番外編14-6
「モガミお姉さま」
「何してんのよ。こんなところで」
言いながら周囲をキョロキョロ。
コトミの姿がないのを確認すると、ちっと舌打ちをひとつ。
「アンタ達だけなら、声掛けなきゃ良かった」
随分と素直なコメントだ。
「わたくし達は、ショッピングですわ。ね、ドルフィーナさん」
「ん。まあ、そんなところだな」
「ふうん。ま、何を隠してるかなんて、アンタ達から聞かなくてもいいし」
アンズ達を押し退け、その先を見やる。
「あの子、アンタんとこの無能な泣き虫ちゃんね。随分と気取ったカッコしちゃって。男でも連れ込んでるの? あんな顔してやることだけは、やってるわけね」
「お姉さま、実は……」
「待って。顔を上げたわ。相手が戻ってきたのね。え? マジ?」
嫌悪感を露骨に浮かべた。
そこにやってきたのが、見知った人間。
ソネザキだったからだ。
「あのふたり、まさか。ちょっと! 手繋いで出てったわよ!」
ぞぞっと肩を震わせる。
「女子校で変になっちゃう子もいるって聞くけど。まさか、ソネザキが」
そこではっと息を飲んだ。
「まずいわ。チームメイトが全員変態だなんて。このままじゃ、コトミに悪い影響が出ちゃうじゃない」
「だ、誰が変態ですの。誰が」
「そうだ。こやつはともかく我は違うぞ」
異議を唱える二人を微塵も意に介さず、「まずいわ。まずいわ」を繰り返しながら、外に向かっていく。
「ちょっと、お姉さま!」
呼びかけるアンズの声も届かなかったようだ。
「なんか変な方向に勘違いされたではないか」
「仕方ありませんわ。この次会ったら、きちんと説明しておきます」
「モガミ先輩の件はともかく、そろそろ映画の時間だな」
「そうですわね」
アンズが腕時計で時間を確認する。
「まさか、館内までついていくとか言わないであろな」
「もちろんですわ」
「それを聞いて安心したぞ。こんな悪趣味な真似は……」
「映画が終わるまで、外で待機しておきますわよ」
「まだ続けるのか」
* * *
ぶちゅっと水っぽい音を立てて鮮血が吹き出す。
視線が下りると、真っ赤に染まった体長五センチほどのワームが、次々と腹を食い破って床に落ちた。
「ひぃぃ!」
凄惨な光景にチトセは悲鳴を上げて、隣に座るソネザキの腕にしがみついた。
キリシマがチョイスした映画はスプラッタ系のパニックホラー。
人間の内臓を食う寄生ワームが、どんどん広がっていくという内容だった。
チトセが恐怖に潤んだ瞳で、すがるようににソネザキを見つめる。
ソネザキは実に平然としていた。
いつも以上に落ち着いた様子で、スクリーンを凝視している。
私なんかと全然違う。チトセは改めてそう感じた。




