番外編14-7
誰にでも好意的に接し、頼まれれば嫌な顔一つせず力になれる。
さりげなく周囲に気を配る優しい少女。
それでいて非常時には、しっかりとリーダーシップを発揮できる。
逆境に諦めない強い精神を持ち、強敵を前にも怯まず、常に最善の手を尽くせる優秀な指揮官。
自分の欲しい物を集めれば、こんな人間になるのだろう。
チトセはそう思ってしまう。
解ってはいる。世の中に完璧な人間はいない。
ソネザキにも多くの欠点があるだろう。
それでもチトセはソネザキのようになりたいと願ってしまうのだ。
少なくとも安っぽいホラー映画で泣きべそをかくような、情けない人間ではいたくない。
しがみついている腕を、少し抱き寄せる。不思議と勇気が湧いてきた。意を決してスクリーンに視線を戻す。
一方のソネザキは完全に振り切った状態。目を開けてはいるが、意識は途絶え、放心しているだけだった。
* * *
「もう! 不愉快千万ですわ!」
ぷりぷりと不満をもらしながら歩くアンズに、ドルフィーナは今日何度目かになる重い溜息をついた。
二人は寮に向かっていた。
休日の夕方、私服でのんびり歩く学生達に比べると、歩速はかなり早い。
「腕を組んで出てくるなんて、どういうつもりですの。気持ち悪いたらありませんわ」
「あのな」
「やはり倫理的にも野放しにはできません。学区に圧力を掛けてでも、即刻退学処分に……」
「そんなことをするとソネザキが本気で怒るぞ。もちろん、コトミもだ。二度と口を利いてくれなくなるかもしれん」
珍しく声に怒気を含ませたドルフィーナに、アンズは続きを飲み込んだ。
無言で数歩進んでから、ぼそりと「冗談ですわ」と告げた。
「まったく、お前の嫉妬は病気レベルだな。コトミ以外にまで向くとは思わなかったが」
「変な仰り方しないでください。わたくしはコトミさん一筋なんです」
ぷっと頬を膨らせてアピールする。
「やれやれ。面倒な奴だな」
確かにコトミに向ける感情とは異なる。
強いて言えば、大好きな姉を取られる妹の気分なのだろう。
「まあ、とにかく急ぐぞ。ソネザキより先に寮に着かねばならんからな。一日つけ回していたのがバレると、非常に厄介なことになる」
「解っていますわ」
そうこういている間に、寮に到着。
階段を駆け上がって部屋に向かう。
「あら?」
自室の前に、見知った少女がひとり。
「モガミお姉さま。どうされたのです?」
「お帰り。二人とも」
「コトミさんになにか?」
「ううん。アンタ達に用があってね。ソネザキはまだなの?」
「はい。先に到着するように急いだんですの」
「そっか。まあ、その方がいいか。楽になるし」
「で、用事というのはなんでしょうか?」
「大した話じゃないんだけどね」
言いながら指をパキパキと鳴らす。
なんとなく漂い始めた剣呑な雰囲気に、アンズとドルフィーナが顔を見合わせる。
「コトミの生活を守るためよ。私も辛いんだから、アンタ達も我慢してよね」
「お、お姉さま、一体何を?」
「ショック療法ってやつよ。大丈夫、じっとしてれば直ぐ済むから」




