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【06-04】

「仲間を見捨てようって言うのかよ。そりゃ最低だね」

「そんなのは臆病モンのすることだ。ソネザキ、こんな奴は放っておけばいいさ」

 

 双子の反応は冷たい。

 

「チトセが正しいんじゃね? っていうか、別クラスだしぃ、見捨てればいいじゃんさぁ。たかが演習だしぃ」

 

 脱力感の伴う口調でイスズがチトセ側に回る。

 

「塗り壁の意見なんか聞いてないんだよ」

「なにさ、妹。二人セットで一人前のくせにぃ。私をバカにしてるのぉ?」

「誰が半人前だ!」

「でもさ、チトセの意見にも一理あるよ。今回の演習は生き残ればいいんだしさ」

「アブクマ。お前、生き残ってたんだ」

 

 アカネとアオイが双子だからできる絶妙のタイミングで口にした。

 

「ハモるなよ! ずっと一緒にいただろ!」

「しょうがないよ。私達って地味キャラだから」

「ホント地味キャラだから、目立たないもん」

「地味って言うな! っていうか、お前らも忘れられて納得すんなよ!」

 

 マヤ、キヌガサの諦めきった台詞に、アブクマが一層声を荒げる。

 

 アブクマ、マヤ、キヌガサ。それにリタイアしたタカコを加えて、ジミー・ザ・カルテットと呼ばれるチームになる。

 

 試験も演習も、どんな時でも真ん中の成績を収める。

 ある意味、実に個性的なメンバーだ。 

 

 ちなみに、外見的な特徴を簡単に上げると、アブクマは首の後ろで三つ網。

 マヤは野暮ったい黒フレームの眼鏡。キヌガサは福与かな頬の丸顔。

 チームリーダーのタカコに至っては、あまりに印象に残らない顔立ちというのが、最もしっくりくる表現になる。

 

「地味も一つの個性だ。それを磨き上げれば良い」

 

 と、ドルフィーナがフォローする。

 

「そんなの磨いたら埋没しちゃうだろ! 適当なこと言うなよ!」

「まあまあ、生き残った連中が個性的過ぎるんだよ。で、アブクマ達は反対なわけね。フユツキは?」

 

 ソネザキの問いに、大柄な少女は小さく首を振った。

 反対に一票。

 

 ソネザキ、アンズ、コトミ、ドルフィーナ、アオイ、アカネが支援派。


 チトセ、イスズ、フユツキ、トリオ・ザ・ジミーが防衛派。

 

 多数決で決まるわけではないが、こうも綺麗に分かれると決着は難しい。

 

「今、出れば挟撃できるんだよ。これ以上のチャンスはないんだ。確かにリスクはあるけど」

「リスクを避けるのが得策です。ユキナ教官のクラスが戦っている今がチャンスなんです。万全の準備を整えましょう」

 

 ソネザキとチトセの意見は完全な平行線。

 

 二つに部隊を分けるか。ソネザキがふと考える。

 が、元々少ない戦力を割けば、どうなるかは明白だ。

 

「まいったな」

 

 口元に手を当てて、目を閉じた。ソネザキの思考のポーズ。

 

 ヘリからの降下強襲という目立つ方法は、陽動を兼ねている可能性がある。であれば、別ルートからの挟み撃ちだって有り得る。

 優秀とされるユキナ教官のクラスであっても、激減した戦力の上に奇襲、挟撃とくれば勝利は難しいだろう。

 

 その後、こちらに向かってやってくるはず。それまでに防御を整えるのは常套。

 逆説的に言えば、万全の状態で待ち構えている我々を打ち破る自信があるのだ。

 

 相手の裏をかくのが兵法。ここは攻めしかない。

 

 しかし、この理屈はソネザキの想像。その理論を証明する物がないのだ。

 どうすれば反対派を説得できるか。

 

