番外編14-8
* * *
「あの、ソネザキさん。今日はありがとうございました」
寮の入り口で、チトセは深々と頭を下げた。
「そんなの止めてよ。今日は私も楽しかったし」
楽しかったという感想に、チトセは耳まで赤くなって俯いてしまう。
「あ、安心してよ。変な意味じゃないからさ。ま、なんにせよ、チトセの役に立てたなら嬉しいよ」
「はい。ありがとうございます。これで良い作品になります」
「作品って?」
「いえ、その、なんというか」
「無理に言わなくてもいいよ。別に詮索する気はないし」
笑顔で告げると、繋いでいた手を離した。
触れていた体温が消え、チトセはなんとなく寂しさを覚える。
しかし、そんな気分を押し込んで笑みを作る。
「本当にありがとうございました。その、もし良かったら、あの……」
言葉が揺れる。
変な趣味のある子だと誤解されたらどうしよう。そんな不安が躊躇わせる。
結局、消え入りそうに。
「また、いつか」
と付け足すので精一杯だった。
「うん。また遊びにいこうよ」
ソネザキが陰りのない様子で答える。
チトセの言葉は、想いは、辛うじて届いたらしい。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、また明日」
最後に手を振って別れた。
チトセは一階の自分達の部屋に、ソネザキは階段に向かう。
* * *
音程の外れた鼻歌を口ずさみながら、ソネザキは部屋に到着。
ドアを開けようとしたところで。
「お帰り、ソネザキ。待ってたわよ」
後ろからの声に振り返る。
「モガミ先輩、どうしたんです? コトミに用ですか?」
「ううん。今日は他三名に用があってね」
大雑把な扱いにソネザキは苦笑しつつ。
「私達にって珍しいですね」
「ん。まあね。面倒だけど、手遅れにならないようにしないといけないから」
要領を得ない説明に、ソネザキは怪訝な顔になる。
「で、用事って?」
「ショック療法ってのが、意外と効果的だと思うのよ」
指をパキパキと鳴らしながら、モガミは極上の笑みを作った。
加虐性が存分に含まれた表情に、ソネザキの足が下がる。
背中がドアにあたった。
「大丈夫よ。直ぐに済むから」
<Fin>




