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【06-03】

                       * * *

 

 

 ホバリングを続けていたヘリが、西に向かい進み始めた。

 

「結局、何だったのだ?」

 

 全員の疑問をドルフィーナが口にする。

 

「様子を伺うにしても、輸送ヘリというのは奇妙ですわ」

「でも、あまり好意的な感じはしなかったね」

 

 アンズとコトミが意見を交換する。

 それを受けて他のクラスメイト達も、次々と口を開く。

 どんな時でも常に騒がしいのがミユクラスなのだ。

 

「チトセ、他の二クラスはどこに布陣してるんだっけ」

「えっと、北と西です。北がカナエ教官のクラス。西がユキナ教官のクラスです」

 

 ソネザキが答えを受けて携帯端末を確認する。

 

「やっぱり別クラスの状況は解んないか」

「無線で連絡してみましょうか」

 

 チトセの提案にソネザキが目を丸くした。

 いや、ソネザキだけではない。クラスメイト全員が驚きを浮かべて、チトセを見つめている。

 

「あのあのあの、今回は特別に」

 

 集まる視線に頬を真っ赤にしながら、チトセが説明を始める。

 

「その、事前に決めた紳士協定の……」

「淑女協定であろ」

 

 ドルフィーナの鋭い横槍に、チトセが一瞬黙った。

 彼女は真面目な性格なのだ。

 

「えっと淑女協定の……」

「いや、美少女協定のが響きが良い」

 

 再びチトセが言葉を止める。

 彼女は正真正銘、寸分の狂いも無く真面目なのだ。

 

「えっと美少女協定の……」

「いや、少女協定にしておこう。美少女と呼べない者もいるからな」

 

 三度目。困惑顔でソネザキに助けを求める。

 もう、泣きそうだ。

 

「こいつの言うことを、わざわざ汲み取らなくていいから」

 

 仕方なくソネザキがフォローに回った。

 

「で、連絡できるの?」

「はい、少女協定を結んだ時に、相互連絡用の周波数を決めておきました」

「キリシマは何も言ってなかったけど」

「キリシマさんは、バッジの説明で忙しかったので」

「なるほどね」

 

 動物について有り難い薀蓄を披露して歩いていたのだろう。

 

「じゃあ、連絡お願い。とりあえず残ったメンバーで胴上げの続きを」

「しなくて良い。また、地面に落とす気だろうが」

「……いや、そんなことは考えてないけど」

「今の間はなんだ」

「チトセ、状況どう?」

「こら、ちゃんと説明しないか!」

「アンズ、説明しておいてあげて」

 

 下らない会話の間に準備が整ったようだ。

 まだ文句を言っているドルフィーナの相手をアンズに押し付けて、チトセから携帯端末を受け取る。

 

「通話ボタンで繋がります」

「ありがと」

 

 ドルフィーナとアンズの口論で盛り上るクラスメイト達の輪から、二人で少し離れて通話ボタンを押した。

 

 二度目のコールで相手が出る。

 

「こちら青チーム、ハルナだ」

 

 ディスプレイに相手の顔は出ない。音声専用の回線を使っているのだ。

 

「こちら赤チーム、ソネザキです」

 

 しばしの間があった。

 

「君は春の転校生だな。音声だけで味気ないが、私がユキナ教官クラスでクラス委員をしているハルナだ。以後、よろしく頼む」

 

 凛とした話し方から彼女の聡明さが伝わってくる。

 

「君が代わりに指揮を執っているのだな。生存者はどのくらいいる?」

 

 オートマトンの襲撃とそれを退けた事。

 更にその過程でキリシマが倒れたのを悟ったのだろう。

 

「こちらは十二名です」

 

 指揮官代理のソネザキは、席次ではハルナより下になる。

 常に緩いのが特徴のミユ教官のクラスだが、ハルナは厳しいユキナ教官のクラスだ。

 作戦中は敬語を使うべきだと判断した。

 

「ふふ、君は真面目な人間のようだな。ミユ教官のクラスとしては珍しい。こちらは残存兵力は二十一名。コンゴウのクラス、黄チームからは、まだ連絡がない」

「まさか」

「最悪の事態は想定しておくべきだろう。それよりも残った戦力をどう活用するかだ」

 

 さっと話題を切り替える。

 指揮官としては優秀だが、プライベートでは付き合いにくいタイプかも知れない。

 

「一旦戦力を合流させるべきだと思う。こっちに来れるか?」

「その前に、報告すべきことがあります。こちらの頭上を越えて晴嵐型の輸送ヘリが飛んで行きました。三分ほど前です」

「三分前と言うことは、そろそろこちらでも……」

「隊長、ヘリがこっちに向かっています」

 

 ハルナの言葉を、もう一つの声が遮った。

 

「こちらでも確認できたようだ。とりあえず様子を見て」

「隊長! 降下部隊です!」

 

 その報告に火薬の乾いた音が被さってきた。

 

「敵襲! 敵襲!」

「ここでは狙い撃ちされる! 全員、近くの建物に避難だ! 着地タイミングを狙って応戦する!」

 

 ハルナの素早い指示が飛ぶ。

 この状況下でパニックにならず、冷静に対応できる。やはり彼女は優秀だ。

 

「ソネザキ、どうやらヘリは、スペシャルゲス……」

 

 ざざざっと雑音が、あっという間にハルナの声を飲み込んだ。

 

「もしもし! 応答お願いします!」

 

 何度呼んでも、耳障りな音しか返ってこない。

 

「ジャミングされてる。スペシャールゲストとやらは、富獄だけじゃないってわけか」

「どどどどどどうしましょう」

 

 真っ青になって震えているチトセの肩にそっと手を置いた。

 

「とりあえずは、この不幸なトピックスを皆にお裾分けしないとね。私達だけじゃ勿体ないよ」

 

 ソネザキの冗談にもチトセの強張った顔は緩まない。

 

「みんな、ちょっと集まって!」

 

 頭上に銃を振り上げてドルフィーナを追い回していたアンズが動きを止めた。

 

「なんですの。ようやくこの機械人形を教育できる機会に恵まれたところでしたのに」

 

 ぶうっと頬を膨らませながら、ソネザキの方に歩み寄って来る。

 

 クラスメイトが、だらだらとそれに続く。

 折角のイベントを中断された事に、少なからず不満はあるようだ。 

 

「残念なお知らせがあるよ。スペシャールゲストの第二段が登場した」

「まったく質の悪い趣向だな。今回の演習は」

「こんなだと、ボク達も楽しめないよね」

「コトミさんを不快にさせるなんて、絶対に許せませんわ」

 

 最後の意見はややずれているが、今はそれに拘っている時ではない。

 

「さっきのヘリからの降下部隊が、現在青チームと交戦してる」

「で、隊長代理さんは、どうしたいのかな?」

「まあ、ウチらには答えが解ってるけど」

 

 双子がソネザキに続きを促す。

 その嬉しそうな顔を見れば、何を期待しているのか明白だ。

 

「青チームの救援に向かおう」

 

 よしっとガッツポーズを取るアオイとアカネ。

 アンズやコトミも直ぐに同意を表した。

 

「やれやれ早く済ませて、ゆっくり休みたいところだな」

 

 怠惰なオートマトンですら、溜息交じりではあるが賛成を表明する。

 

「時間が勝負だからね。最低限の装備で」

「あの、ちょっと待って下さい」

 

 チトセがソネザキの指示に割り込んだ。

 

 集まる視線に頬を赤らめながらも、いつものチトセには見られない厳しい表情だった。

 

「私は反対です。その、救援よりも防御を整えて敵に備えるのが得策だと思います」


 

 

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