104「謎は全て」
明日はダンシングマンの実家に挨拶に行きます。
ちょうどお客様も少なくて時間が取れそうだという話。
それで、ダンシングマンは実家に行く前に、と午前様になった話と一緒にいた女性の話をしてくれました。
ダンシングマンが一緒にいたのは、ダンス教室の元レッスン生で、ダンシングマンにご執心の人だそうです。
普通に雑談していても腕を組んできたり抱きついてきたりするので、そういうのは止めて欲しい、という話し合いをするために教室を出て外の喫茶店で何回か話したそうで。
しかし何度話しても止めてくれないので、雇い主さんにお願いして、その女性(ダンシングマン曰く「あのお嬢様」)に教室を辞めてもらい、出入り禁止にしてもらったそうです。
お嬢様って人種は悪意はあんまりないけど、常識とか配慮とかもないからなあ。こっちの予想を遥かに越えるよね。
普通は好きな人に嫌がられたら止めると思うんだけど。
で、会えなくなって寂しかったのか、お嬢様はダンス教室から出て来るダンシングマンを待ち伏せし、拉致&連れ去りをしてしまったそうな。
何かどっかでつい昨日あたり聞いたような話だぞ?
そのお嬢様、うちの母じゃあるまいな。
で、ダンシングマンは拉致されつつも宥めたりすかしたり、数時間に渡り交渉。
ようやく帰宅出来たのが午前3時。
……ごめん、そんな大変な思いしていたとは想像もしなかった。
ダンスインストラクターっていうのは命懸けの仕事なのだな。
で、ダンシングマンはそのお嬢様の外見の特徴を上げて、こんな人が近くに来たら要注意、と教えてくれたのだけど、その外見があまりにも例の新人さんに似ていたので、思わず名前を出したら正解でした。
世間狭い、と思ったんだけど、もしかしたらダンシングマンから辿って私のところまで来たのかも。
やたら攻撃されたもんな。
あの新人さんはT先生がやっつけてくれたからもう大丈夫だよ?
でもダンシングマンは安心出来ないらしい。
モテる男の悲劇ですな。
早いとこ入籍して自分に『既婚者です。ご遠慮ください』のラベリングしたいらしいです。
ああ、だから『助けてください』だったのか、と納得。
でも、そんなことする奴にラベルは無意味じゃないか? と思ったけど黙っておいた。
ただでさえ、ダンシングマンは「くそぅ、俺カッコ悪い。めちゃくちゃカッコ悪い」と頭を抱えて苦悩しているし。
これ以上、いじめたら可哀想だ。
「あ、最近変なオッサン見なかった? 金持ちそうな」
とダンシングマンが急に言うけども、思い当たるのは自称・輸入代理業の反社会的勢力の疑いのあるオッサンぐらいだな。
身形は良かった。
「ハルの身辺調査頼んだのバカ兄だったんだけど、調査報告の後、急に連絡取れなくなったんだって。何か運命の相手を迎えに行くから、とか言って、報酬も受け取らずに」
ああ……。
何か最近、聞いたな、そんな言葉。
警察さんにやたら被害届出すように勧められて、私は後から付きまといで被害届出して、社長は営業妨害で訴えてたはず。
会社の弁護士先生にまとめてお願いしてるから詳しくは分からないけど。
うん、あれか。納得した。
「何もされてない? 大丈夫?」
うむ、大丈夫。奴は前科持ちになることがほぼ確定だ。
社会人にとって困った状況に追い込まれていることは確かだ。
「バカ兄の知り合いの社長の次男坊でさ。あんな奴がいるから社長の次男の評価が下がるんだよ」
……そうか。ダンシングマン、一応、社長(旅館が株式会社だから)の御曹司で次男坊だったね……
自由人に見えて、割と苦労してるなあ。
「これからはハルと一緒だから」
うむ、そうだな。
「ハルが幸せにしてくれるから大丈夫」
……うむ、そうだな。異存はないが若干期待を裏切られたような気がするのは何故だろうね。
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