番外編15-3
「あいたた。無茶をするでない。我の下敷きになったら洒落にならんのだぞ。まあ、ちょっと冗談が過ぎたのは謝るが」
ドルフィーナが、よっこらしょっと身を起こす。
「どうした? どこかぶつけたか?」
座り込んで肩を震わせているチトセに気付き、慌てて顔を覗き込んだ。
「ヌイグルミが……ヌイグルミが……」
呆然と繰り返すチトセが握っている物を目にして、ドルフィーナの顔が強張る。
可愛いウサギは片方の耳が千切れ、丸っこい頭部も取れかけていた。
* * *
急いで教室まで戻ったふたり。
机の上にそっと置いてみたが、千切れたヌイグルミが直るはずもない。
「まずいことになってしまった」
「全部、ドルフィーナさんのせいじゃないですか!」
不毛な論議を尽くした後、ようやく現実と向かい合う。
「なんとか縫って戻せないですか?」
「我は裁縫が苦手なのだ」
「私だって、上手ってほどじゃないですよ。ソネザキさんはどうですか? ソネザキさんなら」
「あいつも万能超人ではない。裁縫は下手だ。この前、シャツのボタンを付けるのに苦労していた」
「このクラスで裁縫が得意の人って」
「無理だよ、これ」
遠慮がちな声が、直ぐ近くから。
チトセの隣にひとり。
肩より少し長めという、特徴の薄い髪型。
整っている分、逆に個性を感じさせない顔の少女。
ジミー・ザ・カルテットのリーダー、タカコだった。
「い、いつからそこに?」
目を丸くするチトセ。ドルフィーナも驚きを露わにしていた。
「ずっといたんだけど。ほら、キリシマがヌイグルミを探してるって聞いたから。教室に落ちてるかなって思って」
「全然気付かなかったぞ」
「気付いてよ。頼むから」
ドルフィーナの言葉に、タカコはもうがっかりしかない。
「でも、こんな状態になってるなんて」
「全部、私達のせいなんです」
「いや、チトセは悪くない。我のせいだ」
「大体分かるよ。ドルフィーナが意地悪やったんでしょ」
なかなかに鋭い。
「でも、これはもう直せないよ。ほら、耳の付根のとこ見てよ。布が千切れちゃってるでしょ。首のとこも破れてるし。別の布をあてて縫い付けないと無理だから」
「そう、ですか」
「とりあえずさ、キリシマに謝っておいでよ。まだ探してるだろうし。ちゃんと話して、許してもらう他ないし。ね」




