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プロローグ


 県内でも有数の不良学校。ただ警察沙汰になったことがないのが誇りなのか何なのか。

そんな学校の校門前で立ち止まっている生徒がいた。


「お兄ちゃん……私には無理だよ」


 平凡的なサイズの学校が、大きく見えオバケのように襲いかかってきてるように感じ、足がすくむ。


 短い髪に少し低めの声、ドキドキとした心臓が高鳴る胸を押さえる。全く当たり障りのない胸のせいで性別が分かりにくい。


「……ん」


 咳払いをして必死に女性特有の声を隠す。そして、ブレザーを整えて身だしなみをきちんとさせる。


「お兄ちゃん、何で私なの」


 気弱なセリフになるのは、この後のことの不安から。その不安は払拭されることはないだろう。


「アス総長!」


「……?」


「今日は集会なんだから早く来ないといけないよ」


(私のこと? この人は誰なんだろう)

 セーラー服の女の子が校舎からやって来る。茶色いショートカットに大きな目。活発そうな女の子で、真っ黒尽くしの自分とは真逆だった。


「どうしたの」


「いや、何でもない」


「生徒会の総長なんだから、しっかりね」


 男子が多く女子が少ない学校でいきなり女子に会うことがもうレアでしかない。自分の名前を知ってるのと生徒会と総長という単語に、目の前の少女が誰なのかすぐに理解した。


 そして、彼女が自分を別の誰かと勘違いしてるんだと思うと嬉しくなり笑いそうになるのを堪えた。




「なあ、明日奈」


「なぁに、明日也お兄ちゃん」


 病院の一室、同じ顔をした二人の男女がいた。ただ顔は同じでも、女の方は髪が長くて服装もワンピースのため、しっかり女性に見える。

男の方は端整な顔立ちでアイドルと言われても違和感がないほどだ。


「俺がいなけりゃ、あの学校はダメだ。分かるな」


「……え」


 双子の兄の見舞いに来てニコニコだった顔が凍ったように張り付いた笑みに変わる。この先の言葉は何なのか分かってしまったからだ。


「あの不良たちを纏め上げるのが必要なんだよ」


「まとめ……あげる」


(締め上げるに聞こえるのは、気のせいなのかな)

 兄の暴力的な性格は良く理解している妹としては、言葉の裏にある本性にビビってしまう。


「でさ、明日奈。学校行け」


「いや、あの」


「行け」


「私、学校嫌いだから」


「行け」


「だから」


「行け」


「……不良、怖いよ」


「行け」


「私がキライ!?」


「行け」


「……うう、お兄ちゃんの真似なんて無理だよ。人の名前だって覚えられないのに」


「行け」


「あのね、私お兄ちゃんみたいに暴力は苦手だよ」


「だから?」


 二文字から三文字に変わるだけで威圧感が強くて、言葉を変えたとしても安心できない。


「何言ってるんだよ。ツボがあるだろ」


「それは……、まあ、そうですけど」


 思わず敬語になっていたが、反論出来ないところに彼女の弱さだった。打たれ弱いんだろう。


「生徒会の面々に助けてもらえ。名前は前に話しただろ」


「だから、それも忘れてて」


「行けよ」


 ひいらぎ 明日奈あすなひいらぎ 明日也あすやにより強制的に学校へと行かされたのである。




 そんなこんなで来てしまった学校、そして生徒会室に連れてこられた。椅子に乱雑に座っていた男女、あまりに怖すぎて部屋に入ってもすぐに後退りをした。


「何してんだよ、アス。早く来い」


(誰なのー、この人たち!)

 一番顔が恐い男が睨みながら聞いてくると、みんなが一斉に明日奈を見つめるため、恐怖を感じていた。


「どうしたんだ、中に入りなよ。そろそろ登校時間だし、ね」


(わぁ、この人カッコイイ)

 黒髪のツンツン頭の大きな目の大人っぽい見た目の人で明日奈は思わず見惚れていた。


「神内ー、なあ予算合わないんだけどぉ」


「会計はおまえだろ、八朔」


(じんない? 副なんちゃって人かな。はっさくって子は会計みたい)

