【14-02】
「そ、それは……」
「お前の居る場所は、そこじゃないはずだろ」
「そうだよ。また、四人で仲良くやろうよ」
ハヤテの右から強引にアヤが割り込んできた。
「実際、トリオじゃ勝てないっぽいんだよね。成績もどんどん落ちるっぽいしさ」
左側からマキが顔を押し込んでくる。
「トリオって? どうして?」
「ハヤテがさ、新しいメンバーを入れたがらないっぽいんだよ」
「ソネザキがさ、いつでも戻ってこれるようにってさ」
「余計なことは言わなくていいんだよ! っていうか、お前ら邪魔すんな! 重い!」
「もちろん、私達も賛成なんだけどね」
「ちなみにクラス委員も空席のままっぽいんだよ。副委員のオオトリが代理で頑張ってるっぽいんだけど。イマイチっぽいんだよね」
「ほら、みんなソネザキに頼りっぱだったしさ。だから、他のクラスに全然勝てないんだよね」
考えていたのは勝つ事だけ。
だからクラスメイトと親しげに言葉を交わし、全員の性格を把握した。
最高のプランを練り、効果的な運用で、常に勝利を飾ってきた。
その全てが自分の物だと自惚れ、また他のメンバーも勝てる指揮官だから付いてきていると思っていた。
戦って勝つ。
その繰り返しだけの軽薄な絆。
いつの頃からか、それが正しいと信じ込んでいる自分がいた。
負けるような指揮官なんて必要ない。
無様な敗北を喫した自分に付いてくる人間なんているはずがない。
「群れを統率するリーダーは、それなりに信頼されてる、か」
少し前に誰かが言っていた言葉がこぼれた。
「逆だよ、信頼されるからリーダー。そんなの子供でも知ってるさ」
「私は知らなかったんだよ」
ソネザキの告白に、三人が声を上げて笑う。
「私はバカだったんだな」
「バカだな」
「バカだね」
「バカっぽい」
「バカバカ言いすぎだろ」
今度は四人の笑い声が重なった。
「で、戻ってこれるんだろ?」
ハヤテの問いに、ソネザキは少し考える。
戻ってやり直す、それはこの半年間ずっと願っていたことだ。
「ごめん。それはできないよ」
しかし行き着いた結論は正反対の物だった。
「こっちでもクラスメイトとチームメイトができたんだ。また逃げるのはできないよ」
「それはそうだな。いいんじゃないか。ソネザキが自分で決めたんなら」
拍子抜けするほどあっさりとハヤテは諦めた。
「アンタから連絡があった時点で、こうなる気はしてたし」
「あの、なんて言ったらいいか、その」
「じゃあ、この話は終わりだ。マキ、アヤ、後はアンタらの好きにしていいよ」
「好きにしなって、もう時間っぽいんだけど」
時間は二十三時になろうとしていた。
十一学区では二十三時以降通信禁止だ。
「時の流れにまで責任持てないよ。じゃあな、ソネザキ」
「あ、うん」
「もっと話したいこともあったっぽいのに」
「ね、冬休みに遊びにおいでよ。こっちはさ、年末の里帰り禁止だし」
アヤの提案に、ソネザキは笑みを見せた。
「そうだね。邪魔じゃなかったら」
「みんなで歓迎するから、楽しみに待ってるよ」
「うん、じゃあ、また連絡するよ」
* * *
「上手くいったみたいだね」
「わたくしの言った通りでしょう。心配するほどのことではありませんわ」
「なら、なんでお前も一緒に覗いているんだ?」
「そ、それは、その、機械人形が下らない邪魔をしないか見張る為にです」
「あはは、二人とも仲良くだよ」
三人はアンズの部屋にいた。
部屋に引き上げてから、ソネザキがキッチンで支度をしている隙に、こっそり集まったのである。
そして数センチだけドアを開き、ソネザキの様子を伺っていた。
仮にもルームメイト。
食事中からずっと通信機を気にしているソネザキを見ていれば、考えている事くらいは解るものだ。
「そもそも、あいつが古巣の連中に叩かれてへこんだら、どうフォローするつもりだったんだ?」
「そ、そんなのそうなってから考えるに決まっているでしょう」
「計画性のない子供はこれだからな」
大袈裟に肩をすくめるドルフィーナに、アンズが眉を吊り上げる。
「なんですの、その態度! 機械人形の分際で!」
「まあまあ、無事に一件落着で良かったよね」
「ん、ソネザキが動き出したぞ」
珍しく鼻歌交じりで部屋に戻っていく。
「案外音痴なんだな」
「ホント、微妙に音程がずれていますわ」
「ソネザキの意外な一面だね」
他愛ない発見をしつつ、「そ」と書かれたドアが閉まるのを確認した。
「さて、我らも解散するか」
ドルフィーナの発言に、コトミが手を上げて賛成を表明する。
「あの、コトミさん」
そんなコトミにアンズが頬を赤らめながら声を掛ける。
「今日はもう遅いですわ。泊まっていかれても……」
「と言われても、我は夜間に充電せんといかんからな」
「壊れかけたオートマトンには言ってません!」
「あはは。ボクも自分の部屋で休むよ。アンズちゃんに迷惑掛けたくないしね」
「そうですか。いえ、わたくしも慎み深い人間です。チャンスを待つことにいたします」
「永遠に来ないチャンスなんだがな」
「うるさい! 機械人形!」
「二人ともホントに仲良しさんだね。でも今日は遅いから明日にしよ」
コトミの言葉が採択され、コトミとドルフィーナは自室に向かう。
二人を見送った後、アンズは軽く伸びをすると、スキンケアの道具を取り出し深夜の日課に入った。
コトミは部屋に戻るとそのままベッドに。
ドルフィーナはお菓子を片手に深夜の読書タイム。
長かった一日がようやく終わる。
* * *
〜今日は演習だった。色々なことに気付かされた。実に貴重な一日だった。〜
ソネザキがペンを止めた。
あまりに簡素で味気ない一文に口元が緩む。
「どうにも文才がないね」
ここ三年書き続けている日記は、いつもこんなだ。
電子的な媒体は冷たい感じになると、わざわざアナクロにペンとノートで綴っているのだが、内容まで温かみは反映されないようだ。
「まあ、私らしいと言えるかな」
そう呟いて自分自信を納得させる。
「さて、今日はそろそろ寝よう」
と、ノートを閉じようとした手を止めた。
ペンを取り出し、最後に一文追加する。
〜今日は演習だった。色々なことに気付かされた。実に貴重な一日だった。
今日見つけた物は、絶対になくさないようにしよう。〜
「はは。やっぱり私らしいよ」
ノートを閉じて、欠伸を一つ。そのままベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
誰にでもなく呟くと、目を閉じた。
今日の疲れからか、あっという間に眠りに落ちていく。
二十三時四十二分。
ようやくにしてソネザキの十月十日が幕を閉じた。




