番外編12-3
* * *
「なるほど、イメチェンしたいというわけですか」
ソネザキの説明を聞き終えたミユが、ふむうっと腕を組んだ。
「私も地味で平凡な方なので、難しいところですね」
地味だの平穏だのという言葉の意味を、正しく理解出来ているのだろうか。
ソネザキ達は疑問に思う。
「こうなったら、アレですね。アレしかありません」
ぐっと拳を作って腰を上げた。「ちょっと待っててくださいね」と残して、トテトテと外に向かう。
「何か良い作戦があるのかな?」
「とっておきのとかかな? なんか期待できちゃうよね」
楽観的な意見を交わす、マヤとキヌガサに対し、ソネザキは表情が暗くなる。
「そうかな。どうにも悪い予感しかしないけど」
「またまたぁ。ソネザキは悲観的過ぎじゃないかな」
「そうそう。ミユ教官も立派な……まあ一応は大人なんだし」
「ちゃんと考えてくれてるよ」
特徴のない喋り方。
交互に話されると、どっちがどっちか解らなくなる。
「あんまり期待してると痛い目見るよ」
能天気なふたりに、ソネザキの不安は募る一方だった。
* * *
予感というのは当たる。往々にして悪い方に限るのだが。
「うわぁぁぁん! ソネザキぃ!」
「ソネザキぃ! 助けてよぉ!」
マヤとキヌガサが部屋にやってきたのは、夕食が終わった頃。
連打されるインタフォンにソネザキがドアを開けた瞬間、ふたりが泣きついてきた。
「まったく」
だから言わんこっちゃない。
出かけた言葉をどうにか飲み込む。
戻ってきたミユは、ふたりに小さな紙袋を手渡し、こう告げたのだ。
「この中には私が厳選したイメチェングッズが入っています。明日、これを身につけてくれば、確実に注目の的ですよ。あ、今開けちゃったらダメですよ。部屋に戻って、夕食後にでもひとりで見てください。だって明日の朝、互いにびっくりした方が楽しいじゃないですか。うふふ」
律儀に言いつけを守って、一端は帰宅したのだが。
「ソネザキぃ! これ見てよぉ!」
マヤが紙袋から取り出したのは水着。
パステルカラーのビキニだった。布面積の少ない大胆なデザインの物。
「ソネザキぃ! こっちはこんなだよぉ!」
キヌガサも水着。
淡い色合いのワンピースだが、背中が大きく開き、腹部の左右から切り込んである。
「私、胸がないからビキニなんて無理だよ!」
「太ってる私に、こんな水着なんて着れないよ!」
納得できる水着だったら、着ていくつもりだったの?
唖然としかけたソネザキだったが、ただのパニック状態だと悟った。
「どうしよう、ソネザキ」
マヤ達の声が揃う。
「着ていかなくていいんじゃない?」
あっさりと答えるソネザキに、ふたりは当惑を滲ませた。
「ミユちゃんは、多分、こう言いたかったんだよ。目立ちたいだけなら、水着でも着てくればいいだけってさ」
「え? どういうこと?」
マヤが首を傾げる。
「見てくれだけ変えても意味がないってことだよ。注目されたいなら、自分の中身を磨きなさいって。でも、そんなの簡単にできないだろ」
「つまり、自分を変えていけってこと?」
キヌガサが尋ねる。
「多分ね。ミユちゃんらしい遠回しなやり方だけどさ」
ちゃらんぽらんに見える見えるミユだが、意外にも生徒達の事を気にかけてくれている。
厳しく叱る事はまずないが、優しく丁寧に諭す。
そういう教官なのだ。
「まあ、できる範囲でってことだろうけどね。無理しても仕方ないしさ」
ソネザキの言葉に、マヤとキヌガサは納得して頷いた。
* * *
翌日、マヤはいつものメガネに戻し、キヌガサもアクセサリを外した。
つまり、いつも通りのスタイルでの登校になった。
ミユにお礼をと思ったのだが、朝礼に現われたのはユキナ。
ミユは体調不良で休みらしい。
その日の放課後、早朝に水着姿でぐったりしたミユを、ユキナが引きずって運んでいた。
という話が流れたが、結局は根も葉もない噂だったのだろう。
<Fin>




