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【06-02】

 空中で微妙に身体を動かし、音源を確認しようとするが。

 

「こら、動くんじゃない。バランスが取れなくなるだろ!」

 

 切迫したソネザキの声が飛んできた。

 

「いや、ちょっと変な音が聞こえたのだ」

「どうでもよろしいですわ、そんなこと。貴方の短慮な行動で下手をすれば死人が出ますのよ」

「解った解った。悪かったな」

 

 仕方なく耳に少し集中する。

 激しいエンジンの回転と、空気を叩くバタバタという音。位置は遥か上空。

 まだ距離があるが、かなりの速度で近づいてくる。

 

「これは、ヘリコだな」

 

 小型の兵員輸送ヘリコプターだと判断した。

 

「ヘリコが近づいてくるぞ。東の方からだ」

 

 わーのわーのと叫びながら胴上げを続けているクラスメイトに大声で告げた。

 

「ヘリコだって? なんで?」

「そんなこと、我が知るか」

 

 ソネザキの問いにシンプルに答える。

 

 と、微かなローター音がソネザキの耳にも届いた。

 

「みんなストップ!」

 

 タイミングが悪かった。ソネザキの合図は、ドルフィーナを放り上ようとしたタイミングだった。

 手を止めた者と、そのまま投げてしまった者。それは比率は半々ぐらいだろう。

 

 結果、ドルフィーナはバランスを大きく崩しながら宙を舞う事になった。

 

 手足を動かして、どうにかバランスを保とうとするドルフィーナの引きつった顔に、下にいるクラスメイト達が状況を察した。

 

「た、退避!」

 

 叫びを上げたのはチトセ。

 

 すぐさま、オートマトンの落下地点から全員が離れる。

 幸運にも誰も下敷きにならなかった。

 

 しかし、運と不運は表裏一体。クラスメイトの不運を一身に受ける羽目になった者がいた。

 

 不幸な美少女型機械人形は背中から地面に落ちた。

 もちろん、最新鋭オートマトンは、その性能を見事に発揮。受身も取らず腰から着地だ。

 実に人間味に溢れている。

 

「ドルフィーナ!」

 

 全員が慌てて駆け寄る。

 その中でもやはりチームメイトの三人が一番早い。 

 

「こういうお約束をするなと言っただろうが!」

 

 喚きながら、どうにか身体を起こした。

 余程痛かったのだろう。両目には溢れそうなくらい涙が溜まっている。

 

「ふう、良かった」

「良くないわ。この戯け者らが!」

 

 腰を押えながら立ち上がった。

 やや足元がふらついているが、とりあえずは無事だ。

 

「ごめん。悪かったよ」

 

 ソネザキに続いて、全員が次々と謝罪の言葉を口にする。

 

「謝るのなら、ポテチの一袋でも用意すべきだ」

「お前は何でもお菓子なのな」

「食とは最大の娯楽なのだぞ。美味しい物を高貴に、そして優雅に心置きなく味わう。それこそが最大限の贅沢だ」

 

 深夜まで漫画を見ながら、床に転がってポテチを頬張る。

 どの辺りが高貴で優雅なのか難しい。

 

「ソネザキ、ヘリコだよ」

 

 コトミの声に全員が顔を向けた。

 ローター音を響かせながら、ヘリコプターが近づいてくる。

 

 四角形を組み合わせたシンプルなデザインは、兵員輸送用のヘリコプター、晴嵐だ。

 

「我らを回収にきたのかもしれんな」

 

 晴嵐の輸送限界は十五名。生き残っている人数とは合致するが。

 

「それはないよ。リタイアした連中を放っておくはずがないしさ」

「それなら何の為に来たというのでしょうね」

 

 アンズの言葉は全員が抱いている疑問だろう。

 

 そうこうしている晴嵐はソネザキ達の頭上にまで達した。

 そこで進むのを止めて、ホバリングを続けている。

 

 

                       * * *

 

 

 晴嵐の後部コンテナ。

 六メートル四方の狭い空間に、降下用のパラシュートと強襲用兵装に身を包んだ十二名が整然と並んでいた。

 高等部選抜部隊である。

 

 その先頭、壁に映し出される対地カメラの映像を見つめていたモガミが小さく呟く。

 

「退避行動も取らず、ぼんやりとヘリを見上げているなんて。実に練度の高い精鋭ね」

「一気に制圧しましょう」

 

 隣に立つ少女、副隊長を務めるナチが提案した。

 鍛え込まれた分厚い身体を持つ彼女は、か細いモガミとの対比効果で一層頼もしく感じられる。

 

「さて、どうしようかな」

「制圧作戦は迅速を持って良しと言います」

「とは言ってもね」

 

 大きく溜息をこぼす。

 

「こいつらの相手はつらまいもの」

「しかし」

「私に意見するなんて、知らない間に随分と偉くなったのね」

 

 モガミの冷たい言い方に、ナチが言葉を止めた。

 

「この部隊の指揮権は私にあるの。貴方の任務は私の補佐のはずよね」

「はい」

 

 口元に薄い笑みを浮かべつつ、モガミが続ける。

 

「貴方は自分のすべきことをしなさい。もっとも作戦中に足を引っ張るくらいしかできないでしょうけど」

 

 随分な言い草だった。

 流石のナチも堪えきれず、怒りの色が薄っすらと浮かぶ。

 

「ホンキにしたの? 冗談に決まってるじゃない。面白い冗談だったでしょ。ほら、笑って、笑いなさいよ」

 

 実に嬉しそうに、意地悪な要求をする。

 

「ふふ、まあいいわ。貴方をからかっててもつまんないし。とりあえず、このまま西に向かって」

 

 西に布陣しているのは、ユキナのクラス。

 モガミの決定は先にそちらを叩く事を意味していた。

 

「いけません! 挟撃に合う可能性があります。ここで降下し、後顧の憂いを断ってから進むのが鉄則です」

「いやよ。ここで降下したら、西まで随分歩かないといけないもの」

「そ、そんな理由で」

「ナチ、ミユクラスの連中を戦力として見なす必要はないわ。無能の集まりよ、担任教官を含めてね」

 

 モガミの言葉に、部隊全員に動揺が走った。

 

 教官への侮辱は学区内では許されない。

 それをこうもはっきり口にするとは、如何にモガミが最優秀生徒であっても処罰は免れないはずだ。

 

「教官の無能が感染した可能性も考えられるわね」

「隊長、その発言は撤回してください」

 

 声のトーンを落として、ナチが願い出る。

 

 ヘリの中の会話は、司令室に聞こえているはずだ。

 そこには学区一の鬼教官がいる。

 

「私は侮辱や悪口で言ってるわけじゃないのよ。事実を口にしているだけ」

「しかし」

「とりあえずヘリを西に進めて。ユキナ教官のクラスを制圧、それからこっちを叩く。完璧なプランでしょ」

 

 まだ反論しようとするナチの眼前に指を突き付けた。

 思わずナチが反論を飲み込む。 

 

「ミユクラス制圧の際には、貴方に指揮を執ってもらうから。そのつもりでいてね」

 

 後半の作戦には参加しないつもりなのだ。

 あまりに身勝手だが、ナチは自身にとってチャンスと割り切る。

 

「解りました」

 

 かっと踵を合わせて敬礼。

 それからパイロットに向けて告げる。

 

「進路を西に。我々はユキナ教官のクラスを制圧する」

 

 

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