番外編13-3
* * *
双方正に満身創痍。
あちこちに弾丸を受けたロミオは血まみれ、一方のジュリエットも斧で深く切り込まれた腹部から絶望的な出血がある。
「ジュリエット、どうしてお前はジュリエットなのだぁ!」
「ロミオ様、どうして貴方はロミオなの!」
最期の力で斧を振り上げるロミオに、ジュリエットはリボルバーを向けた。
「死にさらせぇ!」
二人の絶叫と共に画面が暗転、肉を裂く音と銃声が重なる。そしてエンドロール。
* * *
「どうです?」
「どうですと言われても、答えに困る感じだな」
「ハグロらしいなって作品だね。かなり控え目だとは思うけどさ」
ハグロから完成した作品が届いた週の日曜。
昼の三時からルームメイトだけの、試写会を開いた。
しかし、ソネザキとドルフィーナの反応は微妙だった。
「ボクは面白かったと思うけどな」
コトミはいつも通り、笑顔満点で感想を述べる。
「わたくしは、もっと甘い作品になると思っていたんですけど」
「でも、こういうのも楽しいよね」
「まあ、コトミが満足してるなら、良いのではないか」
「そうそう。素人作品だしさ、楽しめれば勝ちだよ」
「まあ、そう言われると、そうかもしれませんわね。わたくしも自分にないキャラクターを演じるのは、とても新鮮で楽しかったですし」
「自分にないキャラだと? 素のお前、そのままだったではないか」
「む。ちょっと、ドルフィーナさん。それはどういう意味ですの?」
「普段の言動を鑑みると、そのままであろが」
「失礼ですわね。そもそも壊れかけの機械人形の分際で」
「もう。止めなよ、二人とも」
* * *
「どうでしょう? 悪くない仕上がりだと思うんですけど」
「ダメダメ。全然つまんない。マジで面白くない」
ハグロの質問をヒュウガは、ばっさりと斬り捨てる。
ソネザキ達がささやかな試写会を開いていた頃、キリシマの部屋でも同じようなイベントが行われた。
「テーマが伝わってこないしさ。何が言いたいのって思う。愛がテーマってんなら、もっと前に押し出すべきだろ」
「なるほど、そう感じますか」
活発に意見を述べるヒュウガに比べ、チームメイトのキリシマとチトセは完全に固まっていた。
特に後者は『ロミオとジュリエット』に憧憬があった分、ショックも大きかった。
「オチも気に食わないな。片方が生き残って、死んだ方を剥製にして飾るとか、そういう解りやすいのが良かったと思う」
「なるほど」
感心するハグロと違い、キリシマとチトセは「解りやすさ?」と当惑を深める。
「映像はいいよ。その分、中心の薄さが滲んじゃうんだよ。これじゃあ、かぐや姫の方が親子愛ってテーマが見えてて良かったよ」
「解りました。貴重な意見をありがとうございます。確かに映像に引っ張られた感はありますね。次は注意しましょう」
「次はどんなの?」
「赤ずきんをモチーフにしようと思っています。今回のように甘い感じのではなく、ちょっとグロい方向でいこうかと」
「グロか。今までのにはないところだよね。いいんじゃないかな。私も手伝うよ」
「うふ。ありがとうございます」
キリシマとチトセにはついていけない遣り取り。
感性が違い過ぎる。
この部分以外は良いチームメイトなのに。チトセが小さく息をこぼした。
「ところで、チトセさん。次の作品、是非出演をお願いしたいのです」
「えっ!」
「赤ずきん役として。あ、台詞とかは少ないですし、難しい役にはしませんので」
「あ、あの、でも、そんな」
「どうしてもダメですか?」
「チトセ、手伝えよ。薄情な奴だな。チームメイトだろ」
「そ、そんな風に言われても、私は、その」
会話を聞きながら、キリシマは深く溜息をついた。
チトセが押し切られるのは時間の問題だろう。
「ま、ソネザキに迷惑掛けなきゃいいけどね」
<Fin>




