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【13-03】

「そうじゃなくてさ。あれはソネザキにプレゼントしようと思うんだ」

「え?」

「ほら、春にソネザキがチームに入ってから、歓迎会もできなかったしね」

「我らのチームの台所事情だと、食べるだけで精一杯だしな」

「その割に、無駄にお菓子を食べてばかりの機械人形がいたりしますけど」

「身長の割りに食いしん坊なお子様よりは救いがあるがな」

「どういう意味ですの?」

「説明して欲しいのか?」

 

 ぐぐっと顔を近づけて睨み合う無駄にお菓子を食べてばかりの機械人形と、身長の割りに食いしん坊なお子様。

 

「あはは。いつも二人は仲良しさんでいいなぁ」

 

 そんな二人を見ても、好意的に解釈できるのがコトミという人間だ。

 

「でね、賞品を取ったらソネザキにプレゼントしようと決めてたんだ」

「貰えるわけないじゃない。そもそもあれはチームの賞品であってさ……」

「そのチームのメンバー全員で決めたことなんですの」

「でもさ……」

「我らの好意が受け取れないのか? なにかと理由を捏ねて断りたいのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、この件は決まりだね」

「では、わたくしからアドバイスさせて頂きますが、自室の品をそろえるべきです。第一種支給品チケットなら全て入れ替えられるはずです」

「いいよ、支給品で間に合ってるし、それなりに気に入ってるしさ」

「いいえ、いけません。カーテンも家具も支給品なんて有り得ませんわ。もっと乙女らしく可愛い部屋にすべきだと思いません? 思うでしょう。思うべきです。思いなさい」

「そう言われてもさ」

「お子様の寝言は置いておいてだな。やはり万一に備えて、食料を確保しておくべきだ」

「食料って?」

「優れた兵士は有事に備えて、ポテチを買い置きしておくのが常識。第一種支給品チケットなら、毎日食べても二年分近くのストックが可能だ」

「それはお前が食べたいだけだろ」

「心配するな。ちゃんと分けてやるから」

「こんな機械人形の言葉に騙されてはいけませんわ。絶対に家具です」

「本人が支給品でいいと言っているんだ。ここはポテチがベストだ」

「コトミ、なんとか言ってあげてよ」

「二人の意見を尊重すると、ポテチ模様の家具ってことになるよね」

 

 一プラス一は月面宙返りみたいな画期的なアイデア。

 

「解った解った。やっぱり皆で分けられる物にするよ。なにか美味しい物でも……」

 

 ふと、思いついた。

 

「ホントに好きな物に使っていいんだね?」

 

 改めて念を押すソネザキに、不思議そうな顔をしつつ三人が頷いた。

 

 

                       * * *

 

 

「随分と面白いリクエストだな」

 

 ソネザキの言葉を聞き終えたユキナは、そう告げた。

 

「肉に野菜に飲み物、それに野外調理用の炭。まさか、ここでバーベキューでもする気じゃないだろうな」

 

 鋭い視線を向ける。

 その射抜くような目には、どうしても気圧されてしまう。

 

「はい、そのまさかです」

 

 やや掠れた声で、ソネザキが答える。

 

「今日は演習だ。レクリエーションではない。そのことは理解しているな」

「はい、理解しています」

「であれば最後に飲み食いして騒ぐのが適切か、判断できるはずだな」

「はい、適切だと判断しました」

「ほう、適切だと」

 

 ゆっくりと噛み締めるように繰り返す。

 

 一層きつくなったユキナの視線を、ソネザキは目を逸らさずに受け止める。

 

 しばらくの間を置いて、ユキナが口を開いた。

 

「いいだろう。説明してみろ」

「はい」

 

 一呼吸置いて気を落ち着けると話し始める。

 

「今日の演習。私は残存した兵力を集めて指揮を執りました。結果、どうにかミッションをクリアし、唯一の生存者となりました。でも、それは運が良かっただけです。実際には取り返しのつかないミスを重ね、多くの仲間を失うことになりました」

「つまり、自分が生き残ったのは、みんなの犠牲があってこそだと。そして、その還元がしたいと?」

「いえ、違います。あ、いや、そういう気持ちも、もちろんありますが。その……」

 

 言葉が揺れた。どう言えばいいのか、迷う。

 

「ソネザキ、心に浮かんだままを言えばいいんだよ」

「そうですわ。言葉とはシンプルであるべきなのです」

「考えたところで詩的な表現ができるはずがないのだからな」

 

 三者三様の言葉がソネザキの背中を押す。

 