 黒髪の男は神内じんない 一也かずやは副総長。見た目は学内で一番の良い男で暴力が一番大嫌いな割にケンカは一番強い。

そして甘えるような声なのに乱暴な口調のゴスロリっぽく改造された制服の女装男子の八谷はちや さく。略して八朔はっさくと呼ばれている。


「だってさぁ、おかしいだろぉ」


 紙を神内に押し付けるように見せびらかす。小さい文字が並んでいるだけで何て書いてあるのか分からなかった。


「……かわいい服」


 八朔の制服に、制服マニアでもあった明日奈は羨ましそうだった。小さい言葉は運良く誰にも届いていなかった。


「じゃあ、唯が何か知ってるんじゃ? 同じ会計なんだし」


「あたし知らないよ。暗算得意なの知ってるでしょ」


「ああ、数学の大会で優勝するくらいな」


「すごっ」


 ここまで連れてきた国分こくぶ ゆいの凄い特技に驚いたのだった。見た目は完全に問題児かギャルにしか見えない。


「じゃあ八朔、てめぇだろ!」


「宇城! 違うって言ってるだろぉ」


 不良みたいな見た目で髪をオールバックにした男、宇城うき 美弥みや。女みたいな名前のため、下の名前で呼んだら問答無用でボコボコにされるため、誰も名前では呼ばない。


「って、アス。さっさと座ったら?」


「……ああ」


 兄に言われたこととして、絶対に『バレるな』、『ヤられるな』、『評価を下げるな』という約束をさせられた。正直、それは約束でもなんでもなく脅しだった。


 双子だから見た目でバレることはないが、声は兄明日也も比較的高めだから問題ない。ただ、男らしく生きたことがないため、口調は気を付けなくてはいけない。


「でも早くクリーンな学校生活を送りたいよね」


 唯が明日奈を席に座らせて、自分の椅子に座りながら回転しつつ答える。

評価の低い学校で、簡単に入学が出来る。そのせいで不良たちの溜まり場にもなってしまった。


 元々は生徒会の数名も、元々は不良の集まりだったが、女子が初めて入ったのを気に明日也が過ごしやすくしようと一念発起をしたのだった。

ちなみに総長というのは生徒会は大きな組織で、学校とは関係なく名だけの組織のため、会長とは呼ばれない。


「後、少しだなぁ」


 八朔が時計を見ながら興奮していた。時計は八時前で続々と生徒たちが集まってくる。


 最初の頃は全く人が集まらず、言うことを聞くような人はいなかった。ただ今も言うことを聞いている人は少ないが。


「集会委員が準備してるんでしょ」


「そうだな。今日は映像会らしいぜ」


「げっ」


 唯の言葉に神内と宇城が反応したが、八朔は真剣に書類と向き合っている。

八朔の真剣な顔はちゃんと男の子の顔だと明日奈は思っていた。


「映像会って……なに?」


 何のことか分からないため、周りを見渡して会話からききだそうとしたが、これ以上は聞くことは出来なかった。


「生徒会、お願いしまーす」


「ああ」


 集会委員の少年が来たため話は終わり、みんなが立つために明日奈も立ち上がって何をしたら良いのか分からず様子見。

(こんなことなら、誰か一人でも味方が欲しいよ)


 不安を感じながらも生徒会の人たちに着いていく。校舎自体初めて入るため中がどうなってるのか分からない。




 体育館は広くたくさんのパイプイスが並べられていた。ちらほらと人が集まっているが唯たちに連れられてステージの横の小部屋に向かう。


「俺は残ってる人たちを集めてくるから」


「よろしくー」


 神内はそのまま体育館を出ていく。いつものことなのか、残りの人たちは反応はしなかった。


「よぉし、機器の準備をっと」


「……」


 八朔と唯が少し古めかしい機械の準備をしている。どうしたら良いのか分からない明日奈は二人が働く姿を見ている。

一番不良っぽい宇城は壇上から見下ろしていた。


「あ、アスは休んでて」


「いや、手伝う」


「ありがとう!」


 何をしたら良いのか分からないが、積み重なった雑誌などを片付けることにした。


「今日は楽しい映像会〜」


「ご機嫌だね、八朔」


「だって、今日はボクの大好きな人が出るんだからなぁ」


「……出る?」


「そうそう。大好きな役者が出るんだぞぉ」


「へぇ」


(役者っていうと、ドラマか映画かな)