 隊長命令という手もあるが、正式な指揮権はチトセにある。

 こちらが強引にいけば、逆に彼女の権限に従わざるを得ない。

 

 あれほど騒がしいクラスメイト達も流石に押し黙ってしまった。

 

「ねえ、みんな」

 

 微妙な沈黙をコトミが破った。

 

「ユキナ先生のクラスを助けにいこう」

 

 強い意志のこもった口調に、誰もが気圧される。

 

「理由は?」

 

 沈黙のフユツキと呼ばれるほどの寡黙な少女が聞き返す。

 

「悔しいからだよ! みんなは悔しくないの?」

 

 見回すコトミに、誰もが真意を測りかね、大きな疑問符を浮かべる。

 

「……その主張は理解できない」

 

 フユツキの言はコトミを否定したのではない。

 詳細を聞きたいのだ。

 

「相手はさっき通っていったヘリから降下してきたんだよ。あのヘリはボク達の頭上にしばらく止まってたんだよ」

「だから?」

「つまりボク達は、無視されたんだよ。一生懸命戦って生き残ったボク達を無視して先に進んだんだよ」

「私達は奴らにとって、取るに足らない雑魚というわけだな」

 

 やや自嘲的な笑みを浮かべると、フユツキは沈黙に戻った。

 

「なんかぁ、そう言われるとぉ、すっごい腹が立ってくんよねぇ」

 

 ぶうっと頬を膨らませたイスズが、チトセを見る。

 

 次に発言すべきは自分なのだ。

 チトセが大きく息を吸った。

 

「例え、相手が何を思っていようが、ここは防御を万全に整えて迎え撃つのが得策です」

 

 コトミに失望の色が浮かびかける。が。

 

「でも、雑魚扱いされて黙っていられるほど、私達はご立派な人間ではないですよね」

「じゃあ」

「いきましょう。ゲストさんにミユクラスの底力を見せてあげないといけませんから」

「チトセちゃん! ありがと!」

 

 いきなりコトミが抱きついた。

 ストレートな感情表現にチトセの顔が真っ赤になる。

 

「こら、アンズ」

 

 アンズの手をソネザキが押えた。

 

 アンズの手が、反射的にヒップホルダーの拳銃に伸びていたのだ。

 

「でもでもでも、コトミさんがコトミさんが」

「ちょっと冷静になれって」

「しかし、あんな女狐を放置しておくと社会のモラルが損なわれてしまいます!」

 

 随分と大袈裟な理屈だ。

 

「コトミにとってお前は特別な友人なんだろ」

「も、もちろんですわ。わたくし達二人の絆は、この全宇宙においても特別な関係です」

「ここで銃を抜くのは、コトミの気持ちを信じられないってことになるよ」

 

 はっとアンズが息を飲む。

 しばらくの沈黙の後、柔らかな笑みをソネザキに見せた。

 

「ソネザキさんは誤解しておられるのですね。わたくしは出発に備えて弾丸の確認をしておこうと思っただけですわ」

 

 よくもまあ、そこまで平然と言えるもんだ。ソネザキもやや呆れる。

 しかし、とりあえずは安心。

 

「他に反対はない?」

 

 全員が頷いて同意を示す。

 

「じゃあ、行こう。全員武装は最小限に抑えて。ここからは時間との勝負になるから」

 

 不要な装備を地面に置いて、ソネザキの前に全員が並んだ。


 意外な動きにソネザキが驚く間もなく、チトセが頼りない声を懸命に張る。

 

「ソネザキ隊長代理に敬礼」

 

 ざっと踵をそろえて、全員が敬礼の姿勢を取る。

 形式的ではあるが指揮権の譲渡を意味する行動だった。

 

「チトセ……」

 

 小さく漏らした言葉を止め、敬礼に置き換える。

 

「我々はユキナクラス支援の為に出撃する。各員の奮闘を期待する。では、状況開始!」

「了解、状況を開始します!」

 

  


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