番外編15-1
【一一月一五日】
耳は片方が無惨に千切れ、首も取れる寸前。
ほんのちょっぴりで繋がっているだけ。
「まずいことになってしまった」
「全部、ドルフィーナさんのせいじゃないですか!」
感情的に声を荒げたのはチトセだった。
今にも泣き出しそうな顔だ。
「落ち着け。とにかく、こうなってしまったのは仕方ないであろ。どうにか修繕できないものか」
「無理です! 不可能です! あんなに止めてって言ったのに」
「悪かった。全ては我の責任だ。お前はまったく悪くない。何も気にする必要はない」
ドルフィーナの言葉に、少し冷静さを取り戻したチトセは力なく首を振った。
「誰のせいでもいいんです。元通りになってさえくれたら」
放課後、誰もいなくなった教室。
隅っこの机に置かれているのは、全長八センチのウサギのヌイグルミ。
片方の耳が取れ、頭部も数本の糸でどうにか胴体と繋がっている状態だ。
「大事な物なんだろうな」
「ずっと鞄につけています。時々ですが、丁寧に手洗いしています」
長い年月使われて白いはずの表面は汚れて、ねずみ色掛かっている。
「まいったな」
「どうしましょう」
* * *
小一時間ほど前になる。
帰宅準備を済ませたソネザキは、教室を出た。
買い物当番のアンズとコトミと別れて帰路につく。
ドルフィーナはミユから補習の呼び出しがあった。
「ったく、手を抜き過ぎなんだよな」
座学の結果はチームの生活に直結する。
どうにも不満をこぼしてしまう。
「しょうがないな。夕食後に見てやるか」
なんのかんのと、根は善人なのだ。
「キリシマ、なにしてんの?」
廊下の隅をうろうろしているオデコちゃんに気がついた。
自分より少し前に教室を出たはずだ。
「ん、あぁ、ソネザキか。まあ、ちょっとね」
「探し物? 手伝うよ」
「相変わらずお人好しだなぁ」
「別に、そういう訳じゃないけどさ」
「気を悪くさせた? ごめん」
不快さを滲ませたソネザキに苦笑する。
「最近さ、アンズによく言われるんだよね。私ってかなりお人好しだって」
「実際、かなりお人好しな部類だね。転校してきてしばらくは、近付きにくい感じだったけど」
「そりゃ、緊張してるからだよ。で、何探してるの?」
「鞄に付けてたヌイグルミの紐が切れててね。どっかに落としたみたいなんだよ。古いもんだからさ」