 明日奈は二人の会話に参加していた。どうやら会話は違和感がないようで正体がバレることはないようだ。


「そろそろだぞ、神内が戻ってきた」


 宇城が近付いてきて、三段しかない階段をポケットに手を入れて降りてくる。カッコ付けだと思ったが言葉にはしなかった。


「準備は出来たか?」


「それよりなんで、あたしたちなの? 集会委員に任せれば良いじゃない」


「でも好きな映画とか選べられるぜぃ?」


「第一、なんで映画なの。ドキュメンタリーとか、教育関連の方が学力アップに役立つじゃない」


「誰が見たがるんだよぉ?」


「……正論、だ」


 明日奈は八朔の言葉に納得した。こんなものを見たがることはないだろう。

唯もまた何も言えずに黙ってしまった。


「どう、準備は終わったか?」


「うん、オッケーだぜぃ」


「じゃあ、開始しよう」


 スイッチを押すと体育館は暗くなり、スクリーンが下りてきて映像が流れる。


「見たことない映画。結構、古いよね」


「そう。昔のクソ青い友情ストーリーで、この役者」


「あれ、有名な人だよね」


「そうそう。ここの卒業生だぜぃ」


 役者は知らないが、何回かテレビで見たことがあるのを思い出した。若い女性に人気のある30代の男性。


「はぁ、カッコ良すぎ」


「最近、八朔の私欲で選んでるよね。前アスも引いてたよね」


「おい、なんかあそこ見ろ」


「……またかよ。まあ大人しく見てられるとは思ったけど」


 扉から覗けば先頭にいるガラの悪い男が他の人のイスの背凭れに足を乗せている。乗せられてる人は怯えながらイスの前の方に座っていて大変そうだった。


「アス」


「……?」


「ほら仕事だぜ。行ってこい」


(え……仕事だって、何が? 何のこと)

 神内の言葉は顔をひきつらせるには十分だった。どうしたら良いのか分からず困っていた。


「いつもこんなことするの大変だけど、アスが決めたことだしね」


「……決めた」


「そう。総長は学内の汚れを掃除するて言ってたし。ああいうの見てられないよね。他の人じゃ間違いなく、もめ事が大きくなるし」


(それは明日也からも聞いた)

 病室で色々と聞いていたが、名前やその他諸々は間違いなく忘れている。そして、今も彼女たちの名前は覚えていない。


「……俺はちょっと」


「あ? おめぇの仕事だろうが、なに気弱になってんだよ」


「だよな」


(拒否権なかったのは、前にもあったな。分かってたよ)

 何もかも明日也に成りきるしかないと言われたため、一人称から何から変えた。


 本当は怖くて仕方がないが、実兄の方が怖いんだと自分で言い聞かせて小部屋を出た。

真っ暗でスクリーンの方だけが明るくて、自分を見てる人はいない。



 いつもの兄のようにするんだと心に刻み込み、その男に近寄る。周りがざわつくところを見ると、兄の偉大さが良く分かってしまう。


 気付かれないように深呼吸をしてから男の前に立ち塞がった。怖がって大人しくなってくれればと安易に考えていた……が。


「んだよ、見てんじゃねぇよ」


 そう簡単に終わらないらしく、分かりやすく絡んできた。

ケンカっ早いところはあっても一応手を出さないという話を聞いてるため冷静に対処をするべきだと考えに至った。


「足、退けろ」


 兄らしい言葉を使うとなると、役者のように自分を偽らないといけなくなる。

双子だし似たような感じになるのは分かるが、流石に声はアルトとテノールでは違いがある。

それでも双子だということを知らない彼らからすると、単に風邪だと勘違いされる。


「あ゛?」


 ドキドキと周りに聞こえるんじゃないかと思えるほど大きい音。こんな乱暴な言葉遣いはしたことがないため、ボロが出ないか不安だった。


「二度も、言わせんな」


 たった数秒のことなのに、もうスローモーションで何分も掛かってるようだった。

周りのざわつきが大きくなり、水の波紋のように距離をあけていく。


「おまえ、ずっと調子に乗ってるよな。ぶっ潰すぞ」


 イスを乱暴に蹴り上げて立ち上がった。これは間違いなく時間が足りない。先に行動をしないと間違いなく……危険。


「座れ」


「触る……ぐっ!?」


 触るな、と言いかけたが男の腕の関節近くを掴みギュッと親指に力を入れると、自分よりも背の高い男が膝を付いて崩れていた。


「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 体躯の大きい男が、小柄の者に良いように遊ばれ床に這いつくばり、もがき苦しんでいる姿は異常だった。


