番外編15-2
「ヌイグルミって、あれか。ウサギのやつ」
委員長らしくがモットーな飾り気の薄いキリシマが、唯一可愛さをアピールしていたアイテム。
ソネザキも見知っている。
「チトセにも見かけたら拾っておいてって頼んであるんだけど。まあ無くなったら、無くなったで仕方ないとも思ってるんだ」
「そっか。私もちょっと探してみるよ」
「ありがと。でも見かけたらでいいよ。寮で落としたかもだし。じゃあ、もうちょい探してみるから」
廊下の床を見ながら、キリシマが離れていく。
「よし、私も校舎を回ってみるか。探し物は得意じゃないけど」
* * *
「ふはははは! お前が探しているのは、このヌイグルミか!」
ドルフィーナの高笑いが、人気のない廊下に響く。
補習を終えて教室に戻る途中で、隅っこに落ちていたのに気づいたのだ。
「か、返してください。それはキリシマさんが、大切にしている物なんです」
チトセが懸命に訴える。
「ふふふ。返せと言われて返す馬鹿がおるか。欲しければ己が手で取り返してみよ」
三流悪党を地でいく台詞。
無理もない。チトセの困った顔は、この機械人形の大好物なのだ。
「ドルフィーナさん、冗談は止めてください」
「そんな可愛い顔をしてもダメだぞぉ。ほれほれぇ、取れる物なら取ってみろぉ」
左の耳をつまんで、ぷらぷらと揺らす。
「ドルフィーナさん! 止めてください!」
チトセの声に苛立ちが滲んできた。
もし、ここにソネザキがいれば、「いつまでも、バカやってんじゃないよ」と終わらせただろう。
だが、不幸にもソネザキの姿はない。
「ほらほらぁ、要らないのかぁ?」
ぷらぷらぷらぷら。
鼻先で揺れるヌイグルミに、チトセの我慢も限界に近付く。
素早く手を伸ばして、引っ手繰ろうとしたが。
「おっとっと」
動体視力に優れるオートマトンは寸前でかわした。
「ドルフィーナさん! 返してください!」
半ば怒鳴りながら、何度も奪還を試みる。しかし。
「ふふふ。まだまだ、だ。今のは惜しかったなぁ。おっと、そんなフェイントに引っ掛かりはせんぞぉ」
やはりドルフィーナの方が一枚上手だ。
「もう! いい加減にしてください!」
人よりは随分と長く、とにかく丈夫なチトセの堪忍袋の緒が、とうとう切れた。
ドルフィーナの手首に飛びつくと、無理やりヌイグルミに掴みかかる。
思いもよらない行動に、ドルフィーナは焦ってバランスを崩した。
結果、ふたり揃って無様に転ぶ羽目になる。




