新しい知人
学校に双子がもう一組いる。唯たちと同じく一年生で、この不良たちが集まる中で比較的その場に相応しくない綺麗さ。
「そろそろ、駅前にアミューズメント施設が出来るみたいだね」
「……こんな不良たちが集まる場所に出すなよな」
背が高く少し髪の長い兄と背が低い短髪の弟。優しげな口調と荒々しい口調で見た感じでは双子らしくない。
「でも、交通網では一番だからね。それに、あそこら辺商業施設が多いし」
「意外にそういうのは良いよな」
「……」
「あれ、総長じゃん。見回りですか?」
「もう見回る必要もなさそうだけどな」
双子の前を歩く明日奈は立ち止まり、その整った顔をジッと見ていると双子兄が気付いて親しげに話しかけた。
「双子?」
「そうです。あ、オレ兄の祐希、で、弟の悠里」
「ユウキとユウリか。仲が良いんだな」
「悠里は可愛いから狙われるんだよ。だから守ってあげなきゃ」
「可愛いって言うな!」
自分のとこと違うタイプの双子に羨ましくなった。兄を交換してほしいと思ってしまうくらい。
祐希は悠里を溺愛し過ぎているところがあるようだ。
「確かに可愛い系だ。モテるだろ、どっちにも」
「オレは可愛くて女の子らしくて巨乳が良い」
「……ははっ、残念だけどこの学校にいないな」
目の前にいるのは全てが真逆な女の子だ。巨乳というクラスの女の子はいないのも事実で、いたとしたら危険でしかない。
ただでさえ少数の女子に、グラビア並の女子は存在しない。いたとしても背が高く男っぽい女子だけだ。
「なんで可愛い子いないんだろうな。ギャル系一人だ。あとは精神が男なのばっか」
「こんな不良ばかりのとこに来る度胸のある女はいないだろ」
「でも、生徒会には普通の女の子がいるよね」
明日奈の疑問に分かっていたが悠里が答え、祐希は明日奈自身も気になっていたことを話す。
この学校に通う数少ない女子の大半、レディースに入っていたりだという。そして、残る数割りは影が薄い地味な見た目のばっかり。
「昔は生徒会って名前は影響なかったから、襲われそうになってたって聞いたけど」
「……」
(そういえば、女の子の方は明日也と前からの知り合いらしいから、四六時中一緒だったと聞いてた)
明日也は昔から、いや昔の方は誰構わずケンカを吹っ掛けていた。それは唯を襲った連中だったということは聞かされてはいない。もちろん報復はあったが、それでもその時はいつもの倍以上にエグいことをされたため、唯に手を出すバカがいない。
「でも、凄いよね。入学する度胸」
それはこの双子にも言えることじゃないかと、祐希の言葉に明日奈は思っていた。
顔だけは良いこの双子が良く無事だと関心さえしてしまう。
「じゃあ」
「うん、またねー」
「……おい」
「ん?」
手を振り離れようとしたら、悠里に止められ耳元で何かを囁いていた。祐希には聞こえず、首をこてんと傾げている。
明日奈はその言葉に目を見開いてから、祐希をジッと見つめ何回か頷いてから立ち去った。
「……はぁ、人は見かけによらない」
双子の姿が見えなくなってから悠里の言葉を噛み締めるように驚嘆する。
「あいつ、格闘技系の有段者だぞ。柔道、剣道だけじゃなくマニアックなものまで」
ケンカなら神内や明日也が強いだろうが、そういう専門的な武術ならば勝てないだろう。
その予想外な言葉に明日奈は驚いていた。
なぜ双子は無事なのかと思っていたが、あっさりと答えが分かった。
「二人とも、顔が良いから絡まれそうと思ったけど、いや、モテるから狙われないのかも……ん? 別の意味では狙われるか」
窓枠に寄りかかりながら、テニスコートを見つめた。遊びでやってる人や、部活として真剣にやっている人もいた。
「青春に憧れながら、青春を怖がる、かぁ」
ふと、にこやかに遊んでいる様子を見ながら考えてしまう。友達が人並みに欲しい明日奈としては仲良くしている生徒(男同士)を見て羨ましくなるが、こんな場所じゃ女子率の少なさに嘆く。そして自分を偽っているため、もっと難しいだろう。
「はぁ、男の子同士の友情。良いわぁ」
「え?」
「もうっ、もう少しくっつきなさいよっ! 空気読めっ、ばかっ」
隣に変な子が来ました。
明日奈は同じく窓枠に寄りかかってカメラで写真を撮っている不思議な女の子がいた。そしてすぐに、不審者だと気付いた。
なぜ不審者かと思ったのかというと、この学校にいる女子の顔は把握出来た。その上、とびきりの美人というのはいない。
隣で奇声を上げてる少女は、間違いなく顔が整っている。今まで会った女性の中で上位クラス。
「あーもう、スポーツしてる男子って最高っ。食べちゃいたい」
そして、とびっきりの変人だった。少女の視線の先を辿ると、話をして笑い合って額の汗を腕で拭っている。確かに青春という感じで爽やかだが、隣の少女の凄まじさに引いていた。
「ん?」
(やばっ、目が合った)
慌てて視線を反らすと、即座に悲鳴が聞こえた。左耳がキィンとして、耳を塞ぎながら睨むと少女はハッとして口を手で塞いでいた。
「ねえ、この学校の子? 明星の」
「ああ」
明星高校、歴史としては県内有数の古さ。女子の制服はセーラー服でリボンは水色だった。
けれど少女の制服は白色のブレザーのため不思議だった。まるでドラマに出てくるようなほどにカッコイイ見た目だった。
「こんな可愛い男の子がいるなんてっ! はぁ、妄想が進むっ!」
「……」
「呆れた顔も良いっ!」
「おいブス、てめぇ誰に声かけてんだよ」
「うるせぇ、黙れブサイク!」
「!!」
ブリッ子っぽい可愛らしい声から発せられた言葉にも驚きだが、第三者に驚き、その男の言葉にも更に驚くだけだった。
「あたしが誰と話そうが自由だろうがっ」
「てめぇでは扱いきれねぇ野郎だっつーの!」
(誰だっけ? 確か生徒会の……あー、名前忘れた)
生徒会の宇城だ。明日也をライバルとして見ていて、絶対に負かせる気満々の男だ。
宇城は顔が怖いだけで、ブサイクと呼ばれるほどではない。
「知り合いなのか?」
「ムカつくけど幼なじみ」
「ムカつくってなんだよ。こっちこそてめぇと幼なじみだと思われたら気分悪い! 第一なんで他校のてめぇがいるんだよ」
「……仲が悪すぎだろ」
「あたし、こっちに転校するの。だって、元の学校カッコイイ人いないし」
(はあぁぁぁ? 何なんだその理由。そんなんで転校したりするの?)