「……ふふふふ、なんて、言った?」


「はな……せぇぇぇぇ!」


 口元が上がりっぱなしで、吹っ切れたように声を抑えて笑っていた。あまりの痛さに、離すことを望むばかりだった。




「さ、サドだ」


「やっぱり総長こえーよ」


「あの笑み、良い!」


「マゾホイホイ、だな」


 周りの言葉は明日奈の耳には入っていない。そして、明日也の不安が的中していたことを彼女は知らない。

柊 明日奈は小さい頃から、人が悶絶するツボを良く知っていて、たくさんの大人が被害にあっていた。

ただ、それならまだマシだが彼女の酷さはそこではなく、ツボを押していると覚醒してるのか、サディストに変わる。


 普段はノーマルで、どちらでもないのにツボに関わると笑みが意地悪に変わる。スイッチが入った。


「ほら、さっき何て言ったんだ」


「やめっ」


「答えろよ。なんて言ったんだ」


 言えるはずがないほどに痛いのに、なんと酷いことを言う。ただ、明日奈は満足する言葉を聞くまでは許すつもりがない。


「アス、注目浴びてるから」


「……邪魔すんな」


「映像会なんだから止めて、な?」


 神内が近付いてきて止めに入ったとしても、ツボを押したままで一蹴するだけだった。


「アースー」


「ちっ、大人しく見てろよ」


 神内が肩を掴み離そうとするため、仕方がないという表情をすると見下すように男を見た。

男は何度も首を縦に振って怯えていた。

舌打ちをするほど性格が変わった明日奈は、手を離した瞬間、顔を変えいつもの表情になる。


 そして、また小部屋に戻ると無事だったことに安堵の息を吐いた。無事で良かったと一安心をしたのだった。


「お疲れ」


「ほんと、鬱陶しいよねぇ、あの野郎」


「全く。アスにケンカで負けたくらいで根に持ってさ。ダサいよ」


「俺だって、まだ決着つけてねぇよ」


 唯と八朔がにこやかに対応する中、宇城が腕を組みながらイライラしていた。

生徒会を発足する時は、暴力で言うことを聞かせていたが、今は反抗する生徒の数が少ないため明日也も大人しくなった。




「それにしても、アス新しいやり方見つけたんだねぇ。これで鬱陶しいの一網打尽だねぇ」


「それは暴力じゃないのか? 問題はないのか?」


「良いんじゃない? 怪我をした人はいないし」


「アスには甘いぜ? 唯」


「気のせいよ」


 八朔も神内も唯も明日奈の行動に驚きつつ、規則に違反してるんじゃないかと思った神内は厳しめだったが、唯は優しかった。


「じゃあ、あそこはあれ以外で片付いたと思うの? 彼の一派が吹っ掛けてくる可能性だってあった」


「それは、どっちにしてもだ。あの場でも手出しはしてくるだろ」


「してこなかったよ? あんなにアッサリやられて、驚いたままだったし」


「まあ、そうだな。リーダー動けなければ手出しは出来ないだろうしな」


「……どうしたら、まともになるんだか」


「なんか、あれだ」


 神内は明日奈の愁い帯びた表情をしてるのを見て、ハッと何かに気付き、明日奈の耳元に口を寄せた。


「今日は、ずいぶんと色っぽいんだな」


「……変態か?」


「さあ、どうだろう」


 茶化したのかはぐらかしたのか、華麗に避けられたような言葉。明日奈の言葉を聞いていた唯は座っていたパイプイスをわざと音を鳴らした。


「パイプイスってどうして、オナラみたいなのぉ?」


「……!!」


「ずいぶんと直球な言葉。流石のあたしも動揺しちゃったよ」


「ははっ、確かに聞こえるな」


 八朔の爆弾発言に明日奈が言葉を失ったように驚き、唯は呆れて神内は笑って同意した。


「ってか黙って見ろよ」


 一番まともそうではない宇城がツッコミをしていて、みんなが照れたように無言でスクリーンを見ることにした。

盛り上がりは最高潮となり、そろそろエンディングのようだった。


「ずいぶん短いな」


「短編映画なの。高校の時に撮影してたみてぇだなぁ」


「じゃあ、素人の集まりで作ったのか」


「そうそう。正解だぁアス」


「……みてぇだなぁ、か」


 八朔の言葉の悪さに驚きを通り越し、カッコイイとさえ思ってしまっていた。


「高校の時から、役者目指してたんだな」


「夢があるって良いなぁ。あたし、未だにケーキ屋で働くだよ」


「数学関連は?」


「だって役立つようなものじゃないじゃん」


