番外編14-2
思いもよらぬ残酷な指摘に、チトセは目を見開いて固まった。
「違いますよ! そのイラストのクオリティが低いんじゃないんです!」
チトセの反応に青年が慌てて言葉を継ぎ足す。
「逆なんです! 他のイラストのクオリティが高すぎるんです。それでその一枚だけが浮いて見えるんです」
そう言われてチトセは戸惑った。
どれも手を抜かず仕上げたイラスト。ひとつだけ悪いというのが解らない。
「技術じゃないんですよ。他のイラスト、戦闘シーンとかクラスメイトとの日常パートの部分とかは、とても活き活きと見えるんです。ですが、その最後のデートのイラストは、どうにも造り物然としている。言葉が不適切かもですが、見るからに嘘っぽい」
ここで話を切って、一旦呼吸を整える。
「先生はデートの経験がありますか?」
「そ、そそんなの。もちろん、あります」
慣れない嘘に、やや声が上ずってしまう。
「先生は学区に入られて、友人も増えたんだと思います。訓練で身体を動かしてもおられるでしょう。その実経験が作品の下敷きになり、命を感じさせているんじゃないでしょうか」
デートの経験については触れられなかった。
嘘は看破されたのだろう。
「締め切りまで余裕があります。もう一度だけ描いてみてください。ダメなら今のでいきますので」
「はい。わかりました」
いくつか詳細を確認して通話を終えた。
チトセから、はあっと溜息がこぼれる。
ずしりと心が重い。
「デートの経験なんて。そんなの。女子校なのに。そもそも、そういうのは大人になってからじゃないと」
頭を抱えて、ぶつぶつと繰り返した。
* * *
右も左も前も後ろも。しっかりと動物のぬいぐるみで埋め尽くされた部屋。
周囲から睨まれているようで、妙に不安を煽られる。
シンプルな壁にべたべたと貼られたポスターも動物。
カレンダーも当然だ。
可愛い犬や猫なら解る。
アメリカシロヒトリやペリカン。アルバトロスと言った鳥類。
ヌーやインパラ等、テラの平原で暮らす動物達の物ばかり。
部屋の持ち主たる少女の趣味は、どうにも変な方向に歪んでいる気がする。
「デートねぇ。担当さんも無茶言うじゃないの」
部屋の主にして、ミユクラスの頼れるクラス委員、キリシマが苦笑した。
「ホントに無茶ばかりで」
相談に来たチトセも、相槌を打つしかない。
「でも、チトセ。デートの経験がないなんて、今時珍しいんじゃない?」
「じゃあ、キリシマさんはあるんですか?」
「ないよ。私、全然魅力ないしね。そもそもこのオデコだし」
キラリと輝くオデコは正義の印だ。
「ま、とりあえずデートでもしてみたら?」
「でも、ここは女子校ですし。そもそも学生でデートって早過ぎじゃないですか。そういうのは大人になってからじゃないと。倫理的に」
「相変わらずさ、面白いくらい真面目だね」
「ふ、普通ですよ」
「実際さ、デートって言っても偽物だよ。誰か適当な人に男役してもらって、遊びに行くみたいな」