「私はこの春に転入し、今のチームに編入されました。それから半年、私はクラスにもチームにも慣れました。でも、本当は寂しかったんです」

「寂しいだと?」

「他の学区から逃げてきた私に、本当の意味で心を許せる友人なんてできるはずがない。ずっとそう思っていました。だから、皆が楽しそうに過ごしているのを見るのが、羨ましかったんです」

 

 ふっと息を吐いて、口元を緩ませた。

 

「でも、それは違ったんです。距離を置いていたのは自分の方。親しい友人ができないのは当然だったんです。だから私は自分から踏み出すことに決めました。その第一歩として、今日の賞品を使いたいんです」

「言いたいことは解った。しかし、残念だ。お前はもう少し賢い人間だと思っていたのだがな」

 

 言葉の真意を図りかね疑問符を浮かべるソネザキに、ユキナが大きく溜息をついた。

 

「後ろの連中を見てみろ」

 

 言葉に従い、ソネザキが振り返る。

 

 見るからに不機嫌な顔をしているドルフィーナ。

 引きつった苦笑を浮かべているアンズ。

 今にも泣き出しそうなコトミ。

 

「三人共、構わんぞ。何か言いたいことがあればいってやれ」

「お前ほど頭の鈍い人間は珍しいな。呆れるほどだ」

「まったくです。もう少し周囲を見て欲しいですわ」

「ソネザキがそんな風に思ってたなんて、ボクは寂しいな」

「その三人だけじゃあるまい。お前の粗末な指揮に従った目出度い連中も居たはずだろうが」

「そうだよ、ソネザキ。ウチらは結構仲良くやってるつもりだったのに。ひっどい話」

「っていうか、そんな下らないことで悩んでるのが驚きだよ。ウチが思ってたより全然暗いのな」

「バカな双子はともかくとしてさぁ、私達が誰の指揮にでも従うって思ってんのぉ。ね、フユツキ」

「………………」

「どの動物でもそうだけど、群れを統率するリーダーってのは、信頼されてるものなんだよ。例えば、狼を例にとるとだね……」

「えっと、その、私はソネザキさんは大切なクラスメイトで、大切な友人だと思っています」

「ね、私達もなんか言った方がいいんじゃない?」

「そうだよ。地味キャラ返上のチャンスだよ」

「急に言われても、ちょっと待てよ。そうだな……」

「お前ら終礼だぞ。私語は慎め」

 

 ユキナの注意に、無念そうな声が漏れる。

 

「ほらほらぁ、折角のチャンスだったのに」

「あぁ、やっぱり私達は永遠の地味キャラなのかな」

「地味って言うな!」

「いつまでも喋ってるんじゃない! これ以上の無駄口は懲罰対象だぞ!」


 一気に静かになった。

 

 沈黙と緊張感が戻ったのを確認すると、ユキナがソネザキに視線を戻した。

 

「お前が思っているよりも、もっと近くに仲間は居るものだ。それに気付かない、というよりも見ようともしないのが問題だ」

 

 ユキナの辛らつな指摘に、返す言葉がない。

 

「踏み出す決心も大切だが、今は周囲を見ることを心掛けろ。時には振り返ってな」

 

 ソネザキの肩に優しく手を置いた。

 

「復唱だ」

「あ、はい。以後、態度を改めます」

「よし、いいだろう。とりあえず、お前のリクエストの件だが」

「その件については……」

 

 全てはユキナの指摘どおり。

 問題は自分自身の中にあったのだ。であれば……。

 

「撤回を……」

「軍人は自分の発言には責任を持つものだ。指揮官ともなれば尚更な」

「え、でも……」

「お前ら! 喜べ! 今日はソネザキが奢ってくれるそうだぞ!」

 

 生徒達の間から、どっと歓声が起こる。

 

 あっという間の展開に、唖然として固まるソネザキの肩をコトミが叩く。

 

「ごめん。なんか変なことになっちゃって」

 

 振り返ってチームメイトに頭を下げた。

 

「謝るなんておかしいよ。みんな凄く喜んでるんだから、これがベストなんだよ。流石はソネザキだね」

「そうです。こういうのも悪くないと思いますわ。何よりもコトミさんが嬉しそうですし」

「食う時には食う。それが大切だ。あれこれ考えるのは腹が一杯になってからでいいだろう」

 

 四人のやり取りを聞いていたユキナの表情が僅かに緩んだ。

 

 が、それも一瞬。直ぐに鬼の顔に戻る。

 

「お前ら! 誰が騒ぐのを許可した!」

 

 その怒声に生徒達が慌てて姿勢を正す。

 

「弛んでいるにもほどあるな。食料が届くまで、一時間は掛かる。その間は軽く身体を動かしておくのがいいだろう。まずはその場で腕立て伏せからだ!」



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