
地面に崩れ落ちた不良の一人を冷たい目で見下した。それ系を好きな人からしたら堪らない表情だろう。
「全員掛かってこい」
その光景はあまりに綺麗で、乱闘という状況が芸術だと思わせるような華やかな戦い方。一切、怪我をするところか、全部避けている。
「……ちっ、雑魚の癖に意気がって掛かってくるからこうなるんだよ」
「……かっけぇ」
「まだ、いたのか」
「いや、僕は違いますよ。あなたの戦いに見惚れていたんです。中学生ですか?」
「ああ、だから何だよ」
「いえ。こんなに強い中学生がいたなんて驚いただけです」
自分にも敵対してきて、慌てて否定をしたが、見惚れたという事実は隠さずに答えた。
直球な言葉に眉を寄せて気味が悪いと思っていた少年。
「名前なんですか」
「なんで言わなきゃならねぇんだよ」
「僕は志波って言います。あなたみたいになりたいんです」
「年下に憧れるとか、だせぇな」
「憧れるのに年は関係ないです。僕は自分の高校を締め上げたいって思ってるんです」
「……弱そう」
「あ、あなたに比べたらそうかもしれません。でも、頑張りますから……有名になったら、勝負してください」
そうカッコ良く決めていたが、安月 志波、未来で女で妹に負けて涙目になる。
「へぇ、覚えてない」
(お兄ちゃん、昔は本当に酷かったしなぁ。絡んではやっつけての繰り返し)
昔の話は聞いたことがないため、こう他人から話を聞くと嬉しかったりする。頭がおかしいことをしているけれど……。
「ほんと、あの時のアスは最高だったんです。初めて女に生まれたかったとさえ思ったんですから」
(私は女だけど、絶対にお兄ちゃんとは関わりたくないと思う)
恍惚の表情をする志波に完全に引いていた。そして女である自分よりも兄が勝っていることに無性に嫉妬を感じていた。
「……二の腕、余計な脂肪ないな」
「そうか? まぁ鍛えたりしたからですね」
「……摘まめない」
「痛いですから」
(羨ましい、こんな細い腕。二の腕の脂肪がプルンプルンとならないなんて)
筋肉が少なめな明日奈にとって、志波の二の腕をつねっている今がとても楽しく憎しみも持っている。
「ちょ、そこ、ダメです」
「二の腕の脂肪ってさ、胸の柔らかさでもあるんだよな」
「痛いですって」
「俺、実は二の腕フェチなんだよ。細くて筋肉ある人好きでさ、つねりたくなる」
「ヤですって」
「つねらせろ」
「痛いですって! ツボも入ってます」
「ふふふ」
「スイッチ入るなぁぁぁぁぁぁ!!」
噂に聞いていたサドスイッチ。こんな形で体験することになるなんて彼は思ってはいなかった。しかも、二度も同じように痛い思いをすることも考えてはいなかった。
「色白だな」
「まあ、確かに腕は白いです」
「制服じゃないってことは、私服?」
「今さらですか。そうですよ」
「シャツが合う体だな」
「裸に興奮しますか?」
「今度はどこのツボが良い?」
「何でもないです」
志波はすぐに謝ったが、明日奈は彼の言葉にどぎまぎとして焦りを感じていた。
雑誌などでも裸体を晒してることがあるから、一度は見たことがあって、スリムながらも筋肉が存在していて細マッチョとしては最高の体型だった。
こんなベタベタしたら後で兄に何されるか理解してるにも関わらず己の欲求に素直だった。