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「んっ・・・。」
小さなうめき声に、ちょっとした転寝のつもりだったのにガッツリ数時間眠ってしまっていたことに気が付く。
どうやら異世界の女の子は目を覚ましたようで、現状把握できずにキョトンとしている。そして、やっと部屋にいるトルエの存在に気づいたようで慌てはじめる。
「えっと、あの、ここはどこですか?っていうか、私って事故にあいましたよね?病院じゃないようだし・・・。あの!あなたは誰ですか?」
「まず、落ち着いてね。まず、俺の名前はトルエ。んで、信じられないかもしれないけど、ここは所謂異世界ってところ。アルドっていう世界なんだけどね。俺の不手際で、遊びで作ったゲートに君が落ちちゃったみたい。無責任って言われそうだけど、適当に作ったゲートだからどこの世界と接続してたかわかんないせいで、元の世界に返してあげる方法もわからない。」
とりあえず自分の言いたいことは言ったと満足するトルエと、それを半分も理解できずに固まる亜紀。
「私は死んだのですか?」
わけもわからないまま一番自分が知りたいことを取りあえず口にしてみる。
「それは君自身が一番分かってるんじゃない?それだけ意識もしっかりしてて、逆に死んでるとでも思う?」
そう言われてみればそうかと納得する亜紀。
「まあ、流石に無理だとは思うけど自分が今まで過ごしてた世界の名前はわかんないよね?アルドの人間以外は結構世界の名前に無頓着だって言うし。」
「世界の名前、ですか?私が暮らしていたのは地球という場所ですが。」
「チキュー?それは多分、コミュニティの一つの名称でしょ?世界の中の一部の場所じゃあな。何かしらのヒントにはなるけど場所を特定することまではできないんだよな。」
キューキュー
外で、相棒の真紅の鳥、グレンの鳴き声が聞こえて焦るトルエ。
「やばっ!もうすぐクソじじぃが帰ってくる。あんたの存在がばれたらいろいろ面倒なんだよな。仕方ない、あんた名前は?」
「亜紀です。」
「じゃあ亜紀、これから少し窮屈だけどここにはいっててくれ。」
そう言って部屋の隅の本棚を回転させると、小さな扉があった。
「奥には小さいがベッドと多少の本がある。ジジイの相手が終わったら俺がそっちに行くからそれまで大人しくしててくれ。そっちにあるものは自由に使ってくれて構わないが、大きな音は流石に漏れるから気を付けてくれ。」
それだけ言うと、トルエは亜紀をドアの向こうに押し込んだ。
扉の奥には清潔感のある、こじんまりした温かい雰囲気の部屋があった。
トルエの言葉通り、小さめのベットが一つと本棚、小さな机と椅子、ランプ、座り心地のよさそうなソファーとクッション。それだけで部屋はいっぱいいっぱいだけど何故か窮屈な感じはしなくてとてもいい部屋だと思った。
取りあえず暇だったため、適当な本を何冊か取り出してソファーに座って読み始めようとする。
「これ、何語?」
(本に書かれているのは見たこともない文字。ギリシャ文字?象形文字?くさび形、ではないか。)
思い当たる文字をいくつか挙げてみるが、多分どれも違う。
他の本はどうかとパラパラめくってみると、別の本は全く違う言語で書かれている。そもそも1つの言語を知らないんだから全くの別物と判断することができるはずはないのだが、なんとなく違うものな気がするのだ。
いろんな本を片っ端から眺めていると、背後からガチャリと音がする。
「って亜紀、何してんだ?」
本棚の本を片っ端から漁る亜紀に不信感を持つのは無理もない。
「えっと、字が、読めなくて。読める本がないかと探していました。」
「は?お前字が、って読めないのは当たり前か。世界が違えば言語も文字も違って当たり前だよな。でも、何で俺が言ってることはわかるんだ?」
ゲート使いのトルエはあらゆる世界の言語を習得している。それは訓練でもなんでもなく、ゲート使いとはそういうものなのだ。ただし、あらゆる言語が話せるかどうか、読み書きができるかどうか、というのは本人の努力次第だ。一応トルエは優秀で、既に数10種類の言語を不自由なく使いこなすが、今トルエが話しているのはアルドで最も頻繁に使われる言語だ。異世界の亜紀がアルドの言語を理解するはずがないし、普通に考えれば会話が成立しているのもおかしい。
「え、あれっ?そう言えば、トルエさんが話してるのって日本語じゃない・・・?」
「俺が話してるのはドリー語。アルドの共通語。まあ、地方には話せないやつもいるがな。」
「でも私、トルエさんが何を話してるかわかりますよ?何故ですか?」
「んなもん俺が知りたいよ。で、『さん』ってなんだよ。名前の後に変なものくっつけんな。あと、妙にかしこまった言葉も使わなくていい。」
「あ、うん。でも、私これからどうすればいいの?」
「取りあえず、俺はお前の世界を探す。戻りたいだろ?まあ、時間はかかるかもしれねえが。ちょっとしたことでもヒントになるから亜紀は今までのことをできる限り俺に教えろ。で、代わりと言っちゃなんだが、俺はこの世界のことや、他の世界の事、いろんな言葉を教えてやるよ。」
「あ、ありがと!」




