番外編13-2
事ある毎に人とぶつかるヒュウガをフォローするのは、ハグロにとっていつもの事だ。
「でもよ。アンズくらいちびっこいのが、イメージ通りって言ってたじゃんかよ」
「あのね。私達はお願いする立場なの。そこをわきまえて。というより、もうちょっと話し方に注意して。誰にでも喧嘩売ってるみたいに聞こえるから」
「気付けてるじゃないか。最近は」
「全然足りてない。アンズさんにちゃんと謝って。ほら早く」
促されて、しぶしぶといった風に頭を下げた。
「ホントにごめんなさいね。アンズさん」
「構わないですわ。この方の思慮分別に欠けた言動は、いつものことですから」
「なんだと、お前」
すかさず反論しようとしたヒュウガだったが、ハグロに睨まれて溜息に置き換えた。
「チトセさんにお願いしてみましょう」
「ま、ハグロがそう言うなら、私は別にそれでいいけどさ。チトセの方が背が高いぜ」
「でもコトミさんの方が上背はありますし、映像の撮り方で少しくらい誤魔化せるはずですよ」
「あの、ちょっと待って頂けます?」
離れかけていた二人を、アンズが呼び止める。
「今、コトミさんがどうとか?」
「あぁ? お前には関係ないだろ」
「ヒュウガ、そんな言い方しない! 実は主人公のロミオ役をコトミさんにお願いしているんです」
「ロミオって、あのロミオですの?」
「はい。今回はロミオとジュリエットを、アクション風味に仕上げようと思っているのです」
「で、探していたのは?」
「ジュリエット役です。ロミオ役は動きの激しい役どころになるので、コトミさんにお願いしたのですが……」
「気が変わりました」
アンズが遮った。
「その役、是非わたくしにやらせてください」
* * *
「ハグロ? 悪い子じゃないよ。ちょっと変わってるとこはあるけどさ」
「ヒュウガと仲がいいな。面倒見が良くて、気が利く。大人っぽいし、素敵なお姉さんタイプだ」
夕食後の団欒。
アンズはソネザキとドルフィーナに、ハグロについて聞いてみた。
コトミは洗い物当番。流しから鼻歌が聞こえる。
「映像を撮る趣味がおありとか」
アンズの言葉に、二人が複雑な表情に変わった。
「そうだよ。幾つか見せてもらったことあるんだけどさ。かなりエキセントリックなのを作るんだよ」
「我も見たことがある。テラに伝わる伝説、サムライ・オブ・ピーチをアレンジした作品だった」
「それ、私も見たよ。あのグロいのでしょ。鬼を倒す力を手に入れるとかで、犬とか猿を次々と襲って、生きたまま引き裂いて食べるやつ」
「そのうち人まで襲い出して、気づけば自分も鬼になっていたという救われない話だ」
「でもさ、あれはまだマシな方だよ。プリンセス・カグヤとか凄いよ。あれ見たら、しばらく肉が食べられなくなるもん」
「聞いたぞ。あまりの映像に双子が、その場でリバースしたとか」
「マヤもだよ。掃除が大変だったって言ってた」
詳細は解らないが、アンズはどんどん不安になってくる。
「今度ね、ハグロちゃんの作品に出させてもらうんだよ。ね、アンズちゃん」
片付けを終わらせたコトミが会話に加わってきた。
「ボクがロミオで、アンズちゃんがジュリエット。すっごく楽しみなんだ」