「商業になれば役立つだろ。銀行とかレジとか」


「あ、そっか。銀行っていう職業もあるね」


 全くの才能がないよりも役立つじゃないかと明日奈は羨ましく思えた。

自分もまた算盤を習っておけば良かったと後悔した。道が少しでも広がるのだから資格を手にしたかった。


「八朔の夢は?」


「女優に決まってるだろぉー?」


「じょっ」


「アス、なんかケンカ売ってる? 買えないから売らないでよぉ」


「カワイイから、テレビ映りは良さそうだ」


「まあっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。有名になったら、結婚してあげるぅ」


「なに言ってるの! 同性結婚は国内じゃ認められてないよ」


「国外なら良いじゃん」


「そういう問題でもないよ。アスの意思を無視しないでよ」


 何故か八朔と唯がケンカをし出した。元はといえ、明日奈の言葉が原因でもあるため止めることにした。


「二人とも、黙れ。もう終わる」


「ごめん」


「うぅ、ボク悪くないのにー」


「俺が悪かったから」


「……え」


「ちょっと、アス。謝らないでよ。煩くしたあたしたちが悪いんだから」


「つーか、簡単に謝んな! てめぇはそんなヘタレじゃねぇだろ!」


「そうだよ、アスに負けた人たちが惨めになるからな」


 黙っていた宇城や神内まで反応していた。火に油を注いだような状態になってしまった。

簡単に謝ると、酷いことになるんだと錯覚した。


「悪い時に謝らないなんて、単なるクズだろ。そういう奴にはなりたくねぇし」


 明日也だって一本気なところがあるし、間違いを間違いだと認められる強さもある。


「間違いを認めることのどこが弱いんだ?」


「……それは」


「反論出来ない時点で、俺らの負けだよ。完膚なきまでに叩きつけられたんだからな」


「アスはやっぱりカッコイイよ」


「唯はベタ惚れだねぇ、ライバルだ」


「な、何を言ってるの」


 お手上げの男子二人に、顔を赤くして反論する唯に、からかうように弄る八朔。

何だかんだ仲が良いんだと見てて思う中、みんなを見てた延長線上にあるスクリーンに終わりと書かれていた。




「おーわりっ」


「今日は午前授業だから楽だね」


「そうだな。ってか、もっと早くなりそうだけどな」


「?」


「聞いてなかったのかよおめぇ。隣の学校の奴らが問題を起こしたらしいじゃねぇか」


「ここは特に酷いが、昔ほどじゃないし、けど今は隣の方が噂が酷いみたいだな」


「話には聞いてるが」


「落ち着くまで早退になりそうだな」


「ここで何もしてないんだから問題ないだろ」


 早く帰れるのは嬉しいが、隣の学校も問題があるんだと思うと心が重たくなるだけだった。


「まあ、あっちにも厳しいのがいるみたいだし問題はないだろうな」


「じゃあ、大丈夫か。時間の問題なんだろう」


「そう。まあ、流石に全く勉強しないってのはないだろうから、一時間くらいはするだろ」


「……映像会、いるか?」


「いらないよな」


 神内と宇城は同時に話したが、その発案者である八朔を見ると拗ねてるのか頬を膨らませていた。


「いるもん。道徳だっているじゃん」


「……いらないとは思わないが、映像会とは違うんじゃないか」


「うぐっ」


「だよな、やっぱりいらないよな」


「いるよぉ!」


 神内が同意をするため、たくさんのヤリが心臓に突き刺さるような痛みを感じた。それでもまた、必要性を訴える。


「眼福が必要っしょぉ!」


「論点が、ちげぇだろうが!!」


「わぁん! アス助けてぇー、この怖い顔が怒るよー」


「怖い顔って俺のことか!?」


「他に誰がいるのぉ?」


 この二人は天敵なんだろうか。仲が良いところを見たことはない。

八朔と宇城のケンカは、八朔のぐるぐると回した手で必死に宇城を叩こうとしてるが全く届いていない。

宇城は八朔を子どものように扱い、頭を押さえている。


 少し昔の古典的ギャグを見ることになるとは思わなかった。


「とにかく、一日が無事に済んで良かった」


 その日一日、特に目立ったことがなく普通に過ごせた。というよりも、明日奈はずっと生徒会室にいたため何もされなかっただけのこと。


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