とにかく目の前の少女がイケメンが好きでちょっと頭のおかしな裏表がある子なんだと理解した。
「ねぇ、美男子くん。名前は?」
「明日也」
「明日也センパイ! 名前もカッコイイ」
「せんぱい? 同じ年じゃないのか?」
「ん? あっ、あたし一年なの。親同士が親友で……あ、美樹って名前だから覚えてね」
「あ、ああ、ミキ、な」
「覚える必要はねぇよ。こんなブス構うだけ無駄だ」
(なんか、最初の頃より浮き輪くん優しくなった気がする)
無視したり睨み付けたりケンカを売ってることが当然の彼が美樹を巡ってのことだが、妙に優しい。
「……なんか、苦労してんだな」
「まあ、色々とな」
妙に苦労人である宇城に同情をしていたが、彼女は彼を浮き輪だと覚えていた。そして大きい浮き輪を使ってる自分を思い浮かべ、海に行きたいと思った。
「何の話ー?」
「本当に転校するのか?」
「え? 何が問題? この美しいあたしが来ることに何の問題があるの」
「なに、このナルシスト」
「昔からそうなんだよ。自分が一番美しいと思ってやがる」
「事実じゃないの!」
(この人、確かに綺麗だけど、なんかモテない性格を詰め込んだような感じで怖すぎる)
ナルシストっぷりに呆れながら宇城も頭を抱えた。その動揺は痛いほど分かるため可哀想に思えて仕方がない。
「昨日、大きめのクモがいて怖かったぁぁ。夜だし掃除機が部屋になくて退治しようとしたのに失敗したのか見付からない!」
「どこから突っ込むかしらね」
「……頼んだ」
「はぁ、八朔、急に会話を始めるとビックリするから気を付けてよ」
生徒会室に戻るとソファに美樹が座っていて、会計二人はそのことを無視していた。神内は留守で宇城はイライラしている。
ちなみに明日奈が連れてきた訳ではない。
「掃除機買いなよ」
「違うんだって盗まれたの。だからなくてさぁ。寝室で自分が寝てるベッドの枕元近くの壁にいたから怖くて眠れなかったぁ」
「確かに気付かないと怖さはなくても、気付くと世界が変わるよな」
「まあ、確かに虫は嫌いよ。クモも嫌いだわ。見たら叫ぶもん。アスも虫は嫌いなの?」
「好きではない」
「このくらいなんだよー、でかすぎで引くし」
手で大きさを示しているが、確かに大きめで想像したことを後悔した。正直なところ明日奈は大の虫嫌いで見付けたら問答無用でスリッパや雑誌でスパパパパンと容赦なく叩き潰している、涙目で。
「細い奴だしー、だあもうっ最悪」
「じゃあ、どこに行ったか分からないのか」
「うん、怖いよー。アス家に来て」
「……遠慮する」
「ふふふ」
「なに? そんな面白いこと話してないけどー?」
明日奈の冷めた反応に興奮気味の八朔。唯はヤキモチを妬きながら八朔を冷静に受け流している。
不気味に笑う美樹に八朔はムカッとして機嫌を悪くした。
「あたしより美人なのいないなぁと思ってね」
「……え?」
「自画自賛? うわ、ナルシーかよぉ。きもっ」
「あたしのどこがキモいのよ!」
「……おまえの大好きな男だぞ、相手」
「え? やぁだぁ、こんな可愛い男の子いたんだぁ」
「……凄い変わりよう。怖すぎ」
猫かぶりをする美樹だけど、さっきまでの性格を知ってる者たちからしたら、その豹変に怯えるだけだった。
「ブス、近付くな」
「もうっ毒舌なとこも可愛いんだからっ」
「ある意味、精神が一番強いね」
「……疲れる」
新たなお友達が三人追加された。そして、その内の一人は生徒会に無理矢理参加をすることになったのだった。