番外編15-4
正論に頷くしかない。
肩を落とし、トボトボと教室から出ていく。
そんなふたりを見送ってから、タカコは残されたヌイグルミを摘みあげた。
「元通りは無理だけど。ちょっと頑張ってみるかな」
鞄から愛用のソーイングセットを取り出した。
* * *
校庭の隅っこで、キリシマは大きな溜息をこぼした。
グラウンドでは一応存在する運動部が練習を始めている。
ソフトボール部とハンドボール部だ。
「古いもんだしね。しょうがないよ」
数分前、チトセとドルフィーナに向けた言葉を繰り返す。
今度は自分に。
悪ふざけで破けてしまった事を告げ、ふたりはひたすら頭を下げた。
チトセに至っては泣いていた。
キリシマはあっさり謝罪を受け入れ、軽い拳骨でふたりの頭を撫でてチャラ。
それでいいと思った。
サービス業を営むキリシマの家では、家族で過ごせる時間は限られる。
あのヌイグルミは幼年部の頃、甘えん坊だったキリシマをなだめる為に、母親が作ってくれた物だ。
子供の時代を鑑みると、十二分に役目を果たしてきたと言えるだろう。
中等部の今、母親恋しいという年頃でもない。
「ま、このタイミングなんだろうね」
よしっと踏ん切りをつけて、踵を返したところで。
「うわっ」
無様な声を上げてしまった。
すぐ後ろにクラスメイトが立っていたからだ。
「タカコか、びっくりさせないでよ」
「何度か声を掛けたんだけど」
「あ、ごめん。気付かなかったよ」
「頼むから気付いて。お願いだから」
君は存在が薄くて地味だね。と言われている気分になる。
「悪い悪い。で、何か用?」
「うん。これを届けに来たの」
そう言って差し出された物を目にして、キリシマが息を飲む。
件のヌイグルミだった。
汚れて痛みきった表面。経年劣化で本来のボリュームを失った胴体。弱々しく揺れる四肢。
間違いない。
「でも、さっき千切れたって」
「耳と首がね。だから、元通りにはならなくて」
片方の耳にはリボン型の布があてられ、首元はスカーフを巻いたみたいになっている。
「こんな状態で良かったら。なんだけど」
「ありがと!」
思わず跳ね上がった声に気付いて、咳払い。
少しクールさを装う。
「いや、その、悪かったね。古い物に手間を掛けさせてさ」
「大事な物なんでしょ」




